2
相変わらず塀の向こうから僕を見ていたが、その日はいつもと違っていた。
女が急にこちらに向かって来たのである。
――えっ!
そしてブロック塀のすぐそばまで来たとき、感じていた違和感の正体がわかった。
やはり女は僕が思っていたよりも遠くにいたのだ。
何故ならブロック塀から首を突き出すように僕を見ている女の顔は、70センチ以上あったからだ。
――えええっ?
あまりのことにその場で固まっていると、女が塀を乗り越えた。
いや、乗り越えたと言う言い方は正しくない。
女の首だけがこちらに飛んできたのだから。
逃げそびれた僕の前に、巨大な女の顔が来た。そして言った。
「うーん、まだまだね」
すると女の顔が一瞬にして消えた。
その後はあのブロック塀のある道を通らないようにしたせいか、女の首と会うことはなかった。
やがて僕は高校に入学し、そして県外の大学に通うことになった。
大学では友人も恋人も出来て、充実したキャンパスライフを送っていた。
ところがある日、大学に行くためにアパートの玄関を開けると、そこに巨大な女の顔が浮いていた。
そして言った。
「うーん、あと少しね」
と。
終