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あなたは運命の人1

「リュエット! ごきげんよう!」


 休みが明けて本格的な授業が始まる日、学園にいくとクラスメイトの友達がいつになく私を歓迎していた。女の子のかたまりの中にミュエルもいる。


「ご、ごきげんよう、皆さま」


 勢いに押されながらも挨拶を返すと、みんなの視線が私と少しずれていることに気が付いた。振り返ると、ヴィルレリクさまもちょうど私を見る。


「じゃあまた後で」

「はい、ウィルさま。またお昼に」

「リュエット、元気でな。お兄ちゃまのことも時々は思い出してくれ」

「お兄さまもまた後で」


 ヴィルレリクさまに手を振り、ついでにお兄さまにも手を振る。自分の教室へと向かうヴィルレリクさまは、一度だけ振り返ってちょっと手を振ってくれた。浮世離れした雰囲気なのに、ひらひらと手首を動かして振る様子がかわいい。

 ほーっと見惚れてしまって我に返ると、私の周囲でもクラスメイトがほーっとしながらヴィルレリクさまを見ていてビックリした。そのうちの一人がそっと私の袖を引く。


「ねえリュエット、ヴィルレリクさまと恋人になったって本当なの?」

「そ、そうなの。実は」

「やっぱりー!! 舞踏会でご挨拶できなかったけど、そうじゃないかってみんなで言ってたの!」

「なんだか雰囲気が違うものね」

「ヴィルレリクさまのリュエットを見る眼差しが優しいわ!」


 盛り上がる友達に囲まれて、私は戸惑いつつもちょっとホッとした。みんなは恋の話に興味津々だっただけで、ヴィルレリクさまの魅力に気付いて見惚れていたわけではないようだ。よかった。

 それにしても、聖画の事件が起こっているときからヴィルレリクさまは送り迎えをしてくれていたのに、みんな舞踏会で見かけただけでも関係が変わったと気付いたのだろうか。


「そんなにわかりやすいかしら?」

「わかりやすいわ。全然違うもの」

「リュエットの目もハートだものー!」


 即答されて思わず頬を手で覆ってしまった。

 目がハート。

 特に外では、あまり気持ちを出さないようにしているのに、目がハートって言われた。

 ヴィルレリクさまもそう思っていたらどうしよう。恥ずかしい。


「あらリュエット、ヴィルレリクさまとはただの恋人じゃないわよね?」

「ミュエル」


 ミュエルが近付いてきてニッコリと笑う。今日は金の髪を細かく編んで纏めている様子が天使のようなのに、なんだかその微笑みが小悪魔のように見えた。


「そうなの?! リュエット!」

「もしかして、結婚するの?!」

「このクラスでは初めてじゃない?」

「違うわ! もう、ミュエル!」


 ミュエルの言葉でますます目を輝かせた友達に、他のクラスメイトも何事かとこちらを見ている。慌てて否定するけれど、ワクワクしたみんなの顔が真実を話せとねだっているようだった。


「その、この前、お父さまが婚約の許しをくださって」

「婚約! おめでとう!」

「本当におめでとう。もう正式になさったの?」

「ありがとう。正式な顔合わせは来月の最初のお休みにするの。お母さまが色々と準備があるからって」

「まあ」


 ミュエル以外のみんなが、うっとりと微笑む。それぞれ自分が婚約することを思い浮かべているのかもしれない。

 学園での勉強も大事だけれど、貴族の女性としては結婚は特に大事なことだ。私は幸運なことにヴィルレリクさまと恋人になり、お父さまにその関係を認めてもらえたけれど、親が相手を決めてしまうことも多い。だからこそ相手とは素敵な関係になって仲良くしていけるようにと願うのだ。


 それだけでなく、単純に人の恋愛は聞いていて楽しいというのもあるだろうけれど。誰々が恋をしたとか他のクラスの子が結婚するらしいとか、私にも経験がある。

 自分が当事者になるとこんなに照れるとは思わなかったけれど、それでもこうして祝福してもらえるのは嬉しいことだった。


 休み明けということもあるのか、今日は私の婚約以外に大きな話題もないらしく、真面目に授業を受けては休み時間に盛り上がるということを繰り返すことになった。


「ねえ、婚約の準備ってどういうことをするの?」

「贈り物は何になさるの?」


 次の授業のために移動しながらもおしゃべりをしていると、広がって歩いていたせいか後ろからやってきた人とぶつかってしまった。落としてしまった教科書をミュエルが拾ってくれる。それに小さくお礼を言ってから振り返り、ぶつかってしまった人にも頭を下げる。


「申し訳ありません」


 ぶつかったときには、大体お互いに頭を下げるのがマナーだ。けれど、ぶつかった相手はお辞儀をする様子がなかった。

 少し顔を上げると、リボンの色から学年が上の女生徒だとわかる。


「私たち、周りが見えていませんでしたわ。お詫びいたします」


 同じく気付いたミュエルがそう言い、他の子も道を開けて頭を下げるけれど、彼女は立ち止まったまま動かなかった。

 もう少し正式に謝罪をすべきだろうかと思っていると、彼女が私を見つめて口を開く。


「……どうしてあなたがヴィルレリクさまの隣に立つの」






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