真実はここで見つけるしかないようです11
木製の壁が壊される轟音、怒号、突然現れた斧を持つ人間。
衝撃が大きすぎて、私だけでなくサイアンさまも、ついでに顔を布で覆われて私の下にいるマドセリア伯爵夫人も固まった。ヴィルレリクさまはガレイドさまと剣を打ち合っている。マイペースだ。
お兄さまは息を整えながら、肩や腕を払って木片を落とす。それからすっと周囲を見渡した。
剣を交わすヴィルレリクさま、夫人に馬乗りになっている私、そしてそれに剣を向けるサイアンさま。
「……どういう状況か理解しかねるが、無事なようだな、リュエット」
「え、ええ」
「しかしお転婆が過ぎるのではないか? いや、お兄ちゃまとしては昔のやんちゃな姿も愛らしいと思うが、自ら淑女を目指すといっていたのだから、もう少し慎みをだな」
こんな状況で説教を始めないでほしい。
「お兄さま、マドセリア家はミュエルを拐った上に、うちにある聖画を寄越せと言った挙げ句、サイアンさまかヴィルレリクさまの命を使って魔術を発動すると言っていたのです」
「なるほど端的でわかりやすい説明、さすが我が妹」
「ヴィルレリクさまはガレイドさまを食い止めていらっしゃるので、お兄さまはサイアンさまを止めてくださいますか?」
「それは無理だ。多分負ける」
「は?」
私の言葉にお兄さまを睨んだサイアンさまだけれど、お兄さまはきっぱりと左右に頭を振って断った。
「以前授業でサイアンの剣を見たが、確実にお兄ちゃまと相性が悪いタイプだ。お兄ちゃまは負けがわかっている試合はしない」
「……お兄さま、何しにここに来たのですか?」
「もちろんリュエットを助けに来た。だが負けてしまっては元も子もないだろう? 安心しろ、策はある」
フッと何か気取った笑みを浮かべたお兄さまが、ヴィルレリクさまの方へと声を上げた。
「ヴィルレリク、その相手はマドセリア家長男ガレイドと見た! そっちなら体力も削られてそうだし何とかなりそうだから良ければ相手を交換しないか?」
「別にいいけど、ティスランが死んだら流石にリュエットも悲しむよ」
「流石にとはなんだ、流石にとは。リュエットはお兄ちゃまに傷ひとつでも付いた時点でワンワン泣いてくれるぞ」
「泣きません」
私が否定すると、お兄さまが悲しげな目を向けてきた。気付かないふりをした。
お兄さまもヴィルレリクさまも、呑気な会話をしている状況じゃないと気付いてほしい。現にその事実に気が付いているサイアンさまは、ヴィルレリクさまとお兄さまの間を防ぐように立って剣の切っ先をお兄さまに向けている。
お兄さまはこう見えて、私以外のことに関しては客観的事実を基にした言動をする。なのでサイアンさまと戦うと負けるというのは本当なのだろう。なぜか剣ではなく斧を手にしているお兄さまと、斧より長い剣を持つサイアンさまでは武器的にもサイアンさまが有利だ。このままサイアンさまがお兄さまに襲い掛かれば無事ではすまされない。
「サイアンさま、やめてください」
「無理だ。リュエット嬢、邪魔をするならあなたも排除する」
固く感情の読めない声でそう言ったサイアンさまの背中に、何かが投げつけられた。床に落ちたのは椅子だ。投げた力が強かったのか、脚の部分が一部壊れている。
まともに当たったサイアンさまは、呻き声を上げてバランスを崩し片膝をついた。その隙を逃さずにお兄さまは脇を通り抜ける。
「ヴィルレリク、流石に椅子を投擲するのはどうかと思うぞ」
「リュエットもやってたよ」
「ヴィルレリクさま!」
ひどい。お兄さまが喜びそうな話をバラすなんて。
私が声を上げると、ヴィルレリクさまはほんの少し笑い、肩を竦めてこちらに歩いてきた。その背後ではガレイドさまの剣をお兄さまが斧で受け止めている。
ふと思い出したようにヴィルレリクさまが振り返る。
「そうそう、ガレイドはサイアンの血を使うことで王位に就こうと考えていたそうだよ。見上げたお兄ちゃまだね」
「なんだと……貴様、かわいい弟を犠牲にして成り上がろうとするとは何事だ!! 家族を守ることすらできぬとは、貴族長子の風上にも置けん。貴様にはお兄ちゃまを名乗る資格はない!!」
お兄さまがヴィルレリクさまの言葉を受けてすごい勢いで斧を振り回し始めた。相変わらず虚ろな目で剣を振るうガレイドさまも、その勢いに押されかけているように見える。
「貴様には私が直々にお兄ちゃまの心得を刻み込んでやろう。お兄ちゃまアタック!!」
「お兄さま……小さな声でやってください」
「お兄ちゃまキック!!! どうだ貴様! これが妹を守るお兄ちゃまの真の力だ!! 思い知るがいい、お兄ちゃまの資格を失いし者め!!」
別にガレイドさまはお兄ちゃまを自称してはいない。
ものすごくどうでもいいことを説教しているし、しかも攻撃するたびに恥ずかしい叫び声を上げているけれど、お兄さまもそう弱くはないらしくガレイドさまに対して攻めていっている。少なくとも負けそうにはない様子にホッとした。と同時に、ヴィルレリクさまが私に縄を投げてくれた。
「捕まえてるのも大変だろうから、それで縛って」
「はい」
「やめろ、リュエット嬢」
素早く私の首元に忍び込んできたのは、鈍い光を放つ剣だった。体勢を立て直しにじり寄ってきたサイアンさまが、私の肩を抱き寄せて首に剣を当てる。
「ヴィルレリクも動くな。さもなくばここで彼女を殺す」
剣を当てられ、首に圧迫感を感じる。サイアンさまの力は強く、私をしっかりと捕まえていた。
まだ私が持っている魔力画の効果はあるようだ。ならば私を気にせずに切り掛かってくれた方がいい。剣を持っているヴィルレリクさまが斬りかかれば、サイアンさまは私の首に当てた剣でそれを防がざるを得ない。その隙に逃げられる。
「ヴィルレリクさま! 私は大丈夫です!」
そう呼びかけたヴィルレリクさまは、表情の消えた顔でサイアンさまを睨み付けていた。




