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真実はここで見つけるしかないようです12

「武器を捨て、ここから立ち去れ。さもなくば彼女の命はない」


 ゆっくりと近付いてくるヴィルレリクさまに対して硬い声で言うサイアンさまは、私を肩に抱きながら起き上がり後退りする。マドセリア伯爵夫人の上からどく形になったので、夫人が顔にかかった布を取って起き上がった。


「その娘を殺しなさい、サイアン!! そして術を発動させるのよ! この際聖画がなくとも、あなたの魔素でもいいわ!!」

「なんてひどいことを」


 マドセリア伯爵夫人は、サイアンさまの母親だ。それなのに、自分の息子に対して人を殺すよう命じ、そして自らの命を断つようにも命じている。

 髪を乱れさせ叫んでいる夫人に、ヴィルレリクさまが近付く。剣を持った手でその背後を殴ると、マドセリア伯爵夫人の体から力が抜けた。ヴィルレリクさまは倒れる夫人の体を避けてこちらへと一歩近付く。


「貴様!!」

「リュエットを放せ、サイアン」


 夫人を気絶させたときの無駄のない動きと、こちらに向けられている無表情な目。いつものヴィルレリクさまとは全く違う雰囲気に威圧感を感じているのは私だけではないらしい。私を掴んで背後へと引くサイアンさまの力が強くなっている。転ばないように足を後ろに動かすと、やがて祭壇の向こう側へと回り込むことになった。


「それ以上近付くと、リュエット嬢と共に命を断ち切る。それでもいいのか」

「サイアンはそれでもいいの? リュエットの首を斬れば、彼女は確実に死ぬ。サイアンが持たせたあれをリュエットは持ってない」

「何だと?」


 サイアンさまがわずかに動揺した様子を見せ、それから私に「本当か」と尋ねた。


「すみません、あれというのは」

「宝石だ。私が確かにあなたに渡した」

「あ、あのブローチ……あれは、」

「ここにある」


 ヴィルレリクさまがポケットから出した、大きなエメラルドのブローチを見て、サイアンさまはなぜ、と声を漏らした。私の方へと再び向けられた視線が、傷付いているように見えた気がする。


「すみません、あの、高価なものだし、どのような魔術が掛けられているかわからなかったので……」

「リュエットのせいじゃない。リュエットはこの宝石を持ち続けていられないから」

「どういうことだ」

「僕が持っていなくても、彼女はブローチをこの場に持ってくることができない。落としたり、盗まれたり、偽物とすり替えられる。必ずどこかで見失い、ここにはブローチなしで現れるしかない」


 ヴィルレリクさまの言葉は、サイアンさまだけでなく私まで混乱させるものだった。

 その言い方だと、まるでヴィルレリクさまは未来のことを知っていたように聞こえる。ここに来ることも、サイアンさまに頂いたブローチを私が今持っていないことも、すでに確定した未来だったかのように喋っている。

 話がよくわからない私に、ヴィルレリクさまが目を向けた。


「リュエットの身を守るためにサイアンが持たせたこの宝石のブローチは、死の危機が迫ったときに一度だけ持ち主を助ける魔術が掛かっている」

「そんな魔術が掛かっているものを……サイアンさまが、私を守るために?」

「でもリュエットはそれをここに持ってきていない。サイアンはそれを知らずに、リュエットと共に首を斬る。サイアン、君はリュエットの最期の姿を見て絶望しながら死んでいくことになる」


 サイアンさまはその光景を想像したのか、青い顔で私を見た。その様子で、サイアンさまがこの後どうするつもりだったのかを理解する。そして、本当に私の命を奪おうとしていなかったのだということも。

 マドセリア家の陰謀に加担しながらも、サイアンさまは私のことを助けようとしていたらしい。だからサイアンさまは私を手荒に扱うことはなく、そしてあのブローチを私に渡してくれたらしい。


「あっ」


 サイアンさまに強く押しやられ、私は床に転んだ。駆け寄るヴィルレリクさまに助け起こされ、その光景を見る。

 ひとり祭壇の近くに立ったサイアンさまが、自らの首に剣を当てている。祭壇の内側、サイアンさまの足元にはマドセリア家が集めた聖画が並んでいるのが見えた。私を見つめる焦げ茶色の目の片方から、小さな滴が落ちた。


「すまない」


 サイアンさまがぐっと手に力を込める。


「やめて!!」


 何も考えず、私はポケットの中のものをサイアンさまに投げ付けた。

 全てがスローモーションに見える。

 私はもがくように立ち上がり、サイアンさまに駆け寄る。林檎の転がる魔力画が、サイアンさまの体に触れた途端に真っ二つに割れる。ヴィルレリクさまの声と、お兄さまの声が聞こえる。サイアンさまの目が私を見ている。

 私の目には、剣に沿って広がる赤い線が見えた。







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