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沼はどこにでもあるようです3

「あんまり素敵な男性が多過ぎて、緊張して気分が悪くなっちゃったの? まあリュイちゃんったら」

「いえお母さま……それはちょっと違うというか」

「人を見てくれで判断するのはどうかと思うぞ、リュエット。人間皮を剥げば似たような見た目に変わるからな」

「お兄さまちょっと黙って」


 よく見るとイケメンだったお兄さまは、中身が残念なおかげで変に緊張したりすることもなかった。学園に通っているのでたぶん攻略対象なんだろうけれど、こんな性格でいいのだろうか。


「リュエット」

「お父さま」

「具合が悪いのなら、今日の園中夜会は欠席するか? 無理に行くこともない」

「晩餐会」


 忘れてた。

 新入生歓迎と上級生との交流も兼ねて、今夜は学園で夜会が開催される。

 正式な社交界とは違い、生徒と教師がメインの夜会だけれど、それはつまりあのイケメン濃度そのままでの夜会ということだ。

 乙女ゲームではシステム上、誰かしらを攻略する形でゲームが進んでいたけれど、この世界でもそんなことにはならないよね。強制的に誰かと仲良くなるとか。


「怖っ!!」

「まあリュイちゃん、言葉が乱れてるわよ」

「欠席しても構わんだろう。明日からの授業の方が大事だからな」

「しかし父上、授業もすぐに始まるからこそ、早めに友人を作っておいた方がリュエットのためになるかと」


 そうだ、フレンドだ。

 乙女ゲームの中でもフレンドはかなり重要だった。お互いに挨拶を送り合うと、ちょっとだけ行動力が回復する。ちょっとしたメッセージを送りあったりできるので、重要な情報や攻略方法などをやり取りすることもあった。私が課金を決めたのも、フレンドが今回のキャンペーンはお得だと力説していたからである。

 フレンドは定期的に開かれる夜会イベでしか増やせなかったから、今夜を逃すと時間が空いてしまう。


「いやいやいや!」


 違う違う、ここは現実だから。フレンドじゃなくて友達だから。

 夜会だと知り合いやすいだろうけれど、授業を一緒に受けていたら友達だってできるだろうし、いくらなんでもぼっちにはならないだろう。というか攻略情報とかないでしょ。

 そもそも課金とかどうなってるんだろう。前世の正月に思い切って買ったあの課金福袋、結局使ってないけどどうなったの。


「父上、リュエットはかなり混乱しているようですね」

「うむ……やはり医者を呼ぶべきか?」

「いえお父さまお兄さま、大丈夫です。夜会も行きます」

「リュイちゃん、本当に大丈夫なの? お母さまは心配だわ」


 家族の気遣わしげな視線に頷き返す。

 じっとしていたら、余計に混乱してしまう気がする。


 この先の人生、乙女ゲームだからとかそういう理由で望まない方向に行ったりイケメンの眩しさにびびったりしながら生きるのは流石に嫌だ。

 とりあえず情報を集めなければ。


「もしダメなら……私は、領地に逃げ帰ります」

「まあ、それでも構わないが」

「父上、リュエットを甘やかし過ぎです」


 娘ラブなお父さまで良かった。

 もし色々と耐えられなかったら、私はのどかなカスタノシュ地方に引きこもろう。小麦と牛に囲まれてつましく暮らそう。

 前向きに後ろ向きなことを考えていると、お母さまがそっと私の手を握った。


「リュイちゃん、最初から弱気はダメよ。きっとうまくいくって思いながら始めたほうが、楽しい気持ちでいられるわ。何か起きたら、そのときにまた考えたらいいの」

「お母さま」

「私たちの自慢の子だもの。あなたはきっと大丈夫よ」

「……はい」

「そうと決まれば支度をしましょう! うんと可愛くしましょうね!」


 お母さまの楽天的な性格は、こっちまで気持ちを楽にしてくれる。

 今日の夜会は、女の子の友達を作ることを目標にしよう。乙女ゲーム云々は置いといて、学園生活を楽しく過ごせるように頑張ってみよう。

 せっかく楽しみにしていた学園に入学したんだから、勉強も友達作りもうんと楽しみたい。お母さまとお父さまみたいな出会いは置いといて。


「ドレスは何がいいかしら。冬用ならちょうど可愛いのが仕上がったけれど、ちょっと早いわよねぇ」

「あっ」


 お母さまが悩ましげに首を傾げた先。

 そのクローゼットに掛かっていたのは、私が正月に課金したドレスだった。


「正月だから冬用か……」


 なるほど。

 もっと課金しておけばよかった、とちょっと思ってしまった。

 課金しただけあって可愛い。






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