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運命を決めるのは誰ですか?3

 帰宅したあとに私とお兄さまが揃って(筋肉痛で)倒れてしまったこともあって、お父さまとお母さまは泣きながら怒って安心するという大変な状況に陥ってしまった。


 秋の初めに入学してから今まで続いていた魔力画の事件、そしてそれが聖画を使った国家反逆に繋がっていたということもあり、特に王城で勤めているお父さまは大変だったようだ。毎日仕事から帰ってきては私のベッドのそばに座り「リュエットが無事でよかった」「もう危険なことはしないでくれ」「しばらく家でゆっくりしなさい」と呪文のように唱えていたくらいである。私より早く回復したお兄さまも似たような呪文を唱えはじめると、ようやくお母さまが引き剥がしてくれた。


 事情聴取も無事に終え、ゆっくり休養しているうちに学園は冬休みに入り、最近ではちらほらと雪が降りはじめている。

 表向きには、私たち兄妹は週末に小旅行に行き、そこで馬車が壊れてしまったために学校を休んだということになっている。ヴィルレリクさまやミュエルも少しお休みをしたらしいけれど、それぞれ家の仕事やちょっとした風邪という名目で特に怪しまれることもなかったようだ。


「マドセリア家についてはやっぱり色々噂されてるみたい。放火と盗難の容疑だとは発表されているけれど、それが一家ぐるみだったというのもあるし、特に魔力画の蒐集家たちは思うところがあるみたいよ」


 あのとき、無事に帰ることができていたミュエルは、冬休みに入る前からちょくちょくうちに来て家で大人しくしている私にあれこれと教えてくれた。冬の課題である刺繍を一緒にやりながら話す話題は、やっぱり事件のことに偏りがちだ。


「ご長男のガレイドさまが、せめて弟だけでもと減刑を求めてらっしゃるんですって。このところ翳っていたけれど、前の優秀だった様子に戻ったようだとか」

「そうなの?」

「そう。兄として、次期当主としての責任を取る代わりに弟を助けてくれと王族の方にも直談判したとか。証言にも協力的でいらっしゃるそうよ」


 私が最後に見たガレイドさまは、虚ろな目をしていて、妄言しか口にしていなかった。捕まってからになってしまったけれど、以前のガレイドさまへと戻ったのであれば、あの家でひとり自分をかろうじて保っていたサイアンさまもきっと心強いことだろう。

 ……もしかして、お兄さまのお兄ちゃまアタックが効いたのだろうか。だとしたらすごい。


「流石に学園へは戻れないだろうけれど、ご兄弟は親類を頼って他国で暮らすことになるかもしれないって」

「その方がいいかもしれないわね」


 サイアンさまもマドセリア伯爵夫人から命じられて聖画のために動いていたのだろうけれど、それでも夫人とは違って罪悪感もあったのではないかと思う。

 知り合って展示会へと誘われてからしばらく、サイアンさまは私をお茶やお出かけに誘っては断られというのを繰り返していた。あの頃、やろうと思えば無理に誘うこともできただろうし、私を拐うための機会は何度かあったように思う。それをしなかったのはサイアンさまが私を拐って脅しに使うことを躊躇っていたからではないだろうか。


 命に危険が迫ったときのためにと、魔術の掛かったブローチまで渡してくれていた。私は警戒していたけれど、結局サイアンさまは私をマドセリア家から守ろうとしてくれていたのだ。

 ちなみにブローチは、ヴィルレリクさまと黒き杖を通じてサイアンさまに返そうとしたけれど、サイアンさまは受け取ってくれなかったそうだ。


「あのブローチ、きっとマドセリア家の大事なものよね。いつか返せるといいけど」

「それはそれでサイアンさまが落ち込むことになりそう。リュエットが持っていてあげたほうがきっと喜ぶと思うわ」


 ヴィルレリクさまにも似たようなことを言われたので、ブローチは私の部屋で大事に保管されている。いつかお礼と共に返せる日が来るまで預かっているのだと思うことにした。


「で?」

「え?」

「で、どうなの?」


 針と布を置いたミュエルが、同じソファに座る私にずいっと近付いてきた。にんまりと笑っているミュエルの勢いに押されて私はちょっとのけぞる。


「どうって何が?」

「ヴィルレリクさまのことよ! 何か進展あった?」

「捜査については訊いてないからわからないわ」

「そうじゃないわよっ!」


 ミュエルは半分ほど完成した私の刺繍も奪ってテーブルに置き、代わりにクッキーの載った小皿を持たせてくる。雪の結晶を模したクッキーを食べてから、ミュエルはさらに言い募った。


「恋人になったの?」

「こ、な、なってない!」

「え? でもリュエットはヴィルレリクさまのこと好きなんじゃないの? あれしたこれした〜っていつも手紙にも書いてるじゃない」


 ズバッと言われて、私は恥ずかしさで顔が燃えそうなほど熱かった。

 他人から見てもやっぱりそうだろうか。小さなことでいちいち浮かれきっているように見えるだろうか。他にもバレているのだとしたら恥ずかしくて部屋に篭りたい。


「でも、ヴィルレリクさまがどう思ってるかわからないし……椅子を投げたところを見られて笑われたし……ど、ドレスの紐が切れたところも見られたし……」


 いつ思い出しても泣きたくなる記憶である。あの日のことは緊張で覚えていないことも多いのに、なぜあのシーンだけ鮮明に思い出せるのだろうか。死にたい。ついでに事情聴取の前にヴィルレリクさまが「あれは言わなくてもいいよ」と言ってくれたことについても思い出すと領地の丘を猛烈に走ってそのまま居なくなってしまいたいほどにいたたまれない。


「いやヴィルレリクさまってそんなの気にするような人じゃないでしょ。というかそういうことで引く人なら隔日で遊びに来ないでしょ?!」

「えっ、ミュエル、なんで知ってるの?」

「それも手紙に書いてたし、あとヴィルレリクさまと話し合ったから」


 一日にお客が多いと迷惑だろうということで、ミュエルはヴィルレリクさまとうちに来る日をずらそうと話していたらしい。どうりで鉢合わせになることがないと思った。


「どう見ても絶対あっちも気があるから。ヴィルレリクさまだって人気がないわけじゃないし、領地に帰る前にもっと仲良くなったほうがいいわよ!」


 力説したミュエルの迫力に、私は思わず小さく頷いた。






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