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神様の願い事  作者: さき太
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第十九話

「なんか久しぶりにてつ、機嫌悪くない?前はいつもそんな感じだったけど、最近はそうでもなかったのにさ。まぁ無愛想なのはずっと変わらないままだけど。」

「引きこもりもやしがこの夏の暑い日になんちゃってハイキングなんてガラにないことしてるから、バテてるんじゃないの?だから、りんちゃんの身体集めは俺たちに任せて家で待ってりゃ良かったのに。」

そう二人に茶化されて哲は、うるさい黙れと二人を睨みつけた。

「なんていうかさ、こうやって祠まわってそこにおさめられてるもの集めて回るって、悪いことしてるみたいだよね。」

そう能天気に言う悠太ゆうたに、みたいじゃなくて悪いことだろと二人から突っ込みが入って、悠太が本気の驚きの声をあげる。

「悪いことしてる自覚なかったのかよ。我が弟ながら、心配になるレベルでバカだな。いつか騙されて、なんか犯罪に手貸さないように気をつけろよ。オレオレ詐欺の受け子とか、ぼったくりセールスのキャッチとか。」

そう悟史さとしに言われて、悠太が兄ちゃん酷いと落ち込んで見せる。

「てかさ、これって何の犯罪になるわけ?」

「普通に泥棒だろ。」

「本人に自分の身体集めてきて欲しいって頼まれたなんて、警察で言っても信じてもらえないだろうしな。まぁ、バチが当たったり、祟られたりはしないだろうけど。」

「ここ終わったから次行くぞ、次。ムダに時間潰してる暇はないんだ。お喋りしたけりゃ動きながらにしろ。」

祠の中から凛の身体の一部が入った壺を回収して、哲が踵を返す。

「あ、もしかして凛ちゃんと何かあった?だから、イライラしてるし家で留守番嫌だったとか。」

「そこに話し戻んのかよ。そんなわけねーだろ。」

「だよね。凛ちゃんとなんかあって怒ってるなら、哲の場合完全無視だもんね。いくら自分の命がかかってるからって骨壷集めとが絶対しない。それこそ俺たちに全部丸投げして、自室引きこもり間違いなし。それがさ、凛ちゃんの為にわざわざ自分で歩き回るとか。哲に限ってないないそんなの。ね。」

そう悠太に笑われて、哲はそれまでより苛ついて、誰があいつの為に歩き回ってんだよ、自分のために決まってるだろと怒鳴っていた。それを聞いた、悠太と悟史が目を丸くする。そして悟史がニヤッと意地の悪い笑みを浮かべる。

「本当に凛ちゃんのためなんだ。へー。あの哲がね。人のためになんかするとか。成長したな。ってか、なんか変なものでも食べたか?」

「だから、違うっつってるだろうが。その顔やめろ。マジで苛つく。それに、あいつの願い事はあいつの為じゃないだろ。あいつの男の為の願い事だろ。自分が辛い思いするの百も承知で、自分に出来ないから助けてくれって。しかもまだ心の整理ついてないくせに、俺の命がかかってるからって決断したからな、あいつ。そのくせ今朝はもうそんなことおくびにも出さないで、いつもの無表情でしれっと飯食ってるし。あいつのあの澄ました顔見ると苛つくんだよ。そんなんであいつと待ってるよりは身体動かす方がましだから来たの。三手に分かれれば時短にもなるって思ったのに、悠太は地図読めないって言うし、悟史は途中で俺がへばったら大変だからとか言うしで、こうなってるだけだからな。お前らの無駄話しにも付き合いたくねーんだよ、俺は。少しは黙ってろ。」

そうまくし立てる哲を見て、悟史が茶化して悪かったなと言って優しく微笑む。そしてそのまま頭を撫でられて、哲は触んなと悟史の手を振り払った。何故か悠太も大人しくなって、微笑ましそうに自分を見てきてそれがなんでも言えず苛つく。

「じゃあ、パッパと集めて、さっさと用事片付けて。皆で凛ちゃんに願い事叶えてもらうかね。」

「哲は、凛ちゃんになにお願いするの?」

「別に、俺は特に願うようなことなんてなにもねーよ。」

「えー。せっかくどんな事でも一つだけ願いを叶えてくれるって言ってるのにもったいないな。とりあえず何かは願っときなよ。」

そんな悠太の能天気な明るい声を聞き流して、哲はほら、さっさと次行くぞと二人を促して、後は黙って歩き出した。本当に叶えてもらいたいような願いなんてなにもない。それに、きっとそれはあいつにとって巻き込んでしまった自分達への贖罪のつもりで、本当はそういうことをするのを快く思っていない。かつて自分が人の願いを叶え続け、人々に不幸をもたらしてしまったと思っているあいつにとって、人の願いを叶えるなんて事はきっと負担にしかならない。だから、俺は・・・。そんな事を考えて哲は、なんで俺があいつに気を遣ってやらなきゃならないんだよ、なんであんな可愛げもなにもない奴の事なんか心配してやんなきゃならないんだよ、と心の中で悪態を吐いて苦しくなった。そして凛のことばかり考えて苦しくなる自分を自覚して、哲はどうしようもない気持ちになった。俺は無力だ。俺だって、お前に助けてもらって守られるばっかで、助けてやることなんて出来ない。何か返してやりたいのに、結局、追い詰めて苦しませることしか出来ない。唯一できるのが、これ以上の悲劇を目の当たりにさせないように、あいつから本当は失いたくない大切な人を永遠に奪い去る事だけだとか。それを叶えてやって、俺はお前にどんな顔して会えばいいんだよ。そんなお前に能天気に自分の願い事叶えてくれなんて言えるわけないだろ。それでお前の俺たちに対する罪悪感が多少薄れるとしても、そんなん全然救いにはならないだろ。お前はずっと辛いまま。何も救われないだろ。そんな事を考えて、凛に対する苛々が募っていって、哲はなんだか泣きたいような気持ちになってそれに蓋をした。今はただ、あいつから頼まれた事を確実にこなす。それしか自分に出来ることがないなら、それだけは絶対やり遂げる。じゃないとあまりにも救いがなさ過ぎる。置いていく方は楽だ。終わってしまえばそれ以降は何も考えなくて済む。でも、置いていかれる方は・・・。それを思って、少し前の自分が当たり前のように悟史や悠太にそれを背負わせようとしていた事を思い出して、哲は自分自身に酷い憤りを覚えた。

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