表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の願い事  作者: さき太
24/24

「眠ったか。」

そう言いながら、横になるてつに寄り添うりんの隣りに男が現れる。

「こいつが死んだら本当に傍に置いてやるつもりなのか?想いが通じ合えて一緒に過ごすことができた思いこませて、そのまま逝かせてやる方がこいつの為だとは思わないか?」

そう問いを投げられて、凛は男の方を見ないまま口を開いた。

「だから、神の世には連れて行かない。哲をわたしと同じような存在には絶対にしない。哲はずっと人のまま、永遠という時に飽きたらまた流れていけばいい。哲を偽るつもりもない。いつか離れるべき時が来るまで、わたしは哲の手を離さない。ただ夢を見させるだけで送り出したりなんかしたら、きっと哲は怒るから。これからは誠実に、ちゃんとお互いの気持ちと向き合いたい。それがわたしの願いであり、この人の願いでもあるから。」

愛おしそうに哲に視線をむけながら凛が答えたそれを聞いて、男が賢明な判断だと満足そうに笑った。

「もし、哲を神の世に連れて行くと言ったら、神様は怒った?」

そう言って凛が男に視線を向ける。

「まぁ、お前を攫ってきた童どもに対して怒ったのと同じくらいには怒ったかもな。」

凛に神様と呼ばれた男がそう答えて笑う。

「でも、許してくれるんだね。」

そう言って視線を落とす凛に、神様は、こいつは神の世に連れてかれても禍神にはならないからなとボヤいた。

「もしお前があの男を連れて強行的に神の世にいこうとしていたら。もしお前があのまま自分の我儘を通して、罪のない人々に厄災をもたらそうとしていたら。俺は、お前をあの男もろとも消し去るつもりだった。その方が良かったか?」

そう問われて凛が首を横に振る。

「これで良かった。これで。あの時、淳太じゅんたの手を離すことができて。あの人を吹っ切ることができて。だからもう苦しくない。わたしももう苦しくない。あれから先でようやく、ようやくわたしは穏やかで暖かな幸せな時を手に入れられた。わたしは今、幸せなの。本当に、今が本当の幸せだと思う。だから神様。今までずっとわたしのことを見守っていてくれて、ありがとうございました。」

そう言って、凛は神様に頭を下げた。

「昔の男を忘れさせるには、新しい男をあてがってやるのが一番だからな。全部が良い結末を迎える良い仕事を俺はしたろ?」

そう冗談っぽく笑って神様は、俺はそろそろいくかなと呟くと、凛に真面目な顔を向けた。

「ずっと見てきてお前なら大丈夫だとは思うが。一応、忠告しとく。俺は神が身勝手に引き起こす厄災を憎んでる。人間だった頃、誰よりも神を恨んだこんな男が、神様なんかにさせられたなんて皮肉なものだが。だからこそ俺は、神の横暴を赦さない。神の身勝手から人間を守るために、神としての俺は存在しているんだ。だからもし、お前が身勝手に人に害を成す存在に成り果てたその時は、俺は容赦なくお前を滅する。覚えておけ。俺は神を疎み、神に疎まれた、神殺しの神様だ。俺はお前の味方では断じてない。俺に存在を消されたくなきゃ、精々これからもずっと良い子ちゃんでいつづけろよ。正直俺は、今でもお前は人の世なんかに居座らず、神の世で安穏と暮らし続ける方が合ってると思ってる。遠い未来、いつか人の世に在る事が辛くなったら、我慢するな。そいつの手を引いたままでもいい、何かしでかす前に神の世に逃げて来い。わかったな。」

そう言って、我が子を慈しむような目を向けながら、神様は凛の頭をポンポンと撫でた。

「もうすぐこいつの目が覚める。こいつの目が覚めたら、そこからが神様として生きるお前の新しい門出だ。精進しろ。」

そう言い残して神様は姿を消した。

残されて、凛は哲に視線を戻す。年老いた彼の身体が息を引き取り、魂が剥がれ落ちて剥き出しになる。そうやって身体から切り離された哲の魂にそっと触れ、凛はそこに絆を結んだ。これでわたしがこの手を離すその時まで、哲は輪廻の流れに戻れない。そう思うと本当にこれで良いのかと少し心がざわついて、でも、目覚めた哲と目が合って、そんな不安はすぐ消し飛んだ。

