真実はここで見つけるしかないようです14
聖画を貫いた剣が、わずかに光を帯びる。文様がほんのりとオレンジがかった光となり、それが剣を滑り降りて聖画に吸い込まれていく。パチッ、と小さな音がしたのと同時に、聖画は燃え上がり始めた。
緑や青、紫などに次々色を変える炎がヴィルレリクさまの顔を照らし、髪を揺らす。
「ヴィルレリクさま!」
「リュエットは来ちゃだめ」
剣を突き立てながら炎のすぐそばに立っているからか、ヴィルレリクさまの琥珀色の目はその色が移って不思議な眼差しになっている。
「聖画が、あんなに簡単に……」
呆然と呟く声が聞こえた。
私の隣で上体を起こしたサイアンさまが、信じられないような目でそれを見ている。激しく吹き上げる炎を前に、私もただ見つめるだけしかできなかった。
燃え上がる聖画とヴィルレリクさまは、まるで魔力画に描かれているように幻想的だ。
「ああああ!!」
力の限りに声を上げたマドセリア伯爵夫人にはっとなる。夫人の目は燃えている聖画に釘付けになっていて、その表情にはもはや理性は見当たらない。
「許さない……殺してやる!!!」
「ヴィルレリクさま、危ない!」
ヴィルレリクさまに襲い掛かろうとする夫人は、何も武器を持っていないはずなのに恐ろしく感じた。全てを捨てた様子そのものが脅威に感じる。
けれどヴィルレリクさまはちらりとマドセリア伯爵夫人を一瞥しただけだった。なりふり構わずに襲いかかる夫人が、ヴィルレリクさまに触れた途端にまた叫び声を上げる。もがくように転がった夫人の手には、聖画と同じ炎が宿っていた。
「ああああ!! 熱い!!」
「母上!」
「火が移るから触らないほうがいいよ。そのうち消えるから」
よろめきながらも母君のもとへ向かったサイアンさまに、ヴィルレリクさまが言う。
まるで蝋燭から蝋燭へ火を移すように一瞬で、ヴィルレリクさまからマドセリア伯爵夫人の手に火が移った。燃えている聖画に触れたわけでもなく、ただ立っているだけのヴィルレリクさまに触れただけで燃え上がった。
今のヴィルレリクさまに触れると、あの火が移る。だから来てはいけないと言ったのだ。
サイアンさまが上着を脱ぎ、夫人の手に移った炎を消そうと打ち付けている。けれど炎は消えることなく、上着の触れた部分へと移っただけだった。サイアンさまがその上着を手放すと、床に落ちた上着は燃え続ける。けれど、火が移った部分以外に燃え広がる様子はなかった。
「ヴィルレリクさま、ヴィルレリクさまは大丈夫なのですか?」
「うん」
聖画は激しく燃えているままだけれど、その姿が少しずつ黒く焦げ、額縁も崩れ始めていた。それに合わせて炎も少し小さくなったように思う。すぐそばに立っているヴィルレリクさまや教会の床に燃え移る様子がないのは、これがヴィルレリクさまの血という魔素を用いた魔術だからだろう。
「許さない……お前だけは絶対に許さない……」
手で燃えていた炎がゆっくりと消え、しばらくしてからマドセリア伯爵夫人はよろよろと立ち上がった。その手のひらには火傷がある。痛々しいものなのに、夫人はそのまま再びヴィルレリクさまへと近付こうと歩き始めた。サイアンさまが夫人の後ろからそれを引き留める。
「母上、危険です! おやめください!」
「離しなさいこの無礼者!! あいつを殺してやる!!」
「母上!」
「触るんじゃない! この役立たずめ! どいつもこいつも邪魔ばかりして!!」
男性であるサイアンさまの方が力が強いはずなのに、夫人のなりふり構わない暴れ方は抑えるサイアンさまを振り解かんばかりだった。今のヴィルレリクさまに触れるとどうなるかわかっているはずなのに、それでも掴みかかろうとしている。サイアンさまを引き摺りながら、マドセリア夫人はヴィルレリクさまを罵倒した。
「お前が!! お前が全部台無しにしたんだ!! 許さない!! この人殺し!!」
ヴィルレリクさまは黙って夫人に目を向けていた。反論することも肯定することもなく、ただ琥珀色の目で静かに取り乱した姿を見つめている。
夫人の姿がヴィルレリクさまに近付き、私もどうにかして止めなければと思った瞬間、お兄さまの声が近くで聞こえた。
「マドセリア伯爵夫人は少々取り乱しているようだな、おい、こんな時こそ嫡子としての実力が試されるぞ」
「お兄さま、止めて!」
「よしわかった。さあガレイド!! 貴様のお兄ちゃまっぷりを我が妹にも見せつけてやれ! お兄ちゃまアターック!!!」
ガレイドさまがマドセリア伯爵夫人とサイアンさまに体当たりをする。長身のガレイドさまの力を受けて、2人は転がった。
体当たりというか、お兄さまがガレイドさまを放り投げただけである。けれどもお兄さまは満足げに高笑いを教会に響かせた。




