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砂漠の騎士  作者: 波崎ひかる
第一章
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ポニウム村の冒険者 1



 「グラウカ!オークがそっちに行った!気をつけて!」


 「わかったマリリス!作戦通り俺が前衛だ!オークは任せておけ!」


 「……それオークじゃなくてゴブリン」


 筋肉質で細身の赤髪の青年が、その身体に不釣り合いなほど大きな盾を構えてゴブリンに突撃する。あたりはすでに日が落ちきって、すでに闇夜の鬱蒼(うっそう)とした広葉樹の森にはマリリスの灯した下位祝福魔法ラシュ(木洩れ日)以外の光源はない。その魔法の暖かな光の波長はそれほど大きくなく、少し離れてしまえば寒々(さむざむ)とした闇が待ち受けているだけだ。

 

 ぴゅん。と短い高音が三十刀(30m)ほど後方の暗い高木の影から放たれ、大盾を構えたグラウカの右前方の矮小(わいしょう)なゴブリンの鼻柱にすげかわるようにたんっ。と命中した。緑の雑魚が()めきよろめく。


 「流石だフェティダ!ありがとう!……まだ生きてるじゃねーか!」


 「油断しないでグラウカ!早く倒して村にかえろー!」


 「マリリス、ラシュをもう少し下ろしてくれ…眩しくて狙いがつけられない……」


 白い巫女風の服を身につけた、白髪の可憐な少女は、ハッとしてラシュを地上に近づける。無駄に宙に拡散していた光が、行き場を見つけ樹々が広く照らす。ようやく前方の標的を鮮明に確認できた赤髪のグラウカが、右手に持った短い槍を、緑色をしたよろめく薄汚い小人に突き刺す。小さな悲鳴がぎび!と森に響く。


 コンパクトな動きでその後二、三のきびきびとした刺突を繰り出す!鼻を穿(うが)たれて方向感覚を失ったゴブリンに避けようもなく、惨めな鳴き声をあげていたその喉から槍を伝うように赤い血を流して、絶命した。槍先に薪用丸太じみた重みがぐっ。とかかる。


 「よし!ゴブリンを倒したぞ!」

 

 グラウカは弛緩(しかん)もたれかかってくるゴブリンを大袈裟に蹴り、槍を引き抜くと、槍を一閃し血を払う。


 「グラウカすごい!」


 適度に魔獣との距離を保っていたマリリスが年相応のぱあっ。とした笑顔を輝かせた。樹の上から油断なく辺りを警戒していた影のような褐色青髪の弓兵フェティダも思わず口元が緩む。しかしまだ魔獣が立て続けに出ないとも限らない。と感じてフェティダは警戒もそこそこに(ひょう)のような身体をしならせ、跳躍し、グラウカのそばに着地し、呟く。


 「……少し時間はかかったけど、依頼はおわりだな」


 マリリスも三人分のザック(小さなかばん)を抱えてスキップするように駆け寄った。それから半刻(30分)ほど、彼らは互いに褒めあったり、次回の依頼に向けたコンビネーションの改善点を確認する。未熟な駆け出しの冒険者の微笑ましいやりとりではあるが、常識に照らせば早々にその場を離れたほうがいいのは明白であった。魔獣の血の匂いが、新たな魔獣を引き寄せてしまうからだ。


 フェティダも狩人や冒険者達の話を聞いて、その危険性を認識していたが、果樹園の防衛という子供じみた任務と幼馴染のグラウカ、マリリスの緩みきった笑顔につられて警戒がおろそかになっている。


 その時であった。ダンダンダン。と重みのある足音が草木を踏みつけぱきぱき。という音とともに徐々に近づいてくる!照らされた森の樹々の向こう側の暗闇に、正体の分からない大きな気配が(うごめ)いて、三人の駆け出し冒険者におぞましい殺意を剥き出しにし、同時に低くけたたましい魔獣の叫び声が破滅的なその正体を明らかにした。光の届かない森に目を凝らし、ようやく魔獣に気付いた三人の表情が引き()る。

 

 ステレイセクテムオークだ。ただのオークならばまだよかったが、そこにいるのは死体の匂いを嗅ぎつけ腐肉を喰い荒らす、巨岩ほど大きな体を持つ不恰好な肉ダルマ。赤黒い汚れがこびりついたボロ切れを身につけて、大きな鉈をぶんぶん。と振り回し迫ってくる!

 

 異様というに言葉では

 控えめすぎるほどの邪悪をまとった恐怖なのだ


 あまつさえこの薄暗い森では猛者の冒険者でも歯が立たない!ましてや駆け出しの三人には到底相手は務まらないだろう。立ち向かえば軽々と胴体を引きちぎられ、女は陵辱(りょうじょく)され死体は骨だけを残して綺麗さっぱりなくなってしまう。


 先輩冒険者達のお下がりの(しな)びた槍や剣や弓では、当然敵わないのだ。頼みの綱の魔法でさえ、教会に入ったばかりのマリリスには備わっていない。


三人は生きるために駆け出した。すぐそこにネペンテス(死の神)が迫る。



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