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罠もどこにでもあるようです2

 会場であるマドセリア伯爵家は、王都でもかなり広い敷地を持つお屋敷だった。うちと同じ伯爵家だけれど、門もエントランスもマドセリア家のほうがうんと立派である。

 お兄さまによると、マドセリア家は領地が海に面していて海運業で大きく成功したらしい。招待状をくれたサイアンさまをはじめご兄弟も早くから商売を学ぶらしく、子供の頃は家畜と走り回って遊んでいたうちとは随分と違うようだ。


「ごきげんよう、リュエット! リュエットのお兄さまもごきげんよう!」

「ごきげんよう、ミュエル」

「こんにちは、ミュエル嬢。いつも我が妹と仲良くしてくれているようで」


 馬車を降りて最初に声を掛けてきたのはミュエルだった。落ち合おうと約束していたけれど、お屋敷が大きく人も多いので心配していたのですぐに会えてよかった。

 私とは手を握って笑ったミュエルも、お兄さまに対してはきちんと淑女の礼をとっている。私も同じように、ミュエルのご両親に挨拶をした。


「まあ、あなたがリュエットさんね」

「ロデリア伯爵、奥さま、初めまして。リュエット・カスタノシュと申します」

「魔力画がお好きなんだってね。若いのに感心だ」


 ミュエルは私のこともご両親に話していてくれたらしい。

 ミュエルとよく似たはっきりした顔立ちのお母さまも、ミュエルと同じ金の髪を持つ優しそうなお父さまも、気さくに話をしてくれた。


「お父さまお母さま、リュエットと一緒に回ってもいいでしょう?」

「ミュエル、またそんなこと言って」

「お兄さま、いいでしょう? ミュエルが一緒の方がきっと魔力画をもっと楽しめるわ」


 魔力画好きであるミュエルのご両親も招待されていると知ってから、2人で一緒に見て回ろうと約束したのだ。私は初めての展覧会でもミュエルがいてくれたら安心できるし、ミュエルは魔力画をじっくり見て回りながら趣味の話を際限なく続けるらしいご両親と回らなくて済む。

 お兄さまにお願いすると、少し片眉を上げたものの頷いてくれた。


「ご両親が構わないなら、ミュエル嬢も一緒に私がエスコートしましょう」

「まあ、よろしいのですか?」

「ミュエルも友達といれば退屈しないだろう。くれぐれも逃げ出さないように」


 逃げ出したこともあるらしい。釘を刺されたミュエルは大人しく返事をしていたけれど、私に向かっておどけた表情を見せた。ミュエルはくるくる表情が変わるけれど、不意に見せるこういうところがとても可愛い。


 知り合いを見つけた夫妻とはまた後でと別れて、私たちはまずマドセリア伯爵への挨拶へと向かった。お屋敷の入り口で招待状を見せて、案内されながらホールへと進む。凝った内装のお屋敷はあちこちに魔力画が掛けられていて、そこを通るだけでも楽しかった。


「ようこそ。マドセリアの魔力画をどうぞお楽しみください」


 そのまま中庭に出られるようにガラス扉が大きく開け放たれたホールで、私たちはマドセリア伯爵夫妻に挨拶した。

 伯爵はがっしりした体型で、大きな髭を蓄えている。反対に夫人は細身な方で、たっぷりした濃いグリーンの髪を細かくカールさせている。貴族らしい貴族といった方たちで、私は少し緊張してしまった。

 代表としてお兄さまが挨拶して私とミュエルはお辞儀をしていたけれど、長い睫毛を大きく動かして瞬いた夫人が私たちに声を掛けてくれる。


「ロデリアのお嬢さんね。そちらは、サイアンの招待でいらしたお嬢さんかしら。魔力画はお好き?」

「はい、リュエットと申します。王立学園にある素敵な魔力画を見て、その魅力を知りました」

「学園にはうちからも沢山寄贈しているわ。同じ画家の作品もあるの。ゆっくり観ていらしてね」

「ありがとうございます」


 思っていたよりも気さくに声を掛けていただいて、少し緊張が解ける。私たちはまた丁寧にお辞儀をしてから、次に挨拶をする人に場所を譲った。


「ねえリュエット、サイアンさまが庭にいらっしゃるって仰ってたけど、先に挨拶する?」

「招待してくださったから、しないといけないんじゃないかしら。一度しか会っていないから、覚えてくださってるかわからないけれど」


 お兄さまを見ると、何も言わないまま頷いていた。

 学園ではマナーの授業もあるので、私がどれほど学んでいるか実地で見るつもりのようだ。


「庭にも沢山魔力画が出されてるけど、ホールの中にある魔力画の方が価値が高いのよ。あまりに高価なものは、外に持ち運べないように魔術が掛かっていることが多いの。すっごく高いものは動かすことさえ難しかったりするけれど、ここのホールは頻繁に入れ替えてるからそこまでじゃないわ」

「そうなの?」

「といっても、安いわけではないけどね。ここの魔力画ぜーんぶ売ったら、きっとこのお屋敷があと二軒くらい建てられるんじゃない?」


 ミュエルの言葉はあけすけだけれど、だからこそ本で読むよりもわかりやすかった。大きな魔力画や凝った額縁を横目で眺めつつ、私たちは庭へと進む。


 鑑賞する側によって値が左右されやすい一般の絵画と違って、魔力画の技術的な価値はそれほど左右することはない。そのためどんなに安くとも銀貨ほどの価値より下がることがないのだ。魔術としての美しさと絵画としての美しさが高ければ、それこそ値段も際限なく上がっていくといわれている。


「わぁ……」

「今回もすごいわねえ」


 整えられた小道に、丹精された庭木。そこに沢山の魔力画が配置されている。その中へ踏み出していない状態でも、額縁にまでこだわった魔力画が明るい庭の中で賑やかに動いているのが見えた。陽気に照らされた魔力画は、普段とはまた違った印象を見せるのかも知れない。

 色とりどりのドレスを着たご婦人に、魔力画を眺める紳士。テーブルに乗せられた可愛らしいお菓子たち。


「すごく綺麗。お庭全体が魔力画みたい」

「さすが、魔力画好きが考えることは違うわねえ」


 うっとりするほど綺麗な景色だった。端から端までゆっくりと見渡そうとして、視線がある一点に引っ張られる。

 黄色が美しい垣根のところに、白い姿を見つけてしまった。






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