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悪意はいつどこにあるのかわかりません7

 昼食はラウンジで食べることになった。ダイニングホールの方がメニューが充実しているし美味しいけれど、その分人が多く混んでいる。他人との距離を開けておくには、テーブルが小さく距離が離れているラウンジのほうがいいということになったのだ。

 お兄さまや別授業だったミュエルとも一緒に食べる約束なので、私はヴィルレリクさまと一緒にラウンジに向かう。


「ヴィルレリクさま、魔力画が燃える事件が以前にもあったというのはご存じですか?」


 ヴィルレリクさまのお父さまであるキャストル侯爵は、魔術に関連した犯罪を取り締まる機関である黒き杖を率いていらっしゃる方だ。代々その役割をキャストル家が引き継いでいるということなので、次期侯爵であるヴィルレリクさまも既に黒き杖と関わりがあるのだろう。そのことから何か知っているのではと話題を出してみると、ヴィルレリクさまは頷いた。


「記録には残ってるね」

「そのときの犯人が、今回の事件を引き起こしているのでしょうか?」

「可能性はある。犯人は捕まっていないから」

「その、以前に被害に遭った方にお話を聞いてもいいでしょうか」


 ミュエルが教えてくれた情報によると、10年以上前に起きた、魔力画が燃える事件のどの家でも死傷者は出ていない。しかし、だからこそ捜査が公になることはなく、事件が起きなくなったところで犯人探しは終わってしまった。科学的な捜査ができないこの世界では、証拠だけで犯人を捕まえることはかなり難しいからだ。

 しかし逆にいうと、また事件が起こるようになった今こそ、犯人を捕まえるチャンスだともいえる。昔起きた事件との共通点や関連する人物が見つかれば、そこから犯人が見つけられるかもしれない。


「関係者の名前は教えないよ」

「ダンブルグ家も被害に遭ったというのは本当ですか?」

「……誰から聞いたの?」


 琥珀色の目が怪訝そうに私を見る。

 ヴィルレリクさまは否定も肯定もしなかったけれど、その質問は肯定を示しているように私には聞こえた。


「その、人づてに……。もし可能であれば、お話を聞いてみたいなと思ったのですが」

「……ダンブルグに怪しいところはないから、当時の状況を聞くくらいなら大丈夫かもね。ラルフに話をつけようか?」

「えっ、あ、あの、はい。そうしていただけると、助かります」


 ヴィルレリクさまは、ダンブルグ家のラルフさまと従兄弟同士だ。直接ダンブルグ家にお願いを通すよりは誰かを介して話を通した方がやりやすいし、それが歳の近い方であれば私もお話をしやすい。

 でもラルフさまは、私にとって違う意味で話をしにくい人である。前世の推し。今世でも眩しいので、近寄り難さが半端ない。考えるだけでも眩しいのである。

 どもりながら頷くと、ヴィルレリクさまはじっと私を見てからぽつりと訊ねた。


「リュエットって、ラルフのことが好きなの?」

「えっっ!!」

「正式に紹介してほしい? ラルフはまだ婚約者もいないし」

「やめてくださいちがいます!!!」


 全力で断ると、ヴィルレリクさまがきょとんと目を瞬かせた。


「ラルフさまはこう……私の……なんていうか……憧れというか、女生徒みんなの人気者といいますか……そういう感じなので、別に個人的に近付きたいとかそういうよこしまな思いを抱いているわけではないんです!」

「そう。ならいいけど」


 私のしどろもどろな説明でちゃんと理解してくれたのか、ヴィルレリクさまはあっさり頷いて、再び歩き出した。私もそれについていく。

 ラルフさまと実際にどうこうなろうだなんて、恐れ多すぎて考えたことなかった。しかも、ヴィルレリクさまがラルフさまと私を引き合わせようするだなんて。


 ヴィルレリクさま、私がラルフさまと付き合ってもいいと思ったのかな。


 そう思うとなんだかちょっと悲しさで胸が痛くなってしまい、その痛みに戸惑う。その戸惑いが頭に残って、結局ラウンジについても私はお兄さまやミュエルの話を上の空で聞くだけになってしまった。






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