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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
共存の東諸国:馬鹿と狐狸
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崖沿いの道を行く

 明朝、朝日の昇る頃俺達はポートポールから東に数百キロ離れた山岳地帯を歩いていた。

 崖沿いの道を幾両かの馬車とすれ違う。

 彼らは俺達が来た方向にある、もう1つの港町ライラバーに行くのだろう。

 あそこには王都へ繋がる一方通行の水路がある。

 滝のようになっているそれは、一見水が下へ落ちている様に見えるが実際は上へ昇っている。

 土地の魔力だか、大昔の賢者だか魔物だかが使った魔法の影響かでそうなっているらしいが、やはり詳しい事は伝わっていない。

 竜戦争の影響で資料が消えたのだろうし、俺もこの世界にごまんとある不可思議な地形の全てを記憶している訳ではない。

 一度見て見たかったし、クリエにも見せたかったが、あんな事があったのだから俺達は先を急がなくてはならないだろう。


「クリエ、昨日はまともに休めなかっただろうが、大丈夫か?」


「うん、私は大丈夫。それよりも何があったの、ヒトゥリさん? 起きたらもう宿でもなかったし、ライラバーを通り過ぎてるし訳わかんないよ」


「ちょっと急ぐ理由が出来たんだ。昔の知り合いの知り合いというか……面倒な奴らに追われそうになったから、俺の魔法を使って長距離移動をした。クリエが心配する必要はない。ポートポールやライラバーの観光をさせられなかったのは申し訳ないが……」


 本当は眠っているクリエを背中に乗せて、ドラゴン形態に戻ってライラバーの上空を通り過ぎたんだが、これは秘密にしておこう。

 

「ううん、それは別にいいよ。だって私がしたいのは冒険であって観光じゃないもん。ゆっくり全部の都市を見て回るなんて、貴族のお嬢様みたいな事がしたいんじゃないよ」


「そうか、それなら良かった。……俺はちょっと考え事をするから黙るぞ」


「分かった。私景色見ながら歩いてるから、遅れないでね」


 人通りの多いここなら、昨夜の様に襲撃してくる奴らもいないだろう。

 俺の先を歩くクリエを見守りながら、『念話』を発動させる。

 オーラから貰ったスキルブックによれば『念話』の範囲は少し特殊で、目の前の数mか自分の知っている相手のどちらかだ。

 距離が開く程その効果は弱まるが、精神的に近しい人物であればその減衰も軽減される。

 さて、ここからあの2人に繋がればいいんだが。


(マリー、フェイ聞こえるか)


(その声、ヒトゥリ? というか声っていうよりも、直接頭に聞こえているような)


(ヒトゥリ様、聞こえてるッスよ! 近くにいるッスか?)


 よし、2人にしっかりとこちらの思念は届いているようだ。

 向こうの思念も受信できている。


(今『念話』というスキルで直接頭の中の考えを、そっちに飛ばしている。ああ、フェイ。そっちの考えもここにいる全員に飛ばせる様にしてるから、声を出す必要はないぞ)


(いつの間にこんな……。あ、『千業万魔』の効果ね。やっぱりそのスキル、研究したいわ。どういう原理でスキルを再現しているのか解析できれば、スキルを魔法で再現する方法も分かるはず……)


 ブツブツと呟くマリーの思念が俺達にも流れる。

 ……これは少し調整が必要だな。


(うわっ。難しい話は分からないッス! これ以上流されると頭がパンクしちゃうッスよ!)


(俺も同じだ気分だ。研究は協力するから合流したら勝手にやってくれ。それより今はそちらの進捗を聞いておきたい。どうだ?)


 マリーから流れる思念がピタリと止まる。

 よし、今の内に微弱な思念は感知しないようにして……これで良いだろう。

 

(……あー、こっちは無事に天業竜山から下山できたわ。オーラから話は聞けたけど、フラウロスの居場所は不明。どうやらエクシードスキルを持っている相手の情報は、例え名付け親でもスキルの管理者でも分からない様になっているらしいわ)


(こっちもヒトゥリ様の眷属全員と移動を続けてるッス。神聖国を迂回して進んでるから、あと半分ってとこッスかね)


(分かった。2人とも無事に合流地点まで来れそうだな。これから定期的に連絡を取るから、問題があったら教えてくれ)


 返事を聞き、2人との念話を切断する。

 連絡手段はこれで安定したな。

 今の所不便なのは、俺の方からしか連絡が取れない事だが、それは後々マリーが何か発明してくれるだろう。

 ……してくれるだろうか?

 フラウロスの事で大分忙しそうだし、無理かもな。


 と、俺が考えている時だった。


(ヒトゥリよ。少し良いか)


 頭の中に少し大人びた雰囲気の女性の声が届く。


(その声はミュウ? どうやって念話をしたんだ。こっちからは届けていないはずだが)


(歳を取っていれば、この程度の魔法の1つや2つ再現できる。マリーとかいう若いのも言わんだけで少し練習すれば妾くらいに自在に念話ができるようになるじゃろう)


 そうなのか。

 『念話』の再現なんて俺の魔法知識じゃ到底無理なのに。

 ……ああ良いなぁ。

 こういう所に世界の広さを感じる。

 そうだ、俺はまだこの世界に来て1年も経っていないんだ。

 まだまだ面白そうな事は多いな。


(それで本題じゃが。汝はオーラ達、天業竜に対してこれからどのような立場になるつもりじゃ?)


