短剣より特大剣、特大剣より曲刀
武器屋巡りは楽しい。
何だかんだ言って俺は今まで自分の作った武器や素手、それか聖から奪った刀ぐらいしか使ってこなかったから、武器屋に入るのは初めてだ。
長年冒険者をやってきたジョンの先導で俺達は幾つもの武器屋で、クリエに合う武器を探した。
そこで幾つかの武器を持たせて、クリエには短剣が丁度良いと俺とジョンは判断した。
体の大きさ的にも長柄武器は使えないし、長剣は重すぎる。
だから短剣だ。
「だから短剣は嫌だって言ってるでしょ!」
しかしそう伝えてもクリエは素直に聞き入れない。
どうしても短剣は自分に似合わないと主張し、聞き入れない。
「そんな事言ったってクリエお嬢ちゃんの腕の長さじゃ、重心がなぁ……短剣が嫌ならクロスボウはどうだ? 当てるには慣れが必要だけど、そこまで力は必要ないぜ」
「いーやーっ! 私は剣がいいの! 短剣は冒険者のイメージと違うし、クロスボウだとフィアと被るでしょ!」
クリエは駄々をこね続けている。
スキルを持たないジョンは状況に応じて様々な武器を使い分けているし、その分多種の武器を使いこなせる。
そんなジョンのアドバイスなんだから、素直に受け入れるべきだと思う。
「とりあえずクリエ、その剣はお前には無理だ。デカすぎる」
ひとまず俺は巨大な剣に手を当てるクリエを引き戻して、なだめる。
「お前が欲しいって言ってる武器は、大人でも使いづらい大剣だ。そんなのジョンでも使えない」
「そうなの? ジョンさん」
「む……なんだとヒトゥリ、これくらい俺だったら簡単だぜ」
そう言ってジョンはクリエがもたれ掛かっていた剣を、片手で持ち上げる。
このゴリラエルフが……。
「ほら、見てよ! ジョンさんだって持ち上げられるんだよ。私だってすぐに成長して、持てる様になるって」
クリエが勢いを取り戻す。
さすがのジョンも気付いて、悪い事をしたとこちらを見て頭を下げる。
まったく。
「そうだとしても、今は持てないだろ。これから、この旅で使う武器を探してるんだから、今使える武器じゃないと意味がない。大人しくジョンが勧めた短剣にしとけって」
「えー……」
これだけ根気強く説得したおかげか、クリエは渋々ながらも納得してくれそうだ。
こういう所は子供っぽいな。
きっとフィアにとってクリエがこういうイメージなんだろうけど。
「とっとと買ってしまおう。ジョン、よろしく頼む。……ジョン?」
ジョンは目を瞑って唸っている。
なんだ、謎の力にでも目覚めたのか。
「よっしゃ思いついたぞ! クリエもヒトゥリも納得する答えを。間を取って曲刀にするってのはどうだ」
「ジョン、それは無いだろ」
「えっ」
俺も考えはしたがその案は間を取れてないし、そもそも筋力の問題は間を取ったからと言って解決する物でもない。
第一クリエがそれで納得するはずない。
クリエだって俺の横で曲刀を睨んで――
「アリ!」
「ほら、クリエだってこう言ってるじゃないか……あれ?」
「これもかっこいいよ。見てほら、すごい反ってる!」
「……そうか」
微妙な顔の俺を残し、ジョンとクリエは支払いを終えてさっさと店を出て行った。
クリエが納得したらなら、俺は別にいいんだけど。
一応短剣を買って、後を追って俺も店を出る
早速クリエはジョンに買って貰った曲刀を腰に差している。
誇らしげだけど、ちゃんと使えるんだろうか。
使えなかったら俺が買った短剣を渡してやろう。
「という訳で何もない広場に来たんだが。これはどういう事だ? ジョン」
「どうって不思議な所はないだろ? ただクリエちゃんが曲刀を振り回してるだけだ」
