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お母さんの味です

 大分長距離を走り、山を二つ越えた所の平野で、セネカとヒミカは、抱いていた私とティアナを下ろしてくれた。もうここまで来れば兵士たちも追っては来ないだろう。私はホッとしてセネカとヒミカにお礼を言う。するとセネカのお腹がグウッと鳴った。もう日が陰ってきている。早く夕食の準備をしなければ、私はうつむいたままのティアナの側にしゃがみ込んで、彼女に聞いた。何か食べたい料理はあるかと。ティアナは少し考えてからポツリと言った。


「ママが、作ってくれたお野菜を煮た料理が食べたい」


 私はできるだけティアナがお母さんに作ってもらったお料理を再現したくて、ティアナに詳しくお野菜の種類や味を聞いた。聞いてみるとフランスの家庭料理、ラタトゥイユのようなものらしい。お野菜の嫌いなティアナの事を心配して、お母さんがよく作ってくれたようだ。セネカとヒミカは肉が食べたいとリクエスト。


 ようし、と私は袖をまくってかまどを出した。最初は大きな牛肉ブロックのかたまりを出す。塩、コショウをこれでもかとふりかけてから、その表面にオリーブオイルをまんべんなくかける。そして熱したフライパンに、表面に焼き色がしっかりつくまで強火で焼く。肉の旨みを中に閉じ込めるのだ。それから焼き色がついた牛肉をアルミホイルでふわりと包む。そのまま四十分放置。フライパンに残った肉汁はソースに使うのでとって置く。次にトマト、ナス、ズッキーニ、パプリカを出す。トマトは湯むきして、細かく切って鍋に入れて煮詰める。次にパプリカを食べやすい大きさに切ってフライパンに入れ、オリーブオイルで炒めてからトマトの鍋に入れる。次にズッキーニを切って、軽く塩を振り、水分をキッチンペーパーで吸い取ってから、やはりオリーブオイルで炒める。ナスも同様。お野菜の火の通り方が違うから、面倒だけど個々に炒める。ズッキーニもナスもトマトの鍋に入れて煮る。本来はニンニクと玉ねぎも入れるのだが、ティアナに聞くと、やはりお母さんはティアナの身体を気にして入れていなかったようだ。私はコンソメを入れるのだが、今回はできるだけティアナのお母さんが作ったお料理に近づけたいので塩、コショウ、ローリエしか入れない。弱火にして二十分ほど煮てからよく蒸らす。放置していた牛かたまり肉を薄くスライスする。そしてフライパンに残っていた油に、バター、醤油を加えてソースを作る。ローストビーフの完成だ。そして蒸らしてあったラタトゥイユを個々の器に盛る。


 私はテーブルとイスを四脚出す。辺りは大分暗くなってきたのでランプをテーブルの中央に置く。パンはフランスパンを出す。表面はパリッとしていて、中はモチモチしているパンだ。それをパンナイフで薄く切る。みんなで席につくと、いつものようにいただきますをする。ティアナも見よう見まねでやってくれた。


 ティアナがラタトゥイユをスプーンですくって口に入れる。私は緊張していた、どうかティアナのお母さんのお料理と似ていますようにと。ティアナは一口食べるとハッとしたような顔になり、そして苦しそうに顔をゆがめた。ティアナの綺麗な瞳からはポロポロと涙があふれた。ティアナはポツリとママと言った。私はたまらなくなり、席を立ってティアナの側に来ると、ティアナを胸に抱きしめた。ティアナの泣き声はだんだんと大きくなった。ママ、ママと悲痛な声で呼び続ける。その場にいない大好きな人を。いつもはお料理が目の前にあったら瞬時に食らいつくセネカとヒミカは、微動だにせず、ただじっとしていた。セネカたちも同じだからだ。ティアナの気持ちは痛いほどわかるだろう。それはティアナの涙が止まり、彼女が落ち着くまで続いた。私は冷たいタオルを出して、熱を持ったティアナのまぶたに当ててやった。そして笑顔で言った。さぁご飯を食べよう、と。


 私はまずラタトゥイユをひとさじすくって口に入れた。トマトの甘い酸味と、煮込まれ柔らかくなった野菜が口の中に広がった。美味しい、手間をかければ少ない調味料でも美味しくできるのだ。次にローストビーフを食べる。柔らかくてジューシーなお肉に濃厚なソースがからんで美味しかった。私はフランスパンのバケットにラタトゥイユやローストビーフを乗せて食べたりした。それを見たセネカたちも真似をしていた。私は食後にババロアのデザートを出し、セネカたちは満足してくれたようだ。


 食事の片づけが終わったら、私は地面に手をついて目をつぶった。すると目の前に大きな建物が現れた。私の住んでいたマンションの一室だ。セネカとヒミカはすぐにドアを開けて中に入る。私は目をパチクリさせているティアナを促して中に入った。ランプでワンルームの室内を照らす。セネカたちは私がお風呂に入らないと許さないので、しぶしぶ水のようなお風呂に入る。セネカたちがお風呂から出たら歯みがきをさせてベッドに押し込む。次は私とティアナがお風呂に入る番だ。ありがたい事に、ティアナは熱いお湯を嫌がらなかった。身体もボディソープやシャンプーで洗わせてくれた。きっとティアナは、小さい頃は裕福な家で育てられたのだろう。お風呂から上がり、弱冷風のドライヤーでティアナの髪を乾かす。そして寝相の悪いセネカとヒミカのベッドに私たちが入るわけにもいかないので、私はもう一つベッドを出した。これで私の部屋はキツキツになった。ティアナとベッドに入り、眠れるかと聞くと、ティアナはコクリと頷いた。私はほほえんでランプの光を消した。



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