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罠もどこにでもあるようです3

 いた。

 ヴィルレリクさまだ。

 やはりこうして沢山の人の中にいても目立つ。色もそうだし、背も高いからかもしれない。あるいは、浮世離れ感や得体の知れなさが出ているからかも。それとも、きらびやかな集団にいても輝くほどのイケメンだからだろうか。


 じっと見つめていると、不意に彼がこちらを向いた。顔をこちらに向けて歩みを止めている。距離はかなり離れているのでしっかり見えるわけではないけれど、あの琥珀色の瞳が私をみているような気がしてどきりとする。

 まるで、目が合っているような。


「リュエット、気になる魔力画でも見つけたの?」


 隣にいるミュエルが私に声を掛けたので、私は彼から目を離すことができた。


「ヴィルレリクさまが」

「え、例の? どちら?」

「あそこの……あれ?」


 黄色い花が咲いている垣根のところには、知らない紳士が歓談しながら歩いていた。あんなにすぐに見つかったのに、今は周囲を見渡してもいなかった。


「あそこにいたと思ったのだけど……」

「本当にいたの? 見間違いじゃない?」

「じゃない……と、思う……」


 確かにいたと思うけれど、こうも綺麗にいなくなると自信がなくなってしまう。

 ミュエルとしばらく庭を眺めて探してみたけれど、結局ヴィルレリクさまを見つけるより先に、招待状をくれたサイアンさまの姿を見つけてしまった。

 名残惜しく黄色い垣根の辺りを見ながら、サイアンさまへ挨拶に向かう。


「サイアンさま、このたびはお招きありがとうございます。あの、リュエット・カスタノシュです。リュミロフ先生の部屋の前でぶつかってしまった……」

「ああ、ようこそ」


 サイアンさまは少し怪訝そうな顔をしていたので、覚えていないのだろうと招待状をもらったときのことを少し話しながらお礼を言った。けれど素っ気無い雰囲気は忘れていたせいではなかったようだ。

 彼は庭を見渡していて、挨拶に対してはあまり意識を向けていないような印象である。誰かを探しているのか、または招待側として色んなことに気を回しているからかもしれない。


「こちらは兄のティスラン、こちらは友達のミュエル・ロデリア伯爵令嬢です」

「お招き頂きありがとうございます」

「どうも、よろしく」


 お兄さまとサイアンさまは握手し、ミュエルとは礼を交わす。そこで話が途切れてしまった。あまり興味がない様子なのでそのまま去ってもよかったけれど、ふと先程の光景が蘇る。


「あの、ヴィルレリクさまもいらっしゃっているのですか? キャストル侯爵家の」

「何だと?」


 そぞろに庭を見ていた瞳が、鋭くこちらを向いた。


「どこで見た」

「え、あの……」

「知り合いなのか? 何故?」


 いきなり詰め寄るような口調で質問され思わず一歩下がると、お兄さまがさり気なく間に入ってくれた。ミュエルが私の腕をそっと取ってくれる。


「そういえば同学年だそうですね。妹が彼に借り物をしたので、この機会に返すことができたらと」

「借り物を? 何を借りたと?」

「サイアンさま! 本当に素敵な魔力画たちですわね。お菓子も見かけたのですけど、お茶も頂けるのですか?」

「……ああ、使用人に言えばいい。だが」

「その方は黄色いお花の垣根のところにいたそうですわ。ほらあちらの方。でも見失ってしまったの。私たちは一旦ホールの方へ戻って鑑賞させていただきますわね。もし見つかったらお教えくださいませね」


 ミュエルの勢いに押されて、サイアンさまの視線が私から逸れる。その隙にミュエルが「では失礼」と素早くお辞儀をしてから私の手を引っ張った。兄もサイアンさまに礼をしたので、私も慌てて頭を下げる。それから早足でホールへと戻った。


「ミュエル、ありがとう」

「なんだか失礼な方ね。リュエットに掴み掛からんばかりに問い詰め出して。仮にも招待した女性に対してあれはどうなのかしら!」

「キャストルと仲が悪いのかもしれない。学年も違うことだし、特にそんな話は聞いたことがないが」

「あら、仲が悪いからって他人を巻き込むなんて紳士らしからぬことだわ」

「確かに。場を壊さず話を逸らすことのできたミュエル嬢の方が上手うわてだな」


 お兄さまに褒められて、ミュエルがにっこりと笑った。いつも真顔が多いお兄さまも微笑んでいる。


「ともかく、また八つ当たりでもされたら敵わん。リュエット、ミュエル嬢の言った通りしばらくはホールの魔力画を見ている方がいい」

「そうします」


 魔力画を返すチャンスになるならヴィルレリクさまを見つけたいけれど、サイアンさまを刺激してまでそうしたいほどではない。学園に行けばまた会えるのだから、頑張って探し出したところをサイアンさまに見つかるよりも、ふらふらと居場所が分からないままでいてくれる方がいい気がした。


 しかし、柳のようにするする掴みどころがない人と、何かわだかまりができるなんてかなり難しい気がする。よほどのことがあったのなら、ヴィルレリクさまもそんな人の家にお招きされることもないだろうし。家としての繋がりで招かれたのであれば、学園に入学する前の子供ならまだしも、大人として付き合えるには十分な年齢である。


「リュエット、どれから見る?」

「ええと……あの大きいのにしようかな」


 気になることはあるけれど、私が気にしてもどうにもならないことだ。

 ヴィルレリクさまとサイアンさまのことは一旦忘れて、ホールにある魔力画を楽しむことにした。






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