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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
共存の東諸国:馬鹿と狐狸
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関所越え

 関所の門の前に立ち、その威容を見上げる。

 国境を守護する門は国外からの脅威から、内部を遠ざける為に重厚で、そして寡黙だった。

 だが今の俺に目を向ける者は誰もいない。

 道を行く商人も、目を光らせる兵も、空を行く鳥だって俺の姿を認識できない。

 それが『透明化』の力だ。


「結局こういう簡単な手か……手の込んだ事をする必要もないんだけど、少し勿体ない気もするな」


 せっかくのチャンスだから色々なスキルを試してみたかったが、ジョンとクリエを待たせているので万が一にも騒ぎになると、2人を困らせてしまう。

 それは本意じゃないしな。


 門の前まで来た状態で、脚に力を溜めて飛び上がる。

 門を通る審査には魔力検知の魔道具も備わっている。

 そのまま通ると、露出した魔力で何かが通った事が知られてしまうからな。

 だから透明で姿を見られないまま、こうして門の上を行く。

 

「……異常なし」


 門の上で眼下を監視する兵の真横を通り抜ける。

 ……しかし良い眺めだ。

 平地だから高い所に登ると、東エルクスの地平線がどこまでも続いて行くのが見える。


 感傷はほどほどにしておいて下に降りよう。

 そのまま門から飛び降りて、壁で減速しつつ落下、そして着地。

 無事に門の向こう側について、人混みに紛れた所で『透明化』を解除。

 

 香辛料の独特な香りが鼻を突く。

 ここから先はセラフィ王国の外、東エルクス諸国と呼ばれる地域だ。

 まずは2人と合流しよう。



「待たせたな2人とも。ジョン、クリエを預かってくれてありがとう。助かった」


「おうヒトゥリ、もういいのか。早かったな」


 疲れた旅人に軽食と飲み物を提供する、カフェみたいな場所。

 そこに2人はいた。

 適当に魔力を検知する魔法を使えば、この程度。


「ヒトゥリさん! 今話してたの。これから先しばらくジョンさん達と一緒に旅をしようって。ねえ、いいでしょ?」


 席に座った俺にいきなりクリエが頼み込む。

 一緒に旅か、人数が多く装備もしっかりしている分、子供との2人旅よりかは安全だろう。

 確かに俺もそう考えていた。

 ムラクモと契約を結ぶまでは。

 ライブラリア開拓団に関わらない契約を結んだ今、ジョン達と一緒に旅はできない。


「どうだヒトゥリ。悪い案じゃないだろ? お前も今回みたいにクリエちゃん1人放って、どっか行く用事もできるかもしれないんだしよ」


「いや、残念だけど断るよ」


「えっなんで?」


 クリエが信じられない言葉を聞いたが如く聞き返す。


「クリエ、俺達はマリーと合流しないといけない。その合流場所は他の人達には知られない様に秘密にしてるだろ?」


「あ、そっか」


 半分嘘だ。

 魔物であるオーガ達はともかく、マリーやフェイとの合流場所は一般的な人間が立ち入れる街にしてある。

 別に知られても問題はない。

 ただクリエが誰彼構わずマリーや俺の名前を出してしまうと、指名手配されていた時に対処できないから秘密にしろと伝えていただけだ。

 だからジョンやライブラリア開拓団が知ったとしても問題ない。


「ふーん、そうかい。それは残念だ。まあ誘ってみただけだし、良いんだけどな。……だが、これだけは言っておかなきゃならねえ」


 ジョンは背筋を立てて、俺に指差した。

 無礼な奴だ。

 こいつに物を言われる筋合いはないはずだが。


「クリエちゃんと話して分かったんだが。ヒトゥリ、お前この子に戦う術を教えてねえだろ」


「ん? ……ああ、そうだったか。旅の仕方は数日間一緒にいる内に教えたけど、そっちはまだか」


「そうだ、私も忘れてた。初めて見る物がいっぱいだったし、野営の仕方とかの方が面白いんだもん」


 クリエの言葉にジョンは頭を掻いて、仕方なさそうにほほ笑んだ。


「クリエちゃんはそれでいいんだ。でもヒトゥリ、お前は駄目だろ。クリエちゃんはまだ子供で女の子だ。何かあった時に1人で場を切り抜けるだけの手段くらい教えとかねえと、まずいだろ」


 クリエはフィアで、男で、1人で戦えるくらい強いけどな。

 ……なんて言えるはずもないか。

 まあ実際襲撃を受けた時に反撃出来たとはいえ、また同じことが起きた時に内に閉じこもっているフィアが出てきてくれるとは限らない。

 素面で戦う方法を教えるべき、か。


「そうだ、そうだったな。色々急いでいたんで忘れる所だった。重ねて感謝するぞ、ジョン」


「ふ、なあに良いって事よ。そして感謝するなら、もういっちょ善意の押し売りだ。クリエちゃんは見たとこ、武器を持ってないよな? 俺が買ってやるよ」


「本当!? やった、ありがとうジョンさん! 私、剣がいい!」


「良いのか? 故郷の恋人の為に金を溜めているんじゃなかったのか」


 思わず俺がそう聞いてしまうと、ジョンは遠い目をして小声で俺に聞こえる様に呟いた。


「ユリヤ……いや、いいのさ。今回の護衛が上手く行けば、王都の周りに土地が買えるくらいの金貨が手に入る。それに、あの国のせいで家族を失った子の為になると思えば安いもんよ」


 そうか。

 なら買ってもらおう。

 罪滅ぼしではないだろうが、同じ様に皇国に虐げられた境遇のクリエに同情する気持ちもあるのだろう。


「それじゃ、剣だったな。任せな、良い剣を見繕ってやるよ!」


「お願いします!」


 先導するジョンに拳を振り上げてついて行くクリエ。

 それにしても剣か。

 元のクリエの嗜好を真似したんだろうが、ナイフやクロスボウを使っていた人間が使いこなせるだろうか。

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