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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
共存の東諸国:馬鹿と狐狸
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東エルクスでの合流

 東エルクスは様々な地形を内包している。

 間所のあった丘陵から、山岳地帯、平原から巨大な湿地。

 俺達はその内の砂漠を進み、そしてオアシスに辿り着いた。

 見渡す限りの不毛地帯の中で唯一の水場。

 砂漠に住む数少ない人々が集う生活の場。

 

 名もないオアシスの街で俺は、謎の乾燥果実をかじり雲1つない上空を見ていた。

 かれこれ3日はこうしている。

 長旅に着かれた体を癒す為の休日……ではない。


「ヒトゥリさーん、今日は広場で砂漠の伝承の劇をするんだって。見に行こうよ」


「ああ、それは面白そうだな。けど残念ながらもう出発だ」


「え? それじゃあフェイさん達も、こっちに着いたの?」


「そうだ。あいつらは事情があってこの街に入れないからな。こっちから会いに行こう」


 俺達はフェイ達の東エルクス到着を待っていた。

 

 東エルクスは西と比べて、人間の社会の中に魔物がある程度溶け込んでいる。

 魔族と呼ばれる存在ではなく、もっと自然に、社会を回す歯車の一部として魔物が組み込まれているのだ。

 人間では住めない過酷な土地を無理やり開拓した末路か、あるいはこちらが人間と魔物の正しい関係なのか。

 ……まあ俺には関係ない事か。


 ところで東エルクスだからと、どこでも魔物を受け入れてはくれない。

 例えば西エルクスの人間が多く通るこのオアシスは、西の文化圏が混じっているので、魔物が足を踏み入れる事を禁止している。

 だから俺の眷属達はこの近くでの合流はできない。

 魔物を排斥しているこの街の近くに、魔物の一団がいたら討伐されてもおかしくないからな。

 俺があいつらを迎えに行かなくてはならない。


 名付けによってフェイの居場所が分かるので、あいつらが東エルクスに辿り着いた時点で俺達が出向かう。

 この時間はその為の待機時間だった。

 だから休日なぞではないのだ。


「それじゃあ旅の再開だ。準備しないと!」


「嬉しそうだな。この街は好みじゃかなかったか? 俺はこの日差し、気に入ったんだが」


「私もだよ。でも東エルクスってもっと広いんでしょ? ここはまだセラフィ王国みたいな場所だし、私は北にある山を見たいんだ。故郷の山とどんな風に違うのか見てみたい!」


「ふぅん」


 山ね。

 こっちの山は連邦と違って幾つもの山が密集してるそうだ。

 どちらかと言うと日本の地形に近く、平原が少なくてその上森に囲まれている。

 クリエにとって過ごしやすい場所ではないだろうが……。

 言うだけ野暮か。


「楽しみだな」


 俺はそれだけ言ってこの街を出発する準備を進めた。



 町を出てから数日、砂漠を北上していくと砂の砂漠と森に挟まれた地形に出る。

 皇国領土を横断してきたフェイとマリー達はそこに集っていた。

 こちらから魔法を使って遠目に確認すると、まだ眷属達は一緒に行動している様だ。

 念話でこれからクリエを連れて行くから、少し離れてほしいと伝えてから坂を越える。

 

「あ、見えた。あそこにいるの、マリーさんとフェイさんだよね!」


 クリエの指した先にはマリー達がキャンプを張っていた。

 ちゃんとフェイ以外の眷属は隠れている様だな。


「ああ。おーい!」


「――ヒトゥリ様ぁあああああああ!」


 手を振って呼びかけると、すごい勢いでフェイが走ってくる。

 というより半ば飛んでないか?


「大丈夫ッスかヒトゥリ様この人間に変な事されなかったスか無事ッスか道中でこの人間となんかいい感じになってアレとかソレとかなかったッスよね――」


 矢継ぎ早にまくし立て、勢いのままに俺の周りをぐるぐる回るフェイ。

 その速さは多分シャルロを越えていた。

 何だこいつしばらく見ない間におかしくなったな。

 もしやマリーに実験体にされて、その影響か?


「落ち着け。この人間じゃなくてクリエだ。それとアレとかソレとか絶対ないから安心しろ」


 クリエは男の子だし俺はそっちの趣味は無い。

 見ろ、クリエだって怯えてるじゃないか。

 ちょっとドン引きしながらフェイをあしらっていると、遅れてやって来たマリーが引きはがした。


「久しぶりね、ヒトゥリ。疑いの目で見てるから答えるけど、その子がおかしいのは私のせいじゃないわよ。確かにちょっと素材を貰ったりはしたけど、おかしくなったのはその子が自力でなった……って言うのも変だけど、とにかく私は関係ないわよ」