それがおかしい。
クリエが俺達の前で見事な曲刀さばきを見せている。
曲刀の長さは大体1m、クリエの大きさはその1.5倍もないくらいだ。
体の大きさと武器の重さからして、曲刀の重さに振り回されてもおかしくはないのに。
「まあ言わんとする事は解るさ。ヒューマンやエルフの子なら無理だが、あの子は獣人だからな。身体能力やバネの強さで振るう事はできるんだぜ」
「なるほ……待て、じゃあなんで短剣を勧めたんだ。最初から曲刀で良かったじゃないか」
「本当なら曲刀は片手で振って、もう片方に盾を構えるもんだ。あれじゃ大振りで隙だらけだからな。短剣なら獣人の身体能力を活かして、動きながら攻撃できるだろ」
曲刀が陽光を反射して、振り下ろされる。
確かにあの動きは大分遅い。
戦いに慣れた魔物なら見てからでも回避ができるだろう。
「しかもクリエちゃんは両手でやっと振るえるだけだからな。力で叩き割ったり技で斬り裂く事もできない。曲刀は俺の経験上、取り合えず当てれば斬れる。だから曲刀がいいんだ」
それで曲刀ねえ……。
当たれば致命傷を与えられるんなら、防衛にはなるか。
相手に恐怖を引き起こしてやれば、逃げる時間は稼げるだろうし。
じゃあこの短剣はいらないな。
その言葉と共に短剣を鞄に押し込んだ。
「ヒトゥリさん、ジョンさん。剣技教えてよ。私、振り方はもう分ったから!」
クリエがこちらに手を振っている。
汗をかいて楽しそうだ。
戦闘の素養があるから成長が早いな。
「俺の剣技はスキルだよりだから教えられないな。ジョン、教えてやってくれ」
「おう、分かったぜ。俺もたまに支給品を使うくらいだから、そこまで期待されると困るけどなっと」
クリエにジョンがポーズを取って剣技を教えている。
道中は俺が教えるとして、初めをジョンが教えるなら変な癖はつかないだろ。
「それじゃあ、色々ありがとうなジョン。助かったよ。ほら、クリエも礼を言うんだ」
「ジョンさん。曲刀ありがとう、大切にするね」
「おう、クリエちゃん。ちゃんと俺の言った事を守るんだぞ。教えられたのは基礎的な振り方だけったが、それが一番重要だからな。それとヒトゥリ、構わねえよ。お前には王都で世話になったからな」
俺達は握手をした。
お互いの冒険の無事を祈って。
と、同時にジョンがこっそり俺に話しかける。
「ヒトゥリ、お前武器屋でクリエちゃんに短剣買ってやろうとしてただろ? プレゼントはちゃんと渡した方が良いぜ。喜ぶ」
「何で知って……これはプレゼントじゃないし、こんな物渡しても喜ばないだろ。女の子は」
俺がそう誤魔化すと、ジョンは真剣な目で俺を見た。
「クリエちゃんは男の子だろ?」
こいつ気付いていたのか。
「本人には言うなよ。複雑な事情がある」
「言うわけねえよ。ただ1つだけ、お前の方に言っておくが……心の傷は早く治してやらないと膿になるぜ」
苦々しい。
俺には負い目がある。
クリエの状況を考えても簡単に踏み込めないんだ。
「余計なお世話だ。他人の心配よりも自分の心配をしとけよ。お前がこれから行くのは未知の大陸なんだ。他の事に気を取られていたら無事じゃ済まんぞ」
「……そうだったかもな。悪い。忘れてくれ。俺は俺とユリヤの為に頑張らねえとな。お前にも目的があるんだろうしよ。頑張ってくれよな」
「ああ」
その言葉で俺達は別れた。
俺とクリエは東エルクスの丘陵を、マリー達との合流先へ発った。
合流まであと数日もかからない。
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