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寒い時には温かいココアです

 私が目を覚ますと、となりに寝ていたティアナがいなかった。私はやっぱりと思って起き上がった。もう一つのベッドのセネカたちはよく寝ている。私はダウンジャケットを着込むと、外に出た。予想通りティアナは外の芝生に体育座りして夜空の星を眺めていた。私はティアナに声をかける。


「ティアナ、眠れないの?」


 私の問いにティアナは夜空から視線を離さず首を振る。私はティアナの肩に触れる。どのくらい外にいたのだろうか、ティアナの身体は冷え切っていた。私はティアナにピンクのダウンジャケットを着せ、レジャーシートに座らせる。私はお湯の入ったポットと、マグカップを出し、ココアの粉末を入れる。マグカップにお湯を注ぎ、マシュマロを浮かべる。小さなスプーンを入れてティアナに渡す。熱いから気をつけてと言うと、ティアナはコクリと頷いてマグカップにフゥッと息を吹きかけた。私もココアを一口飲む、温かい甘みがお腹を温めてくれる。私は夜空の星を眺めながらティアナに言った。


「ティアナはとっても勇気があるのね。例え未来が見えたとしても、誰かを守るために自分を犠牲にするなんて、中々できないわ」


 ティアナはポツリと答えた。


「あの子は心配してくれる親がいるもの。あの子とあたし、どっちが助かったほうが喜ばれるかわかるからよ」


 私は胸が苦しくなった。ティアナの心は空っぽなのだ。嬉しさも、悲しさも、今のティアナには何もないのだ。私はティアナに向き直って聞いた。


「ねぇ、ティアナのお母さんてどんな人?」


 ティアナはしばらく考えてから話し出した。


「ママはとても綺麗で優しかった。でもいつも悲しそうだった。ママはあたしにお料理やお掃除をしきりに覚えさせたがったわ。きっとあたしが奴隷になる事が分かっていたのね。でもあたしは贅沢に育てられたから、お料理やお掃除を嫌がったわ。あの時のあたしは本当にバカだった、パパがあたしを売るなんて考えもしなかった」

「パパは人間なんでしょ?」


 私の問いにティアナはうなずいて答える。


「パパは裕福な貴族の息子だったわ。自分では働いた事もない人間だった。パパは美しい獣人のコレクターだったの、その中でママはパパの一番のお気に入りだった。パパはあたしをとても可愛がってくれたわ。でも今思うと、ペットとして可愛がっていたのね。しばらくしてママは別のコレクターに売られたわ。ママは売られる日に、パパに泣きながら頼んでいたわ、どうかあたしを売らないで、ずっと側において可愛いがってと。あたしも泣きながらパパに頼んだわ、ママを売らないでと、でもパパはあたしの言う事は何でも聞いてくれたのに、それだけは叶えてくれなかった。その後パパは放蕩がすぎて、自分の両親から勘当されたの。あたしも一緒に追い出されたわ」

「お父さんのご両親なら、ティアナのおじいさんとおばあさんでしょ?」


 私が驚いて口をはさむと、ティアナは自嘲気味に笑いながら言った。


「パパの両親はあたしをうとましく思っていたわ。人間と獣人のあいの子なんてけがらわしいと言っていたわ。パパは今まで働いた事がなかったから、すぐに持っていたお金を使い切って、無一文になってしまった。パパは最後にあたしに言ったの、ティアナ最後にパパに親孝行してくれって。金銭感覚のないパパは奴隷商人に騙されて、あたしを金貨五枚で売ったわ」


 私はたまらなくなりティアナを抱きしめた。ティアナはまるで人形のようにされるがままだった。私はティアナに言った。


「ねぇティアナ、あなたさえよければ私たちと一緒に来ない?セネカとヒミカのお母さんを探すの。それで、もしセネカたちのお母さんが見つかったら、その時は私と一緒にいようよ」

「もみじは異世界の人間じゃない、いずれあたしの側からいなくなるんだわ」


 私はギクリとした。確かに私がこの世界にいるのはセネカとヒミカのお母さんを探したいからだ。そして、その目的が果たされたら、私は元の世界に帰る方法を探すつもりだ。だけど、それはティアナが幸せに暮らせるメドがついてからだ。ずるい大人の私はティアナの言葉に答えられなかった。ただティアナをギュッと抱きしめたままだった。それからティアナの身体から力が抜けて、私によりかかってきた。ココアを飲んで暖かくなったからか、ティアナは眠ってしまった。


 私はティアナを抱き上げ、レジャーシートやポットを消した。私が部屋に戻ろうとすると、ティアナが小さな声で呟いた。ママ、と。私は抱き上げたティアナを強く抱きしめた。どうか夢の中で、ティアナがお母さんに会えますようにと、願いを込めて。私はティアナをベッドに寝かせ、ダウンジャケットを消した。そして、首元まで毛布をかけてやる。私はある考えが浮かんだ、ティアナに元気になってもらいたい。そうだ、明日はバーベキューをしよう。私はそう決めると目を閉じて眠りについた。



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