最終話
ケイのバックアップを受けた俺は破竹の勢いでステージ4を駆け抜けた。
多少バグかと思われる部分はあったが、そこは俺とケイの息の合ったコンビネーションで切り抜け、事なきを得ている。
「おぉ、現時点での最終ステージまで行ったねぇ!」
少しの仮眠を摂り、何とか復活したキリがモニター前へ戻って来る。
「ここが最終ステージなのか? やけに短いな……」
「本来はこの後にもエリアがあって、ここまではチュートリアルみたいなものなんだけど……今はインストールしない方が良いだろ?」
「もちろんだ! さっさとここのボスを倒して終わりにしようぜ!」
俺は勢いよく、最終ステージに飛び込む。
しかし、その途端に俺の足は虚空を蹴ることとなる。
「うわぁ! な、何だこれ?」
俺は空中に投げ出した足を強引に引っ込めると、深く切り込まれた虚空を見つめる。
「うわっ! 完全にワールドデータが壊れてる!」
「ウイルスの影響って訳な! それでも行くっきゃねぇ!」
俺は落ちないように注意を払いながら、足場の残骸に次々に飛び移っていく。
足場が無い部分は俺の動きに連動してケイが足場を転送してくれた。
「流石の二人だね! もう、僕が出る幕は無いかも……ゲームマスターなのに情けない」
「でも、ここまで世界を作りこむなんてキリは流石さ!」
「そうそう、このゲームはバグとウイルスが無きゃ大人気になるぜ!」
俺たちはキリのフォローを入れながらどんどんと先へ進む。
ワールドデータが壊れているせいでモンスターもエンカウントしないからとても進みやすい。
このままボスも出なきゃ楽なのに……そんな盛大なフラグを立てて置く。
「この先にゲートがあるからそこの前に・・・・・・」
「ボスって訳か!」
俺は気を引き締めるとともにキリにボスの情報を聞く。
「なぁ、キリ。最後のボスっていったいどんな奴にしたんだ?」
「フフ、それはね! 僕とタスクが初めてハマったゲームに関係しているんだ!」
俺はその言葉を聞いてあるRPGを思い出す。
確かに、俺たちはその話題で盛り上がって竹馬の友になった。
そして、そのゲームはキリが務めている会社の代表作でもある。
「そのモンスターをリメイクしていいって社長から言われたんだよ! だから、この先にいるのは奴さ!」
それは俺たちが子供の少ない知恵を出し合って徹夜で攻略したモンスター。
俺たちの夢はそこから始まったんだ。
「そりゃあ楽しみだな! 今回もナビゲート頼むぜ、キリ!」
「もちろんさ、タスク!」
「ちょっと! 今はボクもいるんだからね!」
俺たちはそんな会話を楽しみながらゲートへ向かう。
世界の底にそのゲートはあった。
俺が今まで走り去ってきたのは思えば、俺たちの記憶の中の世界であり、このゲートが俺たちの新しい世界へと繋がると思うと感慨深くて泣けてくる。
「さぁ、開けてボスを倒そう!」
俺がゲートを開くとその中には……え?
俺は思わず後ずさりをする。
それは俺が思い描いていたボスとはあまりにも違ったからだ。
「な、何だこいつは!? こんな奴知らないぞ!」
キリが叫ぶ。
「落ち着いてキリ! この敵のIDを見て! ウイルスに書き換えられた形跡がある!」
ケイの指摘を受けてキリが急いで確認する。
「たしかに……じゃぁこれは僕のグランゴーレムなのか?」
アゲグォォォオォォ
奇妙な呻り声をあげて掴みかかってくる怪物を寸でのところで避ける
「呆けてる場合じゃねぁな! キリ、ケイ。どうすればこいつを倒せる?」
「奴がグランゴーレムと同じなら、振り下ろした腕を伝って頭を攻撃するんだ!」
「タイミングはボクが図るよ。タスク、気を付けて!」
俺は剣を構え直し、変質したゴーレムと向き合う。
こいつを倒せば、俺たちの夢は現実になる!
