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1:魔王救済

 悲鳴!


 ただちにロガーノは声のする方向へ駆け出す。荒れ地でありながらも、その足力はダントツ。枯木の群れをかき分け砲弾のように突進する。


 すると崖際に魔物の群れを発見。緑色の皮膚に覆われた巨体のオーガ。鋭い銀色の羽がナイフのように見える恐ろしげなハーピー。


 ほほう、荒れ地でエンカウントするようなヤツらの見本市か。なんて軽口を叩きつつ、レスキューを要請した当人の姿をわずかに視認。およっ? 子供らしいぞ?


 ロガーノの身が引き締まる。……まあ、当人比ではあるけれど。


「ヘイヘイヘイヘイ。そんな子供よりこのお兄さんと遊ぼうぜ」


 いかにも無鉄砲な遊び人でございます、ってな感じのボイスで魔物らの注意を引く。オーガやハーピーの目はロガーノに向けられギョロリ。常人ならその日に予定されていた分の排尿すべてを瞬間に完了してしまうような威圧ぶり。


 ただちょっと、このロガーノってやつ、常人じゃないんだよねえ。


 血気盛んに見える特にでかいオーガ、先にこのお上りさんをやっちまおうってのか、土を蹴立てて突進してきた。


 ロガーノはそれをひょいとかわし、後頭部に剣の柄による打撃をお見舞い。オーガの目から星が散り、地面にドサリ。二度と動きはしなかった。


 ちょいとひるんだかに見える魔物たち。しかしロガーノは一人。こっちは群れ。少数対多数。子供にだってできる計算! あるかに見える勝算! 一斉に飛びかかっていった!


「わあっ。こんなにいっぺんにお相手できませんことよ」


 ロガーノはびっくり仰天のポーズ。しかし半秒後には既にそれを解除。


「まあ、嘘だけど……」


 これは嵐か雷か。いやその両方が合体したような凄まじさで、ロガーノは襲いかかってきた魔物を次々とぶちのめした。


 掴みかかるオーガの手があればそれを逆にねじり上げ、ハーピーが飛ばした鋭い羽の弾丸は吹き矢の要領で跳ね返す。


 オーガの怪力も、ハーピーの素早さも、彼にうめき声ひとつあげさせることはなかった。いやほんと、魔物にとっては不運な一日だよ。


 コイツナンカオカシイ、といい加減に気づいた魔物たちは、今日一番の冴えを見せた。くるりと背中を向け、全力であさってへ逃走。


 オーガのような巨体が、ドスドスという音をさせながらスゴスゴと逃げていく様は、これだけで新しい慣用句がひとつできそうなくらいの見ものであったよ。


 ロガーノは後に残された人、冒頭でビューティーフォーな悲鳴を上げて物語を始めてくれた人に向かって近寄っていった。彼の慧眼は過たず。やはり子供で、少女だった。


 驚くほど頭髪が白い。身につけているローブも、おやこれはすんげえレア物じゃあないですか。垂涎の品ってやつ。果たして何者なのか……


「やあ! 不運だったね。でもさ、こんな辺境の地を君みたいなあどけないのがソロプレイなんて暴挙を犯しちゃ、ああいうデンジャラスな事態の招来もやむを得ないかっていう部分がちらほらと……」

 

 と、ここで、ロガーノは違和感を感じた。なんか、この子、ヘン。いや、まあ、荒れ地を一人で往く少女という状況もヘンっちゃヘンなんだけど、なんか、それより、もっと……


「人類」


「へ?」


 少女が始めて口にした言葉が「人類」だ。いや、そりゃ、人類ですけれども……


「まさかこの我が人類に助けられるとは思わなんだ。……しかし、事実助けられたのだからしかたない。我は素直な心を持つ。たとえ下等な者に対してであろうと、その功績は認めよう。礼を言うぞ、人類」


「はあ、そうですか……」


 ほらヘンだろ。ロガーノの予感は的中。しかし、こういう女の子はどこの町にでもいるものだ。現にロガーノは十人ほどその名を挙げることができる。


 それに、見よ、あの体の震えを。怯えているのだ。あんなオッソロシイ魔物の群れに囲まれちゃ、大の大人だって死を覚悟し、知っている限りの神の名を唱えるだろう。


 それと同じような体験を、こんな幼子が経験しちまったんだもの、ちょっとくらい精神に支障をきたしても、おかしくはないよね。


「よし、では人類が君を安全なところまで連れて行こう。立てるかい?」


「……」


 少女は無言で佇んだまま。どうも、腰を抜かしているらしい。なんだ、やっぱりフツーの子供じゃないか。なにがヘンなものか。


 ロガーノは自分の見識を内省猛省大反省。人を見た目で判断してはいけませぬ。


「よし、では人類が差し出すこの手につかまり給え」


 ロガーノがそう言って伸ばした手に、少女がしぶしぶといった様子で手を触れた瞬間。


「ギャァァァァアアアアアアアアアア?!?!!」


 少女はこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げ、破城鎚をぶち当てられたように後方へとのけぞった。ロガーノも思わずのけぞる。どういうことなのか?


「実は君、魚だったりするの。おれの手がそんなに熱いはずは……」


 パチーン、と、記憶の泡が脳裏で弾けた。


 この世で唯一、この自分による接触を受け付けず、触れられたならば、たちまちにして焼けるような痛みを感じる存在。

 

 聖なる力を忌み嫌い、暗黒と冷気を好む、魔界の深淵の深淵より生まれきたる存在。


「君さあ……ひょっとして」


 ロガーノは剣に手をかける。


「魔王だったりする?」


「貴様……まさか」


 ロガーノに触れた手を庇いつつ、少女は睨む。


「勇者か?」



 

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