(どのようにって……どういう事だ?)


(どういう事も何もないじゃろ。ドラゴンの娘に言われたんじゃろう? 汝は天業竜と敵対したと。であれば、積極的に攻撃するのか、消極的に逃げに徹するかのか。どちらかじゃろう)


(それは……)




 1週間前、俺は天業竜山の麓に仲間と共に辿り着いた。

 樹海には数日ぶりだったが、山に登るのは数カ月ぶりだった。


「気分はどうヒトゥリ? 貴方にとっては久しぶりの実家帰りみたいな物でしょ?」


「ああ、うん。良くはないかな」


 俺にとっては実家帰りどころか辞表を提出した会社に、また取引先として訪問したくらいの気分だ。

 この時の俺は意気揚々と上へ登ろうとするマリーに対して、クリエの面倒を見るから下で待っていると言おうとしていた。

 だがその必要は無かった。

 俺が天業竜山に足を一歩踏み出したその瞬間に、上空からドラゴンが1頭降って来た。


「ヒトゥリ……悪いが君を天業竜山に立ち入らせる訳にはいかない」


 青の鱗を持つフレイムドラゴン、ルルドピーンだ。

 空から、俺と山を隔てる様に、間に降り立つ。

 その登場の仕方よりも、俺は彼女の言葉に衝撃を受けた。


「俺はこの山に入れないってどういう事だ。出発の時にオーラ様はそんな事言ってなかっただろう?」


 話しながら足をもう一歩分だけ前に出す。

 それと同時に鋭い視線が飛んでくる。

 ルルドピーンは本気だ。

 どうやら何かの遊びや謎かけではなく、本当に俺はこの山に入れないらしい。


「……別に俺はこの山に入れなくてもいいが、理由を聞かせてもらおうか。俺の仲間がこの山に用があるんだ」


 俺がそう言うと、ルルドピーンはマリーを見る。

 そして体を少し横にずらすと、こう告げた。


「錬金術師のマリー・ヘルメス・マグヌスだな。オーラ様から君は通す様に言われている。通さない様に言われたのは君だけだ、ヒトゥリ」


 こちらを振り向くマリーに、心配ないと伝えて先に行かす様に促す。

 しかしそれに反して、マリーは俺の元へと帰って来た。


「私がどうするかは仲間の事情を聞いてからにするわ。そうじゃないと、後悔する事になるかもしれないもの」


「そうか……じゃあ聞かせてくれ、ルルドピーン」


「分かった」


 ルルドピーンは一度目を瞑って体から力を抜いて、それからようやく話し始めた。

 義理堅い彼女は、同郷の俺と敵対しなくて良かった、とでも考えているのかもしれない。

 まあ敵対するかどうかも説明の内容によるのだが。


「――と、以上の経緯からオーラ様は君を天業竜山から追放し、天業竜と見なさなくなった。つまりこれは君が世界の管理者としての資格を失い、世界の理に反逆する者になった事を意味する」


 そうだった。

 ルルドピーンは几帳面故に説明が長く、細かく、そして堅苦しい。

 説明が終わる頃には俺達の緊張感も消え失せていた。


「なんだ……簡単に纏めると、俺が忠告を無視して『欲望の繭』を羽化させてエクシードスキルを獲得したから天業竜として認めるわけにはいかなくなったって事か」


「そうだ。私もオーラ様に頼み込み聞かせて頂いたが、エクシードスキルは世界の理から外れる異常なスキル。そしてオーラ様でも管理できない代物だ。世界の歪みのようなそれを、天業竜が許容する事はない」


 なるほどな、俺は一応納得できた。

 だがマリーはどうだろう。

 ちらりと横を見ると、マリーは真剣な顔をしていた。

 まさか仲間を追放するのが許せないとか、あるいはこの件と同じ事がフラウロスにも起きていると考え憤っているのか。


「『欲望の繭』……エクシードスキル。天業竜にも許容できない、オーラにも管理ができない? それはつまりそれより上位の存在に関連する……」


 違った。

 考えているのはエクシードスキルの方か。

 いや、フラウロスもそれを持っているっぽいから、フラウロスが関係していると言えば関係しているんだが。


「……それじゃ、俺はここで引き下がる。元から帰るのにそんなに乗り気じゃなかったし。ルルドピーン、マリーを上まで運んでやってくれると助かる。俺が運ぶつもりだったからな」


「ヒトゥリ、君が出発した時と言い私は君の役に立てずに申し訳……いや、謝罪はよそう。これは私の使命で、私が背負うべき責任だ」


「気にする事はない。俺も大して気にしてないからな」


「ヒトゥリ……」


 見るからにしょんぼりするルルドピーンが気にしない様に、本音を伝えると心なしか彼女は悲しそうに笑ったように見えた。

 ドラゴンの表情はやはり分からないが。

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