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四月一日 2

 依田(よだ)と店長が事務所から店内へと出てみると、同僚の小宮が言った通り、レジカウンターの前で警察官が一人立っていた。

「お、そっちの彼が依田さんですかね?」

 警察官は依田の方を見ると、そう声をかけてきた。

「は、はい。そうですけど……」

 訳が分からないまま、依田は返事をする。

 すると警察官はニッコリと笑みを作ると、

「いやー、君も人が悪い。救助をするだけしていなくなっちゃうなんて」

「――――へ?」

 依田は呆けた声を上げるが、警察官は気にせずに話を続ける。

「君がすぐに救助したことであの運転手さんも一命を取り留めたらしいよ。そんなすごいことをしたのに、名前も告げずにいなくなってしまうんだから困ってたんだよ。こっちとして事故の状況を聞きたかったからね」

「は、はぁ……」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 警察官の話に適当な相槌を打つ依田の間に、店長が溜まりかねたのか割り込んできた。

「はい、何でしょう?」

「ちょっと事情が分からないんですが、一体何があったんです?」

 店長の質問に警察官は「あ、当事者しか分からないですよね」と前置きをしてから、


「そこの通りを行った先で『ダンプカーが事故を起こした』んですよ。

 で、『その事故を起こした運転手を依田さんが救助した』というので、お話を伺いに来たんです」


 と、淡々と目的を述べた。

 それを聞いた依田と店長はどちらも目を丸くする。

 困惑した依田が口を開こうとしたが、それよりも先に口を開いていたのは店長だった。

「え、あったんですか? ダンプカーの事故」

 店長のあまりにも驚いてる様子に警察官はきょとんとしながら、

「ええ。ありましたよ? 何かおかしいことでもありますか?」

「え、いや、あのう――――」

 警察官の反応に店長も混乱しているのか、警察官と依田の顔を交互にキョロキョロと見ている。

 だが、店長の視線を向けられている依田もまた混乱していた。

(俺は起きてすぐにここに来たんだぞ? 何でダンプカー事故の救助したことになってるんだ? だってそれは――)

「実はですね、彼がバイトに遅刻してきまして。その理由がそれだったんですが、あまりにも突拍子がなくて嘘だと思ってたんですが……」

 ボソボソと話す店長に、警察官も苦笑を浮かべると、

「あー、話だけ聞いたらその反応も仕方ないですかね。

 でも今日がいくらエイプリルフールだからって言っても、そんな分かりやすい嘘なんかつかないでしょ」

「あ、そうそう! 今日はエイプリルフールでしたよね!

 ははは、そうですそうです! だから私も思わず嘘なんだと思っちゃって!」

 さっきまで依田を嘘つきと断罪していたバツの悪さを流そうとでもしているのか、店長は一転陽気に警察官に話を合わせたようだ。

 そんな店長の変わり身を苦い表情で見ている依田だったが、そんな彼の視線を見てとったのか、

「いやー、依田くん! えらいねぇ! 人助けなんてそうそうできるもんじゃないからね!

 あ、何か話を聞きたいってことだから気にせず行っておいで! 出勤扱いにしておくし!」

「は、はぁ……。でもさっき俺がクビって――」

「冗談だよ、冗談! ほら、早く行ってきなさい! 私たちも仕事があるし、これ以上はね!」

 依田の背中を押して警察官の方へと押しやる店長。

 そんなやりとりを見ていた警察官は口を開いた。

「おっと、少し長話をし過ぎましたね。みなさんのお仕事の邪魔をして申し訳ありません」

「いえいえ、気になさらず。英雄を連れてってくださいな!」

「ご協力ありがとうございます。それじゃあ依田さん、行きましょうか」

「は、はい、分かりました」

 警察官に促され、依田は店長と小宮に見送られながらコンビニの外に出た。

 一体何が起こったのか、依田には一切分かっていなかった。

 見た覚えのない事故。やった覚えのない救助。

 とっさに出てしまった『嘘』だったはずなのに、それがなぜか『現実』となってしまっている――。

 他の誰かと勘違いされているのか。それとも盛大なドッキリでも仕掛けられているのか。

 単純に考えれば前者を思い浮かべるが、混乱の極みにいた依田が警察官にした改めての問いかけは、

「本当にエイプリルフールじゃないですよね?」

 そんな一言だった。

 それを聞いた警察官は依田の背中をバシバシと叩くと、

「はっはっは、当人が何言ってるんだい! 謙虚なのは良いと思うけど、人助けは誇って良いと思うよ!」

 陽気に告げてきた。

 あまりにも素すぎる反応。これを演技でやっているとしたら、名優としか言いようがない。

 これ以上追及することもできずに、依田ももはや警察官の話に乗るしかなく、

「そ、そうですかねぇ」

 ぎこちない笑みとともに、そう返すことしかできなかった。

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