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あなたは運命の人8

 ヴィルレリクさまと馬車に乗って、学園をあとにする。

 セリーナさまのことを考えてしばらく静かな気持ちでいたけれど、途中でハッと気付いてしまった。


「破かれた絵を回収するの忘れてました!」

「もう掃除されてるんじゃない?」

「そんな……」


 ヴィルレリクさまが描いた絵なのに、ゴミ箱行きなんて。

 今から私一人でも引き返せないかと思っているとヴィルレリクさまに「馬車は止めないよ」と釘を刺された。悲しい。せめて清掃の人が価値ある絵だと気付いて捨てずに置いておいてくれることを祈るしかない。かけらでもその上手さが伝わってくるからよく見て。


「ウィルさま、私を描いてくださったんですよね? 見てみたかったです……」

「顔は描いてないよ」

「そうなのですか?」

「うん。輪郭と上半身だけ。顔を破かれるのは嫌だったから」


 輪郭と上半身なら破かれてもいいのだろうか。基準が謎だ。

 しかし、顔が描いていなかったのにセリーナさまは私の絵だと思って破いた。破かれていない部分を見たところ制服だったし、髪型も日々変えているので輪郭だけなら私だとわかるのは難しそうに思う。ヴィルレリクさまの画力が高かったからだろうか、それともセリーナさまの察知能力が高かったからだろうか。


「リュエットは嫌じゃなかった? 自分の絵が破かれるの」

「それは、セリーナさまのなさったことですし」

「でも、破かれるだろうなと思って描いたし、置いておいた。ごめん」

「謝らないでください。おかげでセリーナさまが言い逃れできない状況でお話できましたし」


 恋が実らなかったということについては可哀想に思うけれど、セリーナさまもヴィルレリクさま本人の口から話を聞いて納得してくれるのではないだろうか。


「きっと嫌がらせもなくなるでしょうし、私だけじゃなくミュエルも喜ぶと思います」

「もしなくならなかったら、あのカエルを魔力画にしてトートデリア家に贈ろうか」

「絶対ダメです!」


 なんということを考えるのか。

 私が思わず即答すると、ヴィルレリクさまが瞬いた。


「ダメなの?」

「ダメです。……ウィルさまの絵、そんな簡単な理由で他の誰かにあげないでください」

「簡単じゃない理由ならいいの?」

「……やむを得ない事情なら……本当は嫌ですけど」


 スケッチを破かれただけでも悔しいのに、カエルがモチーフとはいえ魔力画をあげるだなんて言語道断だ。どんなカエルだったとしても、ヴィルレリクさまが描いたのだったら芸術になってしまうし、それを価値のわからない人に持っていてほしくない。いや、価値がわかる人だったとしても、ヴィルレリクさまの絵を持っていてほしくない。


「ウィルさまの絵は独り占めしたいんです。あの、それは推してるからじゃなくて、その」

「僕を独り占めしたいから?」


 絵には描いた人が出る。ヴィルレリクさまが頭の中で考えて、それが紡ぎ出されたのが魔力画なら、たとえどんなものでも何処かに行ってほしくない。


「ウィルさま自身だけでも、ウィルさまの絵だけでもいやです。わがままだけれど、どっちもほしいんです」

「リュエット、こっちに来て」


 ヴィルレリクさまが手を伸ばしたので、私はその手を取って隣へと移った。座ったままで抱きしめられると、恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝ってしまう。

 出会った頃にはこんなこと思わなかったのに、いつのまにこんなに欲張りになったのだろうか。


「リュエットがそう言うなら、他の誰にもあげない」

「そうしてくれたら嬉しいです」

「うん。今まで描いたやつはいくつか人の手に渡ってるけど、それも返してもらう?」

「いえ、そこまでは……ウィルさまの絵はすごく素敵なので、独り占めしたい気持ちもあるんですけどやっぱり他の誰かにも見てほしい気持ちもありますし……記録室に残されてる魔力画の中にもウィルさまのものがありますよね?」

「ある。よくわかったね」

「すごく素敵だからわかります。あれも、きっとこれからも魔力画に魅せられた生徒が辿り着いて発見すると思うと、それはそれですごく良いなって」


 ウィルさまのことをなんでも独り占めにしたい気持ちと、推しとして誰かと語り合ったり評価されているところを見たい気持ちがせめぎ合ってしまうので、せめて過去の作品は色んな人に愛でてもらってほしい。

 そう語ると、ヴィルレリクさまがちょっと目を眇めた。私は「推してません」と先に答えておいた。ヴィルレリクさまそれを聞いてうんと頷いてから、私の背中に回した腕に少し力を込めた。


「リュエット、目を瞑って」


 返事をするのが恥ずかしくて、言われた通りにする。そっとキスをもらって、私はヴィルレリクさまに抱きついた。


「やっぱり今度、顔も描いていい? ちゃんと見て描くから」

「はい」

「いつか魔力画にしてもいいかもね」

「本当ですか? 嬉しいです! できたらウィルさまと一緒に過ごしている魔力画にしてください。あ、でも小鳥と一緒にいるところとか、青ワニちゃんもいいなあ」

「ワニと一緒にいるのはどうかと思うよ。リュエットがそうしたいならいいけど」


 自分がモデルになるのはちょっと恥ずかしいけれど、ヴィルレリクさまの絵の中に入るなんてやっぱり考えるだけでワクワクしてしまう。

 ヴィルレリクさまは絵を描き上げるのがとても早いので、たくさん描いてほしい。一緒に話し合いながら、出来上がっていくのをずっと見ていたい。私たちにはこれからたくさん時間があるのだから。






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