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神様の願い事  作者: さき太
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第二十二話

りんちゃんの身体。ちゃんと祠に戻さないでこんなとこに埋めちゃっていいのかね。」

穴を掘りながらそうぼやく悟史さとしに、てつが、気が進まないなら手伝わなくていいと返した。

「でも、ま。ちゃんと容れ物は戻したし。中身が無くなってるなんてバレないんじゃない?それに俺も、バラバラで祠におさめられてるより、彼氏と一緒に埋めといてあげた方がいいと思うな。本人が別の場所に実在してる以上、ただの気休めって言うか、俺たちの自己満足にしかならないのは重々承知だけどさ。」

そう言って悠太ゆうたが額の汗を拭う。

「悠太と同意見って言うのがちょっと癪だが、身体だけでも一緒にしといてやれば少しは自分を慰められるだろ。人間としてのあいつは好きな男と一緒に死んで、同じ墓に入ったんだ。だから、うちにいるのはもう、ただの神様だ。昔噺に描かれた拝み屋の凛はもういない。村を祟って厄災を振りまいた女なんていないんだ。うちにいるのは、ちょっと捻くれてて可愛げのないただの普通の神様。神様なんてあいつしか知らないから、普通の神様なんてものがどんなだか知らないけどな。」

そんな哲の言葉に二人が確かにと笑って、三人で声を立てて笑い合う。

「いつの間にか哲までちょっとロマンチストになっちゃって。うちの弟達は頭の中花咲いてそうで心配になるわ。」

「俺を悠太と一緒にすんなよ。俺はこんなアホじゃない。バカでもない。」

「うわっ、兄ちゃんも哲も酷っ。俺の扱い酷っ。」

そんなやりとりをしている間に作業をやり終えて、三人はホッと一息ついた。

「ところで、哲はちゃんと凛ちゃんと仲直りしたの?」

そう話しを振られて、してないと答える。別にする必要もないと思う。人が仲違いしてるとみるやこうして間に入って仲裁しようとするあたり、本当悟史はお節介だななんて思って、哲はその先に続くであろう言葉を無視することにした。

「あの時の哲の剣幕すごかったもんね。願い事叶えてくれたお礼に、約束してた願い事叶えてあげるから言えって言われて、開口一番ふざけるなだからね。凛ちゃんに掴みかかりそうな勢いでさ。人の為の願い事なんて願い事として認めないって、ちゃんと凛ちゃん自身の願い事じゃないと無効だなんて言って。さすがの凛ちゃんもあの後暫く姿見せなかったし。哲にあんな熱い面があるとか知らなかったな。超意外。凛ちゃんの彼氏が成仏するの見て泣いちゃったのも意外だったけど。本当、意外すぎてさ。思い出すと超ウケる。」

そう言いながら悠太が本当に可笑しそうに笑ってきて、哲は苛ついた。

「それで哲は、俺たちと一緒には帰らないでここに残ることにしたんだろ。凛ちゃんの本当の願い事を発掘するのに、本人と喧嘩したままでどうやって聞き出すつもりなんだか。まったく誰に似たのか、頑固で意地っ張りだよな。」

「あ、それ。兄ちゃんだと思う。兄ちゃん、一度言い出したら絶対きかないし。兄ちゃん譲りだね、絶対。」

「あのな。俺のそれと哲のこれ一緒にするなよ。俺はちゃんと後先考えてるから。こいつのは行き当たりばったりで意地張ってるだけだろ。ったく。本当、ここに一人置いて行ってその先が思いやられるわ。」

「まぁ、気が向いたらたまには里帰りするから。」

「哲がそんなこと言うとか、こりゃ雪でも降るか?この夏の真っ只中に。」

「失礼だな。」

「そんなこと言って、絶対、哲は里帰りなんてして来ないね。多少引きこもりが改善したところで、哲のものぐさは直らない。絶対、少し帰る気が起きたとしてもめんどくさくなって一人じゃ帰ってこないから。送り迎えしてやんなきゃ帰って来ないから。」

「あー。それは言えてる。遠いしな。」

「ほら。今からこんなんじゃ、絶対出て来ないよ。でも、ま、哲が寂しがらないようにこっちから遊びに来てやるから。凛ちゃんにも会いたいし。」

「悠太、うざい。」

「まぁ、悠太だからな。ウザくなくなったら悠太じゃないだろ。」

「うわっ。本当、哲も兄ちゃんも酷い。」

そんなどうでもいい会話を繰り広げて、こんなやり取りも二人が帰ったら出来なくなるなと思うと少し寂しい気がして、そんな自分がなんだか可笑しくなって哲は笑った。こうやって自然に自分が笑えるのも変な感じがする。ここに来る前は受け付けなかった色々なものを今では普通に受け入れられるようになって、それが心地よくなって。いつか凛もそうなればいいと思う。彼女から拒絶された自分が傍にいていいものか、ちょっと不安になる事もあるが、そんなものは知った事ではない。彼女のいるあの場所は俺の家だ。だから俺が住むのは当たり前で。どんなにうざがれても、嫌がられても、今までずっと悟史や悠太が自分にしてきてくれたように、ただ傍にいて、寄り添って、いくらでも待ち続けてやる。いつか、彼女の傷が癒えるのを。

「完成させたじーちゃんのレポート、お前どうすんの?」

「あーあれか。せっかくだし、じーちゃんの仕事関係の人に連絡とって見せようかとは思ってるけど。そっから先はどうなるかわかんないな。あれが日の目をみる事があるのか、そのままお蔵入りするのか。ありがとな。纏めるの手伝ってくれて。添付する写真も撮ってもらったし、助かった。」

「まぁ、俺も今暇だからな。」

「悟史は帰ったらどうすんだ?フリーのカメラマン続けんの?」

「一応な。これで有名になって食ってけるようになるのが俺の夢だし。もういっそのこと、一回海外でも行って武者修行でもしてくるか。」

「俺は夏休みあけるし、大学戻んなきゃな。講義とか超だるい。でも、凛ちゃんにお願いして、俺のこと好きになってくれる、俺と相性抜群の超可愛い女の子との出会いを約束してもらったもんね。それで付き合って、結婚して、一生ラブラブで過ごすから。今からメチャクチャ楽しみ。羨ましいだろ。」

「別に。ってか、ちゃっかりしてるなお前。いつの間にあいつに願い事なんてしたんだよ。」

「え?凛ちゃんが聞きに来てくれたけど。哲の所には来なかった?もしかして、哲は怒らせたからもう叶えてもらえないんじゃない?」

「それでも俺は構わないけど。ってことは、悟史もあいつになんか頼んだのか?」

「あー、まぁ。仕事の成功とかそんな感じか?俺の夢が叶いますようにみたいな、願掛けみたいなもんな。」

悟史にもそう返されて、哲はなんだか気が抜けた。わざわざ一人一人に願いを聞いて回るとか、律儀というかなんというか、あいつも大概頑固だよなと思う。さて、その調子で俺にはどう出てくるかね。俺があいつの願い事を聞き出すのが先か、あいつが俺に願い事を言わせるのが先か。長い勝負になりそうだな。そんな事を考えて、哲はよく晴れ渡った青い空を見上げた。

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