00 自殺記念日
はじめまして。
リハビリで小説を書いてみました。
とりあえずきりのいいところまで一気に載せて、あとは毎朝更新にしたいと思います。
もう駄目だ。限界だ。死のう。
ある日、唐突にそう思い立ち、その衝動に身を任せようとしていた僕をすんでのところで止めたのが春里未来だった。
彼女は普段のどんくさい挙動からは想像できないほどの俊敏さで、空き教室の窓から飛び出そうとしていた僕を引きずり下ろすと、床の上で仰向けになった僕の身体を押さえつけるようにして、
「なんで!?」
と、叫ぶ。
それは、突然友人が自殺しようとしている現場に遭遇してしまった人間のごくごくまっとうな問いだったが、その時の僕は気弱な性格の彼女が見せる初めての剣幕に驚くばかりで、その疑問にすぐさま答えることができないでいた。
そもそも自分でも、どうして僕がこんなにも死にたいと思っているのか、よく分かっていなかったのだ。
なんとなく感じる将来への不安とか。
好きなものも趣味もなく、夢やら希望やらとも縁遠い人生への不満とか。
才能を持たない自分に対する失望とか。逆に才能に溢れた弟への嫉妬とか。
離婚秒読みとなった両親とか。そんな彼らが毎晩繰り返している「弟の」親権争いとか。
あとは、そう……つい先ほど帰ってきた中間テストの点が悪かったとか。
そんな細かく、くだらない理由が綯い交ぜになった結果の衝動だったのだと思う。
放課後の廊下をぼんやりと歩いている途中、ふいに考えてしまったのだ。
これから家に帰って、今日受け取ったテストの答案を親に見せたとき、彼らが果たしてどんな顔をするのだろうか、と。
次の瞬間、僕は反射的に近くにあった空き教室に飛び込んで、勢いよく窓ガラスを開け放っていた。
「まぁ、ざっくり言うと、悪かったテストの点を親に見られるのが嫌だった、って感じかな」
しかし言葉にしてみるとこれは……、辿り着いたその結論の酷さに、自分で自分を笑ってしまう。
しかし、彼女は笑わなかった。
馬鹿げた理由に怒ったりもしなかった。
馬乗りになったままの姿勢で話を聞いていた彼女は、目じりに涙をため、オロオロと慌てふためきながらも言葉を探し、そして、ようやく消え入りそうな声でこう言った。
「でも、あんちゃんがいなくなったら、私が寂しいよ」
その一言は、今でも僕の心に強く残っている。
結局、あの時の彼女が一体何を考え、どういうつもりでその言葉を放ったのかは分からない。
しかし、少なくともあの瞬間から僕の中にあった衝動的な自殺願望はなりを潜め、あれから時が経った今でも、僕はこうして退屈な日常生活を謳歌することができている。
そういった意味では、僕は彼女に感謝の言葉の一つでも送らなければならないだろう。間違いなく今の僕がいるのは、彼女のおかげなのだから。
しかし、それは叶わぬ願いだった。
礼を言おうにも、伝える相手がもういない。
彼女が忽然と姿を消してから、かれこれ一年の月日が経とうとしている。