「なんか不思議な感じだな。」

自分に触れる凛の手をとって哲が呟く。とった手が確かに凛のものであると確かめるように、哲は凛を見つめながら愛おしそうにそれを撫で、優しく微笑んだ。

「そういう顔、哲に似合わない。なんか変。」

「変ってなんだよ。本当、可愛くない奴だな。こっちは今、本当にこれからお前と一緒にいられるんだって喜んでんのに、水さすなよ。」

そんなやり取りをして、起き上がった哲が凛を抱き寄せる。それにされるがままになって、自分の腕の中で大人しく自分の身体に身を寄せる凛を見て、哲は嬉しそうに、今度はもう逃げないんだなと笑った。

「なんか哲が違う人みたい。」

「我慢する必要がなくなったんだ。そりゃ、色々変わるだろ。」

「わたし、知ってたけどね。哲がこういう人だって。哲がわたしにこういう風にしたいと思ってたのも、妄想の中でわたしと色々してたのも。わたし神様だもん。哲の考えてることなんて筒抜けだから。このむっつりスケベ。」

それを聞いた哲が焦ったような様子をみせて凛は笑った。

「お前な。俺の気持ちわかっててずっと無視してたのかよ。いつからお前は俺のこと好きになってたんだ?俺のこと好きで俺の気持ちもわかってたくせに、死ぬまで指一本触れさせてくれなかったとか、ひどい奴だな、本当。俺の青春返せ。」

「わたしがいつから哲の事好きになってたかなんて、内緒に決まってるじゃん。絶対、教えない。それに青春返せって、哲の青春はこれからでしょ?わたしとこれから青春しないの?」

「死んでからの青春ってなんだよ。」

「だって哲、老衰で死んだはずなのに、若いんだもん。今の姿、二十代の時の哲じゃん。つまり年取っても、心の中はその頃のまんまなんでしょ?わたし的には縁側でのんびり二人並んでお茶するのが似合う感じで良かったんだけどな。哲がそんなんだから、哲はわたしと青春したいのかと思ったんだけど。わたしと色々したい事でもあるのかなって思ったんだけど。したくないの?」

そう問われてモヤモヤと黙り込む哲の様子に、凛はまた笑った。

「哲。ごめんね。ずっと。わたし、不安だったの。哲にこんな気持ちを抱いてしまっても、わたしのこんな気持ちは哲の枷になってしまう気がして。それに怖かった。ずっと。哲の気持ちは一時の気の迷いで、若気の至りで、いずれわたしから離れてく、そういうものだと思ってた。だから貴方に触れたくなかった。貴方に触れて、手放せなくなってしまうのが怖かった。ありがとう。生涯ずっとわたしだけを一途に想い続けてくれて。貴方が向けてくれるその想いで、わたしは本当に幸せだった。今、貴方とこうして触れ合えて、わたしは本当に幸せなの。ありがとう。哲。大好き。貴方のことが本当に、大好きだよ。だからこれからは沢山一緒にいよう。今まで我慢させた分、わたし、穴埋めできるように頑張るから。これからは自分の気持ちに嘘をつかないで、ちゃんと貴方にわたしの想いを伝えてくから。素直になるから。哲、大好き。大好きなの。だから、ずっとわたしの傍にいて。」

そんな凛の告白を聞いて、哲は彼女に顔を上げさせた。

「俺もお前が好きだ。だからこれから、二人で生きてる時できなかったことを沢山やって。いっぱい楽しいことをして。俺たちの。俺たち二人の幸せの形を見つけていこう。二人で落ち着ける場所を探していこう。これからずっと一緒に居られるように。凛、愛してる。」

そう言って哲は凛の頬に手を伸ばし、そこに優しく触れると顔を寄せ、二人はそっと口づけを交わした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