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ドラゴンリベレーション  作者: 山田康介
憎悪の国境線:無辜の少年と敗残兵
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再出発

 シルバーウッドに滞在して1日。

 俺達はコルク村の難民と話を終えた。

 彼らはコルク村を再建する目途が立たなかったので、しばらくの間こちらで仕事を探しつつ金を貯え元住民が集まるのを待つ……みたいな事を言っていた。


「ヒトゥリさん、マリーさん! ありがとうございました、我々コルク村の住人は御恩を忘れません!」


 村の代表となった男性が街を発つ俺達に頭を下げる。

 しかし俺にはどうも彼らがコルク村を再建できるとは思えない。

 戦争に行ったせいで少ない若者、虐殺のせいで減った働き手、そもそも彼らには街を引っ張れるだけの有能な人物がいなかった。

 すでに引退すべき歳のあの村長が、後継者を見つけられなかった時点で詰んでいる。

 まあ俺の血のせいで国境線が汚染されて物理的に通れなくなって停戦状態、連邦国もそこまで切迫した状態ではないから悪い様にはならないだろう。


「これからよろしくね! ヒトゥリさん、マリーさんと……知らないお姉さん!」


「本当にこの子供連れていく気ッスか? やっぱ反対ッス! こんなただの獣人族の子供なんて足手まといになるだけッスよ!」


 フェイが握手の為に手を差し出してきたクリエを抱えて、訴えかける様に俺に差し出してくる。

 やめるのだ、人を物のように扱うのは。


「別にいいだろ。俺達は過酷な旅をする冒険者じゃないし、急いでいるわけでもない。それにフィ……クリエはしっかり戦える。俺が保証するぞ」


「ぐ……ヒトゥリ様がそう言うなら分かったッス。でもこいつは人間、絶対にヒトゥリ様の眷属としては認めないッスよ!」


「それは大丈夫だ。最初から眷属にするつもりないから」


 それにこの子がこうなったのには少なからず俺に責任がある。

 クリエの元の名前はフィアウェルだ。

 あの惨劇で死んでしまったのが自分なら良かったのに――そんな罪の意識がフィアウェルの精神を壊し、クリエの皮を被って動いている。

 それに対する村人達の反応は薄情な物だった。

 村が焼かれてから最初の内は同情的な態度を取っていたが、次第に扱いは杜撰になり、この街に来る頃には厄介者を見る目に変わっていたらしい。

 では、それで村人達がクリエを俺達に押し付けたのかというと、それは違う。

 むしろ意外な事に引き取ると言い出したのはマリーだった。


「冒険者になるっていう夢とは少し違うかもだけど、私達と一緒に来たら世界を見て回れるもんねー?」


「うん! 東エルクスも、ライブラリアも、死の大陸も全部回るのよ!」


 フェイに持ち上げられたクリエを受け取り、笑いかけるマリー。

 その笑顔の真意は分からない。

 クリエを預かると言い出したその日に、問いただしてみたが『あまりにも可哀想だったし、自分達にも責任があるから』と返してきた。

 それは嘘ではないのだろうが、真実はおそらく本心の三分の一程度だろう。

 村人の人生に無節操に肩入れする気はないのは確かだろう。

 やろうと思えば俺もマリーも、村人達が過ごせるだけの復興をするくらい1日でできるからな。


「ふっ母性、か……」


「なんだって、ミュウ?」


「母性じゃよ。見れば分かるじゃろう? 優しく見守る瞳に、しっかりと抱き上げる腕、頭をそっと撫でる掌、それらを見れば母性が芽生えた事は一目瞭然じゃ」


 ミュウの視線の先でマリーがクリエと戯れている。

 よく見れば言う通りにマリーからは母性が……やっぱり感じられないな。

 表面的には母性に見えるのかもしれないが、どうもそれはコルク村に居た時に本当のクリエに向けられた好奇心と姉ごっこの域を出ていない。

 と、多分そう思う。


「……仲良くしてくれるなら、それに越したことはないか。お前も早くクリエに慣れろよ、これから長い間旅をするんだから」


「え、それは私に言ってるッスか、ヒトゥリ様」


 くるりとミュウからフェイに移り変わり、とぼけた顔で自分を指差す。

 当たり前だろう。

 他に誰がいると言うのか。


「この中で一番人間社会に慣れてないのはお前だろ? せめて仲間にぐらいは慣れてもらわないと、旅の途中で喧嘩するのは辛いだろうよ」


 そう俺が指摘した途端にフェイの口角が上がっていく。


「ふっふっふっ。お忘れのようッスね。……ヒトゥリ様に人間文化について教えたのは私だという事を!」


 ああ、そう言えばそうだった。

 天業山の樹海で人間の言語や生活、道具について教えてくれたのはフェイだった。

 だったら俺よりも人間社会について知ってるか。

 要らない心配をしてしまった。


「そう言えばそうだった。すまん。それじゃあ旅や人間社会には慣れてるんだな」


「はい、任せて下さいッス! これでも数十年前までは各地を人間に追われながら旅していたッスから!」


 旅をしていたのは数十年前か。

 人間の寿命は長くてもエルフの300年、ヒューマンやドワーフに至っては100年くらいだ。

 大体ヒューマンの人生1つ分の空白か。

 それも人間化を覚えたのは最近で、それまでの旅はドラゴンとしての快適な空の旅だろうし。


「……ああ、まあ頑張ってくれ!」


 こうして俺は眷属のフェイ、その恩人の吸血鬼ミュウの魂、相棒の錬金術師マリー、そして自分をクリエだと思い込んでいる狼獣人フィアの4人の仲間と旅を再開した。

 最初は1人で旅をするつもりだったのに、急に同行者が増えてしまった。

 目的も俺の【楽しめる物】を探すに大きすぎる物が加わってしまった。

 出発とは大きくかけ離れた地点に来てしまったが、後悔はない。

 俺はあいつを元の世界に返して、そうして初めてまたこの世界を楽しめる。

 それを為すには1人なんて無理だ。

 仲間がもっと沢山必要だ。


 次の行き先は天業山。

 俺もマリーも今はそこに目的がある。

 マリーはフラウロスの事をオーラに聞く為に、そして俺は里帰り……というよりも眷属に会いに行く。

 幸い東エルクスは、知性のある魔物と対等に接する文化だと聞く。

 向こうで活動するなら眷属達が、きっと活躍してくれるだろう。

 

 待ってろ聖。

 お前はもう俺の事を許さないかもしれない。

 それでも俺はお前の為に、お前を元の世界に送り返す。

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