 呆れた様子でマリーが答える。

 見た限りでは嘘はついていない。

 となると、こいつがおかしくなった理由が本気で分からなくなった。


「妾が教えてやろう」


「ミュウ、知っているのか」


 マリーに抑えられながらも暴れていたフェイがピタリと動きを止めて顔を上げる。

 目つきも変わり顔も変わり、一目にミュウだと分かる。

 彼女はそっとマリーの手を払いのけると、俺を指差して言った。


「汝が責任じゃ」


 ……俺の、責任。


「何を言ってるんだ。俺はこの数週間、フェイと一度も会ってない。それどころか連絡は必要な時だけで、数日に1回程度だろ。何でそれで俺のせいになるんだ」


 思う所のない俺は全力で反論した。

 負う必要のない責任とか俺は絶対に拒否するぞ。

 

 俺のそんな反応に、ミュウはため息をついて口元を隠した。


「そんなだから自分の眷属がへそを曲げるのじゃ」


「何?」


「フェイはな。自分を置いて旅に出た主を追いかける為に修行をし、やっとの思いでついて行けるだけの力量を身に付けた。そして喜び勇んで主を見つけると、見知らぬ女を隣に侍らせている。少し思う所はあったが、だがこれから一緒に旅ができる。やったーと言った所で、また離ればなれ。そして今度は自分より弱い人間の子供が主の横について旅をするという」


 マリーからクリエと視線を流しながらミュウは語る。

 マリーは気まずそうにはにかみ、クリエは何の事か分からずに首をかしげている。

 俺も何のことだかさっぱりだ。


「主の隣は自分が居てこそと思っていたフェイは苦しんだ。主と離れ、連絡は数日に1度の旅の中、心をすり減らしていった。これでは何の為に修行をしたのか分からない、と。そして出来たのが憐れなコレじゃ……分かったらちょっとは構ってやれ」


「あっ、ちょっと待てミュウ!」


 言いたい事を言うとミュウはさっさと引っ込んでしまった。

 後に出てくるのは勿論この……


「ヒトゥリ様ァアアアアアアア!」


 暴走したドラゴンが1匹。


「やかましい」


 飛びついて来たフェイを弾いて黙らせる。

 うずくまるフェイが涙目で俺を見上げる。

 何だその目は、納得できないか。


「ちょっとほだされて俺が悪いかと思ったけど、やっぱりよく考えたら理由が意味不明だし、俺は悪くない。……まあ、よくここまで着いて来てくれたな。ありがとう」


「お、おお……ヒトゥリ様が私にありがとうと……」


 感極まったのかうずくまったまま泣き出すフェイ。

 なんかDV彼氏に優しくされた彼女みたいで嫌だな。

 

 俺は距離を取ってマリーの所へ行く。

 フェイは放っておこう。

 今の状況じゃ、話を聞けそうにもない。


「マリー、お前達を待っている間に砂漠のオアシスで聞きこんでみたが、異世界人が元の世界に帰ったっていう情報は無かった。フラウロスの話についてもだ。そっちで何か収穫はあったか?」


 オアシスは人の出入りが多い分、新しい情報は洪水の如く溢れているが、古い話はどこに行っても聞けなかった。

 収穫無しという報告がてら、向こうもそうだろうと半ば期待せずに聞いてみたのだが。


「あるわよ。ここから更に北に山があって、そこにある里に転移者を元の世界に帰した伝承があるって聞いたわ」


「本当か!?」


「ええ、ほら。途中で出会った彼らの仲間から話を聞いたのよ」


 そう言ってマリーは視線で丘の向こう側を指した。

 眷属達がいる方角。

 魔物から聞いた話か。

 土着で生きる彼らには口伝での情報は残りやすい。

 信頼度も高いな。


「おいクリエ、お前の言ってた山もすぐに見れるぞ!」


「本当? やった!」


「よし、それじゃあ早速……ってマリーの方の目的も優先しないとな。すまない」


 はやる気持ちを抑えてマリーに頭を下げる。

 この旅は俺だけの物じゃない。

 マリーにだって友人の痕跡を探す目的があるんだ。


「私の目的は今はいいわ。東エルクスは広い。情報を集めるにしても、気長にやらないと身が持たないでしょ」


「それもそうだな。じゃあ俺の目的から当たるとしよう。……ほら、フェイ。何時までうずくまってる。置いて行くぞ」


「あ、待って下さいッス!」


 俺の目的を優先してくれたマリーに感謝しつつ、俺は丘の向こうの眷属達にも後ろからついてくる様に指示を出して北へ進む。

 それにしてもマリーの奴、何かフラウロスの話をしている時も、あまり以前の様な焦りを感じない。

 やはりオーラから話を聞けたのが、気持ちを落ち着けるのに役立ったのだろうか。

 ……俺は結局フラウロスの起こした虐殺について、ほとんど知らないままだな。

 俺からマリーに聞くのも気が引けるし、あっちから話すのを待つしかないか。

この小説を楽しんでくれたら幸いです。


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