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罠もどこにでもあるようです6

「詳しくはわからんが、どうやらキャストルが話を付けてくれたようだ」


 お父さまとお母さまへの説明で疲れた様子のお兄さまは、私にそう教えてくれた。

 心配され、少し怒られ、そして無事を喜ばれた私とお兄さまは、ソファで休みながら夕食を待っている。


「どういうことですか?」

「わからん。キャストルの家は黒き杖に深く関わりがあるから、魔術画が燃えたという事件にも口出しできたのかもしれん」

「黒き杖?」

「魔術に関わる犯罪を取り締まる機関だ。魔術が関わる犯罪は普通より解決が難しいからな」


 例えば、魔力を含む素材を魔術で加工して作った武器は、通常よりも強力な攻撃を行うことができる。そういったものを使った犯罪の場合、普通の手順では鎮圧や逮捕ができなかったり、適用される法が違うものになったりするので、専門の機関があるのだとお兄様は言った。


「もしあの騒ぎが故意に引き起こされたものなら、魔術が絡んだ犯罪だからな。そうなれば捜査も事情聴取も黒き杖が主導で行うことになる。おそらく改めて事情を話すことになるだろう」

「事情といっても、私が知っていることはほとんどありません」

「そのまま話せばいいだけだ。集めた情報から真実について追及するのは奴らの仕事だからな」




 お兄様の言っていた通り、翌日には黒き杖に所属する人たちが事情を聞きに学園へとやってきた。

 ちょうど授業が終わった頃に、先生から呼び出される。そこにいたのは胸元に黒い刺繍の入った揃いの服を着た男性が4名。そのうち2名は一緒に呼び出されたミュエルへと声をかけていた。


「リュエット・カスタノシュさんですね。先日のマドセリア家で起きたことについて少しお話を伺いたいのですが」


 犯罪を取り締まる機関だと聞いて予想していた人物とは違って、口調も物腰も柔らかな様子の人たちだ。

 私が頷くと、ミュエルとは別室で聴取されるらしく、2人に面談室へと案内された。扉を開けた男性に軽く礼をして部屋に入ると、壁際に凭れて立っている人がいる。


「ヴィルレリクさま! あの、昨日はありがとうございました」


 琥珀色の目が少し細められる。少し微笑んだだけで、言葉は何も返ってこなかった。


「ヴィルレリクさまも、昨日のことについて聞きに来たのですか?」

「知らない人だけだと不安かと思って」


 私を気遣ってくれたようだ。

 事が事なので、誰かに聞かれないようにと面談室の扉は閉じられている。締め切られた部屋の中でよく知らない男性2人と一緒だと、確かに少し不安になったかもしれない。


「ありがとうございます。少し緊張がほぐれた気がします」

「うん」


 一歩私の方へと近付いたヴィルレリクさまが、そっと手を出した。私は慌てて制服のポケットを探る。

 ハンカチに包んだままの魔力画をその手に載せると、ヴィルレリクさまの綺麗な眉がきゅっと寄った。


「これじゃない」

「え?」


 ヴィルレリクさまは魔力画をぞんざいに上着へしまうと、空いた手で私の手をそっと取る。それから手振りで奥へと私を促した。エスコートをしてくれるつもりだったようだ。

 私の手を握る、しっかりした手の感触が伝わってくる。

 見上げると、白い髪がさらっと揺れるのが見えた。琥珀色の目にある虹彩が見える。


 距離が近過ぎて心臓に悪い!


 私は慌てて顔を伏せて、手の感触を出来るだけ気にしないように歩くよう努めた。


 面談室の中央には、長方形のテーブルが置かれている。それぞれ2つずつの椅子が向かい合って置かれていて、奥側の片方に私を座らせたヴィルレリクさまは、隣には座らずにまた背後の壁に凭れて腕を組んだ。

 向かいに座った黒の杖の男性2人が質問を始める。


「まず、マドセリア家に到着したときのことからお伺いしましょう。どなたといらしたのですか?」

「兄です。一緒に馬車に乗って……、御者のラジーも長年うちで働いてくれている人です。大通りを通って来て、マドセリア家で降りるとミュエルが声を掛けてくれました」


 ミュエルのご両親とは挨拶をしてから別れたこと、マドセリア伯爵夫妻に挨拶をしてからサイアンさまに声を掛けたことを話す。特にマドセリア伯爵夫妻とサイアンさまとの会話については、繰り返し詳しく尋ねられた。


 それから見て回った魔術画について、発火した魔術画について。発火したときの状況についても、何度も、そして様々な質問に答える形で説明を求められる。


「匂いについては何か気になることはありませんでしたか? その場にそぐわないような匂いは?」

「匂い……いえ、匂いはあまり覚えていません。庭にいるときは、花の匂いとお菓子の香りを少し嗅いだと思いますけど、ホールでは特に……かすかに女性の香水の匂いが漂っていたくらいでしょうか」

「どのような香水かわかりますか?」

「いえ、あの特定のものではなくて、ご婦人方の身に付けているものが香っていたのだと思います」


 あのときに自分が何をしていたかというのなら説明ができるけれど、匂いや音、誰が近くにいたかというのは思い出すのがかなり難しかった。ほとんどの答えを「わからない」で終わらせてしまっているようで申し訳なくなる。


 私の話では何の役にも立たないのではないか。

 答えられないことが多いので、犯人だと疑われてはいないだろうか。


 そう心配になってしまったけれど、黒の杖の2人も、振り向くと視界に入るヴィルレリクさまも、私の説明で態度を変えることはなかった。ヴィルレリクさまは目が合うとゆっくり頷いてくれたので、大丈夫だと言われているようで心配になるたびに振り向いてしまう。

 長い時間をかけて聴取は少しずつ進められ、日が傾きかけた頃にようやく終了した。






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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィルレリクさま、何故こんなに好感度が高いのだろう……?と謎に思いつつも、密かに青い鳥の小さな絵を返せてしまった事にちょっとしょんぼり。 ブローチにしたらきっと可愛いのになぁもったいなし。 …
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