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真実はここで見つけるしかないようです2

 馬車に揺られている時間は短くはなかったけれど、そう長くもなかったように感じた。視界が塞がれているからか、時間の経過が分かりにくい。サイアンさまも私も一言も発さずにいたからかもしれない。


 サイアンさまは、最初から私を狙おうと思っていたのだろうか。あの招待状は。マドセリア家に並べられていた魔力画たち。日の当たる美しい中庭。学園の図書室の匂い。もう失われてしまった、カフェの大きく美しい魔力画。ヴィルレリクさまの琥珀色の目。ふかふかした小鳥の魔力画。ゆっくりと動く円。降り注ぐガラス。暖かいサンルーム。


 不安と祈りの中で沢山のものが頭の中に浮かんでは消え、そして馬車が止まった。


「手を」


 サイアンさまにそう言われて、私は恐る恐る右手を伸ばした。その手をしたから掴む感覚があり、導くように引かれる。

 まだ目隠しを取ってはいけないようだ。左手で馬車の座面や扉を探りながら立ち上がり馬車の端へと進むとぐっと腰に腕が回される。反射的に固まった体をサイアンさまは支えながら地面へと導いた。しっかりと地面を踏みしめ、それから少しだけ離れようとすると腕が緩む。それが離れる前に、サイアンさまが近付いたのがわかった。


「……どうか抵抗しないように。大人しくしていれば危険はない」


 感情を押し殺した囁き声を、私は困惑した気持ちで聞いた。

 今の言葉は、脅しなのだろうか?

 短く告げられただけの言葉だけれど、私にはむしろお願いのように聞こえた。ミュエルの拉致を知らせ、私をここまで連れてきたサイアンさまが、どうしてそんなことを言うのだろうか。


「そのまま前へ」


 感情のない声で急かされ、私は考えながらも進む。均された土の感覚はやがて石畳となり、さらに建物の中へ入ったのがわかった。葉擦れの重なる森のような音から、足音が反響する静かな空間へと変わったのがわかる。


「サイアンさま、もう目隠しを取っても構いませんか?」

「……」

「サイアン、取ってさしあげなさい」


 私とサイアンさまがいる前方、建物の奥側から声が聞こえた。

 優しく響いた声なのに、どこか命令の色が強いように感じる。


「失礼」


 サイアンさまが結び目を外し始めたので、私は目に手をやって覆っていた布を取る。何度か瞬いてから、近付いてくる人物に思わずぎゅっと自らの手を握って身を竦めた。


「……マドセリア伯爵夫妻……、あなたたちが犯人なのですか?」

「あら、いきなり問いかけるだなんて礼儀知らずだこと。やっぱり最近の娘は駄目ね」


 豊かに波打つ濃い緑色の髪。細身の体を覆った豪華なドレスに、宝石をちりばめた扇子。こちらを見るマドセリア伯爵夫人の表情は、展示会で会ったときよりも随分と印象が違っていた。

 隣に立つ伯爵も、ニタニタとした笑みを浮かべている。2人の前に立っていることが嫌だと感じるほど、夫妻の雰囲気はおかしかった。


 目を逸らしたい気持ちをぐっと抑え、マドセリア夫妻を見る。展示会のときよりも豪華な服装をしているけれど、見える範囲には武器や危ないものを持っていない。とりあえず、すぐに危害を加えるつもりではないようだ。


 それから周囲を見回す。

 建物は貴族の邸宅のようだったけれど、規模がかなり狭い。玄関ホールもこぢんまりとしていて、ここに人を招くとしたら20人くらいが限界ではないだろうか。王都にあるマドセリア家の本宅でないことは確かなようだ。

 先程聞こえてきた葉擦れの音も、どちらかと言うと領地で聞いた森の音に似ている。少なくとも王都の中心地で聞こえる音ではない。夫妻は堂々と正面から私たちを迎えたので、マドセリア家の別宅なのかもしれないと思った。


「そうね、顔は悪くないと思ったけれど……」

「母上、リュエット嬢はどちらへご案内すれば良いのですか」

「まあそう焦らないで頂戴。取って食うわけじゃないのだから。ねえ?」


 くすくすと笑い合う夫妻の声が嫌な感じで響く。隣を見上げると、サイアンさまは物言いたげにしているものの、結局少しだけ頭を下げただけだった。


 サイアンさまは夫妻に従うつもりのようだ。

 ならば、私の味方をしてくれるわけではない。ここには頼れる人間はいないのだ。


 ぎゅっと手に力を入れ、それから背筋を伸ばす。


「ごきげんよう、マドセリア伯爵、マドセリア伯爵夫人。サイアンさまがご招待くださったのでお伺いしました」


 マナーの授業で習った知識と、お母さまの姿を思い出してうんと上品に、そして堂々と振る舞う。口角を上げて、足さばきに気をつけて。

 貴族の態度は武器だという。

 ならば何も持っていない私にとって、それは一番身近な武器だ。


「私の大事なお友達が先にお邪魔していると聞きました。お会いしても?」


 にっこりと微笑みながらそう言うと、マドセリア伯爵夫人の片眉がつと上がった。






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