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砂漠の騎士  作者: 波崎ひかる
第一章
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ポニウム村の冒険者 2



 「お前達は逃げろ!!ここは俺がなんとかする!」


 赤髪のグラウカは二人を守るため、鉄の重く不恰好な大盾を接地させ、オークの鉈を受けようとするが鉈の威力はゴブリンやウルフの攻撃のそれとは遥かに隔絶(かくぜつ)している。並のオークの攻撃ならば防げたであろうその盾も、尋常ならざるオークの前では木の端くれにすぎないのだ。


 しかし、血で錆ついた不気味な鉈が幸運を呼び寄せた。大きく振りかぶられた鉈が、傷だらけの厚い大盾にバゴン!と鈍い爆発的な衝撃を発生させる。

 

 鉈は盾の湾曲(わんきょく)部に水平方向に食い込んだ。切れ味の落ち切った鉈で幸い両断はされなかったのだ。しかし、無残にも二本の皮ベルトに括りつけられたグラウカの左腕はひしゃげて折れ曲がった。


 ぎゃあああああああ!!!!


 グラウカの悲痛な絶叫が夜の森を駆け抜けた。フェティダは足の遅いマリリスを抱え、必死に村の方向目指して一直線に走り出す。もう辺りには暗闇だけが広がり、逃げ出した二人の背後は不気味に鎮まりかえっていた。森の木立や草花を体当たりをする様に、必死でひたすらに距離を稼ぐ。雲に覆われ弱々しく光る月が、二人の悲壮感をより()き立てる。


 「フェティダ!グラウカがぁあ!!」


 「わかってる!!殺されたくなきゃ黙るんだマリリス!」


 いつもは必要以上の会話はしないフェティダであったが、この時ばかりは声を荒げた。いつもは寡黙(かもく)でボーっと弓の手入れをしている青髪の青年。村ではそれを邪魔するようにじゃれあう二人の幼馴染。フェティダは走りながらも、幸せだったであろうつい先日のことを思い出し、狂いそうになりながらも涙をぼたぼた垂らしながら走った。一刻は走っただろうか。にじむ視界に、ようやくよく見知った村が見えてくる。汗と涙でぐしゃぐしゃになったフェティダの足取りが、ゆっくりと重いものに変わる。限界だった。


 マリリスは村の小さな教会で修行を始めた巫女見習いで、つい先日、村の外れの果樹園を荒らしたゴブリンの退治を命じられた。一緒に村の厄介事を片付ける二人の幼馴染は冒険者になりたてでゴブリンなどは何匹も倒してきていたし、下位のオークも倒したということでこの程度の依頼なら楽しくこなせる。とたかを括って油断していた。安全だと思い切っていたのだ。


 だが実際はそうではなかった。マリリスは己の責任を感じ、しかもグラウカを置き去りにした罪悪感で押しつぶされる。


 マリリスも号泣していた。この少女はグラウカが大好きだった。明るくてりんごが大好きなグラウカの笑顔と優しさを本当に愛していた。しかし気持ちすら伝えられず、挙句見捨てのうのうと生き延びるその辛さはマリリスの小さい無垢な心を暗い闇に引きずりこむ。もう神を信じる心すら壊れそうであった。


 フェティダに担がれたマリリスは、グラウカがいるであろう遠くの森の暗闇を詫びるように(うつ)ろに見つめていた。だがその時、空気が震えるようなそんな感触が、ふと二人を背中から追い風のように押し上げる。


 フェティダも今辿ってきた道のりを振りむくと、森の果てで大きな光の柱が立ち昇った!!天高く貫く、蒼白いその暖かな光柱が徐々に大きくなる。刹那(せつな)の間をおいて人生の中で聞いたこともないほどの大きな大きな鐘の音が響く!神の祝福の如きその(またた)きを呆然(ぼうぜん)と二人は眺め、大切なグラウカの命がこの世にあるよう必死で祈った。



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