俺は一心不乱に向かっていき、奴が投げ込むブロックの塊を避け、懐に潜り込んだ。
「来るよタスク!」
ゴーレムが腕を思い切り振り上げたところで俺は動きを止め様子を窺う。
「今だ! 上に!」
ケイの声と同時に俺が飛び上がるとその下にゴーレムの腕が落ちてきた。
「行くぜぇぇぇ!」
俺は腕を駆け上がると頭目掛けて思い切り剣を振るった。
しかし――
「ダメだ、タスク! ダメージが10しか入ってないよ! 早く下がって!」
ケイの悲痛な叫びが聞こえた頃には俺の身体はものすごい衝撃と共にゴーレムの拳に吹っ飛ばされていた。
〝Danger! Danger!〟
俺の耳元で警告音が鳴り響く。
「や、ヤバい! HPがもうない!」
「タスク! 今の接触した時のデータを解析したら、奴にはすべての通常攻撃に対する耐性が備わっていることが分かったんだ……残念だけど、今のままじゃ勝てない! 一度、撤退して僕がログアウトデータを再構築するまで待とう!」
「そうだよタスク! もし君がゲームオーバーになったらどうなってしまうか分からないんだよ? 大会の事はボクが何とかするからさ! 無理しないでよ!」
俺の事を気遣っていってくれるのはありがたいがさ……俺は気付いてるんだぞ、キリ!
「なぁ、キリ。このまま俺が中に入ってたらゲームデータのコンペティションには持っていけないんだろ?」
俺の言葉にキリがうつむく。
そりゃあ、生身の人間が入っているデータなんて会社が認める訳ねぇよな。
「そう暗い顔すんなって! 俺に唯一の策がある……ただ」
「ただ?」
俺はモニター越しにキリを見つめる。
この策はゲートのエリア外に出ても足場を飛び越えながら俺を追ってくるゴーレムを見て思い付いた危険な賭けだ。
「お前は俺たちの夢のために命賭けられるか?」
俺の言葉にキリは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに頷く。
「当たり前だろ……君一人に攻略なんてさせないよ!」
そうだろうなと俺は思いつつ、キリに告げる。
「フッ、奴には通常攻撃が効かないんだろ? だったら、最高の特殊攻撃を一発くらわせてやろうじゃねぇか! ステージの始まりで待ってるぜ!」
俺はそう言うとゴーレムを先導し、来た道を戻り始めた。
「一体、タスクは何をしようとしているの?」
キリは未だに作戦を理解していない様だが、キリにはばっちり伝わっている。
その証拠にキリは2P用のゲーミングメットを持ってくる。
これで準備は整った!
俺はステージ入り口のサークルに立つ。
ここは本来、コンティニューや中断データからログインを行う際に出発地点となる場所だった。
俺はここでゴーレムを待ち構える。
ギュルゴォォォォォォン
最後まで俺を追って来たゴーレムは次々と技を繰り出す。
俺が狙うのはそのうち一つの技。
それまでは是が非でも避け続けてやる!
俺がそう思った矢先、ゴーレムが両腕を差し出してくる。
「これだぁ!」
俺は身体をゴーレムの両手に預けると、高らかと持ち上げられる。
これはゴーレムの締め付けの技だ。
「今ならこいつは動かない! やれぇえぇぇぇぇ!」
俺が上空に向かって叫ぶ。
〝Player:キリがログインしました〟
その通知と共に流星の様に落下してくるキリ。
キリは吸い込まれるように真っ直ぐゴーレムがいるサークルに向かってくる。
「「いっけぇぇぇぇぇ!」」
その声と共に閃光が走り、辺りは真っ白になった。
~数か月後~
大きな歓声、フラッシュの嵐がキリを包む。
「キリ主任。今回はゲーム会の革命と言われていますがいかがですか?」
「なんでも、このゲームのデバッグには数か月前に日本一のプロゲーマーチームとなったリーダーのタスク選手が協力したと噂になっていますが?」
その質問を受けたキリが、舞台袖にいた俺に目配せをする。
俺が壇上に上がるとまた歓声が俺たちを包む。
「俺たちは新しい世界を開こうとしています!」
「このゲームはきっとこの先のゲームの世界を変えていくでしょう!」
眩いフラッシュの中、俺とキリは肩を組み、手を差し出す。
「「皆さんも新しい扉:New Gateを開いてみませんか?」」
これは俺たちの終わらない夢の物語である。