スターライト
誰もいないビルの屋上に、立っている。
つけられた青痣を撫でて、足を少しずつ進める。
下を向けば、いつもと変わらない街の景色が見える。
忙しく動いている人々の喧騒を聞いて、置き去りにされたような感覚が、荒んだ心により一層刻まれた。
この街に身を落として、自分の血で汚せば、喧騒は悲鳴へと変わってくれるのだろうか。
誰か自分の存在に気づいてくれるのだろうか。
そんな感情に侵されて、震えて止まるはずの足は、歩みを止めることはなかった。
とうとう淵に立った。風は少し強く吹いている。
異常と思えるほど、心は穏やかになっていた。
今から飛び降りる。それになんの後悔もなかった。
最後に空を仰ぎ見た。
やはり、星は一等星以外まったく見えなかった。
空は、いつも通り「空っぽ」だった。
悲しそうに目を細めて、何もない空を見つめながら、背中から飛び降りた。
走馬灯なんて無い。ただ風の音だけが喧騒を掻き消してくれて、心地いいだけだ。
何かが潰れた音がすると、全身が酷い熱を帯びた。
まるで炎に巻かれたかのように、熱かった。
止め処なく流れる赤い血が、周りを汚していく。
熱さに爛れたと思っていた体は、ゆっくりと冷めていった。それはまるで、命が抜け落ちていくような感覚
だった。
しかし、足下にこんなにも無残で「空っぽ」な亡骸があるというのに、人々は自分のことなど眼中にないように、いつも通り忙しく動いている。
笑ってしまった。こんな淡い願いさえ、叶わないのだから。皮肉な笑みを心の中で浮かべる。
人混みの中で殆どの体温を失くしたことを自覚して、
意識も同様に薄れ始めていった。段々と視界が霞んでいく。
眠るように瞼が閉じられようとした時、空で何かが光った。
見間違いなどではない。あれは確かに星だった。
六等星ほどの光しか放っていない、屑のような星。
誰にも見つからない、とても小さな星。
儚げに光ったそんな星を、名残惜しそうに見つめて、息が止まった。
最期にこんな後悔を遺して。
「あぁ、生きたかった」
六等星は夜空から消えた。