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第一話

 俺は小学校の時から筋金入りのゲーマーで、それは大学生になった今でも変わらない。

 そんな俺には最高の相棒がいる。

 高校を卒業してすぐに有名なゲーム会社に入って、恐ろしい速度で出世した天才。

 俺が卒業論文を書き終える頃にはすでにプロジェクトを任される現場主任兼チーフプログラマーになっていたほどだ。


 そんな彼から一ヵ月ぶりに連絡があった。

 この日を一日千秋の思いで待ち望んでいた俺は舞い上がり、卒業論文を提出した足で彼の会社へと向かったのだった。

 そう、遂に完成したんだ――

 俺たちが待ち望んだ次世代のゲーム:New Gateが‼



 ※

 俺は彼の部下に奥の部屋まで案内された。

 そこには俺が昔からやっているシリーズや有名タイトルのグッズが所狭しと並んでいる。


「お、来たな! 待ってたぞ汰叔(タスク)!」


「おう、この日を待ち望んでいたぜ(キリ)!」


 俺たちはハイタッチをするとさっそく本題に入る。


「んで? 完成したんだろ?」


「あぁ、やっと製品化できそうなところまで漕ぎつけたんだ! でも……一つ問題が起きていてなぁ」


「問題?」


 キリはがっくりと肩を落とし、項垂れる。

 こんなにテンションが下がっているこいつを見るのは小学生の時に全校集会でうんこを漏らしたことがバレた時以来か……ってそんなことを言っている場合じゃない。


「なんだよ、一体どんな問題なんだよ?」


「いやさ、今回のゲームってMMORPGだろ? 何故だかデバッカーが集まらなくて、デバッグができないんだ」


 デバッグとはゲームやプログラムからバグを見つけて修正する作業だ。

 これができなければゲームは審査を通ることが出来ない。


「マジかよ! それは困る! これは俺たちの夢じゃないか!」


 俺は思わず叫んだ。


 それは若かりし頃の約束。

 昔からゲームが大好きだった俺たちはゲームをしながら誓い合った。

 俺はプロゲーマーに、キリはゲームクリエーターになると。

 そして、キリのゲームで俺が頂点に立って二人で新しいゲームの時代を作っていく。

 それが俺たちの変わらぬ夢。


 その夢のために俺たちは努力し、俺は大学に通いながらトップ陣に食い込むプロチームのリーダーになり、キリは今ゲームを完成させようとしている。

 それなのに俺の前には夢を目前にして項垂れるキリの姿。


「だったら俺がやってやるよ!」


 俺がそう叫ぶのに時間はかからなかった。


「え? タスクが?」


「あぁ、俺だってプロゲーマーだ! それにデバッグのバイトだってしたことあるしさ!」


「本当に……やってくれるのか?」


 俺は力強く頷き、キリと無言のまま握手を交わす。


 そこからはあれよあれよという間に霧の部下たちの手によって俺の体には電極やら何やらが装着される。

 俺の頭にはゲーミングメットが装着され、専用の椅子に寝そべる様に座ることを促される。


「良いか! 少しでも異変を感じたらすぐに戻ってくるんだぞ! 僕は常にモニタリングしているから何かあれば聞いてくれ!」


「あいよ。頼りにしてるぜ、ゲームマスター!」


 俺はログインボタンを押すと、眩い光に包まれる。



 一瞬で世界が暗転し、再構築された様に広大な風景が広がっていく。


 小高い丘に騒めく森。

 そして、どこまでも広がる青い空。

 現実と見紛う程の素晴らしい出来栄え。


「すっげぇ! すげぇよキリっ! やっぱりお前は天才だ!」


 俺は目の前に広がる光景に興奮して叫ぶ。


 すると、いつの間にか装着された腕時計の様なデバイスから映像が出て、キリの照れた顔が映し出された。


「そ、そんなに褒めるなって! 皆の前で恥ずかしい!」


 俺が照れたキリをいじっていると、世界の構築が終了したのか風が頬を撫でる感覚を感じ始めた。


「そろそろログインが始まるぞ。ビビんなよ!」


 キリがフフっと鼻を鳴らした。


「ログイン? 一体何が始まるんだ?」


 俺がそう聞こうとしたその時――

 ブワッと重力がかかる感覚がして身体が下へと引っ張られる。


「なぁぁんだこりゃぁぁぁっ!」


 俺は半べそを掻きながらデバイスに叫ぶ。


「安心しろって! よく上空から落下するように始まるゲームってあるだろう? それと同じだよ。落下中は無敵状態だし、地面に近づくにつれてだんだん減速する様になってるからさ!」


「なるほどぉぉぉぉ! つまりはマ●オ形式って事だなぁぁぁぁ! でも一つ気になることがあるぅぅぅっ!」


 俺は風圧に顔をゆがめながら今、起きている疑問を口にする。


「全然減速しなぁぁぁいんだけどぉぉぉぉ?」


 そう、もう半分以上落ちてきたというのに減速するどころかスピードは上がり続けている。


「そ、そんな馬鹿なそろそろ減速しないと……や、ヤバい!」


 キリの声が俺に届いた時、俺は――


 ズッドォォォン!


 というサウンドと共に地面に突っ込んでいた。

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