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運命を決めるのは誰ですか?7

 晴れた冬の日。


「わあ……! すっかり綺麗になってる!」

「間取りも少し変えたのね」

「あの魔力画もすごく可愛い!」


 私とミュエル、そしてヴィルレリクさまとお兄さまで一緒に例のカフェへとお茶をしに来た。

 魔力画が燃えた後はしばらく休業していたものの、最近再び営業を始めたのだ。以前は全体的に落ち着いた雰囲気のカフェだったけれど、広い店内をいくつかのエリアに分け、若い世代が好むような明るい色合いで椅子の多いところや、男性が話をするのに好みそうな重厚な家具が置いているところもある。


 入って正面のところ、燃えてしまったという大きな魔力画が置かれていた場所には、同じくらい大きな魔力画が飾られている。今度の絵は画面いっぱいにたくさんの花が咲いていて、次々と新しい蕾が開いていくことで色合いが移っている。細やかな花粉や、花びらが風に揺れるところなども描かれていて、やっぱり見ているだけでもうっとりしてしまうような大作だ。


「リュエット、私たちお庭が見えるところにいるわね。また後で合流しましょ」

「ええ」

「待てミュエル嬢、私はそもそも我が妹とそれを狙う狡猾な蛇を見張ろうとついてきたのであって」

「いいから。誰か、本日のケーキをお持ちくださる?」


 私が報告すると笑顔でガッツポーズをしてくれたミュエルは、やたらと私たちの間に入ろうとしてくるお兄さまを時々こうして引き剥がしてくれるようになった。とてもありがたい。


「リュエット」


 ヴィルレリクさまが私に手を差し出してくれる。そっと握ると、魔力画が掛けられている壁の両側へと伸びる階段を上り始めた。


「2階にもお席があるのですね」

「うん、個室。魔力画があるよ」


 大きな魔力画に後ろ髪を引かれていた私を、ヴィルレリクさまの一言が積極的に歩かせる。

 店員の男性に案内されたのは、4人も入ればいっぱいになるような小さな部屋だった。女性なら3人座れるくらいのソファが窓に向けて置かれ、その前にテーブルがひとつ。座っていても外が眺められるように大きく作られた窓はカーテンが結ばれ、近くに立つと雪の積もった庭が見えた。

 壁には小さな魔力画が掛けられていて、雪の庭を子犬たちがころころ走っている。


「かわいい。この犬の描き方、シードア派ですね」

「うん。中期の作品」


 事件が一件落着したことと、家で存分に家族に甘えたこともあって、私はまた少しずつお出掛けをするようになっていた。そのほとんどがヴィルレリクさまと一緒だ。


「またカスタノシュ伯爵と伯爵夫人に土産を買っていく?」

「そうですね。お父さま、干しぶどうのクッキーが好きですし」


 頷いたヴィルレリクさまが、店員にお茶と一緒にクッキーを焼いてもらうように頼む。丁寧に頭を下げた男性は、そのまま音を立てずに扉を閉めて下がっていった。


 結婚の許しを貰う前の段階として、お父さまに恋人になったと報告したら、お父さまはかなり難しい顔をしながら「まだ認めてはいない」と頑なな態度を取った。お母さまの解説によると、恋人だと認めると次の段階の結婚の許しを乞われるから、見ないフリをしているところだそうだ。子煩悩なお父さまなりに苦悩があるらしい。

 すぐに結婚するわけではないけれど、私もヴィルレリクさまと恋人であることを認めてもらえたら嬉しい。なので私とヴィルレリクさまはお家でお話をしたり、こうして出掛けたりすることでお父さまにアピールしている。

 お父さまも会ったり出掛けたりすることを禁じたりはしていないので、きっと時間が解決してくれるとお母さまが言っていた。お兄さまはお父さまと書斎に閉じこもっていた。


「伯爵、王城で全ての貴族子息を調べ尽くしたらしいよ」

「そうなのですか? どうして?」

「娘により相応しい相手を見極める、と鬼気迫る様子だったとか」

「お父さま……」


 王城ではお仕事をしてほしい。

 運ばれてきたお茶の香りを嗅ぎながら、私はヴィルレリクさまをちらりと見る。


 貴族多しといえど、ヴィルレリクさまよりも素敵な人はそうそういないと思う。

 贔屓目抜きにしても、お家は侯爵家でご長男だし、学園の成績も優秀だしでそれだけでも他の人より抜きん出ている。その上、見た目だって素敵だ。静かで落ち着いた性格で、何事にも動じないところも安心できる。

 美術にもとても詳しいし、魔力画を取り外せるような技術も持っている。


 よく考えたら、乙女ゲームでも人気がありそうな人だ。そんな人の恋人になれてちょっと照れるしすごく嬉しい。

 じっと見つめていると、ヴィルレリクさまが視線に気付いて首を傾げた。私は慌ててお茶を飲む。


「なに?」

「いえ、その、ヴィルレリクさまより素敵な人なんてきっと見つからないだろうなって」

「口説いてるの?」

「口説いてません!」


 あやうくむせるところだった。ティーカップを置いてヴィルレリクさまを睨むと、琥珀色の目が柔らかく微笑んで見ている。


「ウィルって呼んでって言ってるのに」

「……ウィルさま」


 そっと呼ぶと、ヴィルレリクさまがうんと頷きながら私の手を握る。

 ウィルさま呼びにも、恋人の距離感にも、なんだかまだ慣れない。


 窓の外からは明るい笑い声が聞こえていた。チラチラ見えるものから察すると、どうやらお兄さまとミュエルはお庭に出て雪合戦をしているようだ。どうしてそうなったのかはわからないけれど、なんだか楽しそうではある。

 お兄さま、ミュエルの前でも家族といるときみたいに自然体なので、もっと仲良くなってくれたら嬉しいけれど、ミュエルはどう思っているのだろうか。聞いてみたいけれど、下手に探りを入れて意識したせいで距離が離れてしまうというのも避けたいし。


 考えていると、ヴィルレリクさまが私の手にきゅっと力を込める。

 隣に座るヴィルレリクさまを見ると、いつも飄々としたヴィルレリクさまが真剣な目でこちらを見ていた。






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