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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「空っぽ」の独り言

スターライト

掲載日:2018/06/13

誰もいないビルの屋上に、立っている。


つけられた青痣を撫でて、足を少しずつ進める。

下を向けば、いつもと変わらない街の景色が見える。

忙しく動いている人々の喧騒を聞いて、置き去りにされたような感覚が、荒んだ心により一層刻まれた。


この街に身を落として、自分の血で汚せば、喧騒は悲鳴へと変わってくれるのだろうか。


誰か自分の存在に気づいてくれるのだろうか。


そんな感情に侵されて、震えて止まるはずの足は、歩みを止めることはなかった。


とうとう淵に立った。風は少し強く吹いている。

異常と思えるほど、心は穏やかになっていた。

今から飛び降りる。それになんの後悔もなかった。


最後に空を仰ぎ見た。

やはり、星は一等星以外まったく見えなかった。

空は、いつも通り「空っぽ」だった。


悲しそうに目を細めて、何もない空を見つめながら、背中から飛び降りた。


走馬灯なんて無い。ただ風の音だけが喧騒を掻き消してくれて、心地いいだけだ。



何かが潰れた音がすると、全身が酷い熱を帯びた。

まるで炎に巻かれたかのように、熱かった。


止め処なく流れる赤い血が、周りを汚していく。

熱さに爛れたと思っていた体は、ゆっくりと冷めていった。それはまるで、命が抜け落ちていくような感覚

だった。


しかし、足下にこんなにも無残で「空っぽ」な亡骸があるというのに、人々は自分のことなど眼中にないように、いつも通り忙しく動いている。


笑ってしまった。こんな淡い願いさえ、叶わないのだから。皮肉な笑みを心の中で浮かべる。



人混みの中で殆どの体温を失くしたことを自覚して、

意識も同様に薄れ始めていった。段々と視界が霞んでいく。



眠るように瞼が閉じられようとした時、空で何かが光った。


見間違いなどではない。あれは確かに星だった。


六等星ほどの光しか放っていない、屑のような星。


誰にも見つからない、とても小さな星。


儚げに光ったそんな星を、名残惜しそうに見つめて、息が止まった。


最期にこんな後悔を遺して。



      「あぁ、生きたかった」



六等星は夜空から消えた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 時間を濃縮させた文章という意味では村上龍を彷彿させられました! 自殺に至るまで何があったか書かれていないのにその背景が読めるというところが素敵でした。 きっとくどくどと書くよりも説得力やリ…
[良い点] 人間心理が上手く表現されていて、主人公の気持ちが少しわかる気がします。 また、それに伴って星の描写が加わっていたのでリアリティもありました。 小説家になろうサイトで久々に表現に味のある小説…
[良い点] おそらくは一瞬であろう出来事が詳細に、それでいてどこか曖昧で儚げに描かれていて、とても美しい文章だと感じました。 また、主人公の詳細な背景を描かないことで想像が広がり、同時にいい意味でさっ…
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