表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトになりたかった?  作者: 綴折紙
3/8

邪魔者は、お友達?

書き溜めていた話の全てが、不注意により消えてしまいました。

書き直しに時間がかかると思いますので、一週間ほど更新を停止します。

申し訳ありませんが、ご了承頂けますと幸いです。

「なあ、アレンよぉ。一緒に遊ぼうぜ、友達だろう?」


「うん、アレン。お友達とは一緒に遊ぶべきだって、そう母さんは思うな」


 左側からはニヤニヤとした意地の悪そうな笑みが。右側からはニコニコとした優しい微笑みが、私に向けられている。

 一方だけなら即座に跳ね除けたかもしれないが、もう一方があるのでは、私に拒絶する術はない。

 顔を無様に引きつらせ、ぎこちなく首を縦に振ることしか、私に許された行為はなかった。


「おおっ。良いねぇ、そうこなくっちゃ。よし、じゃあちょっとこっちに来てくれよ。遊ぶ内容はそこで決めるからな。ほら!」


「いってらっしゃい、アレン」


 手首をがっしりと掴まれ、引き摺られるように移動して行く私に向かって、ほのぼのとした見送りの声がかけられる。

 その声に苦笑した後、少々痛みを感じるほどの手首の掴まれ具合に当然顔をしかめる私であったが、文句を言うことはなかった。かわりにそれを振り解こうと試みて腕を動かすが、失敗に終わる。非力な自分に舌打ちを一つかました後、自ら足を早めて「奴」の耳に顔を近づけた。


「本当に教えてくれるのでしょうね?」


 極力、最小限まで押し殺した声で囁くと、「奴」はちらりと私を一瞥した。


「ああ、俺は冗談は口に出すが、嘘は吐かねぇと決めてるんでねぇ。十分に掻い摘んで教えてやるよ、いわゆる《裏》ってやつについてをな」


 そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げる。まるでニヒルな悪役を気取ったその表情は、控えめに言っても、少なくない気持ち悪さといものを私に対して存分に与えてくれた。

 私は少しだけ躊躇った後、それ以上言葉を続けるのは控えることにした。ため息をつき、もう一度腕を振り払おうとしてまた失敗し、さらに大きなため息を吐きだした。


 そして、現実から逃避するかのように、もう何度となく脳裏に浮かばせた、一つの情景を思い浮かべる。

 苦々しい感情を付随するそれは、昨夜における、悲劇とでも言うべき出来事であった────

















◇◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇◆





「あぁ、そうだ! そういやまだ俺の名前を言ってなかったなぁ。いやぁ、申し訳ない!」


 快活な笑顔を弾けさせながら謝罪を述べるその様は、まさに反省をしていない悪ガキそのもの。当然憤慨すべきではあったが、しなかった。いや、出来なかった、と言うのが正しいのだろう。


「そういうことなので、今から言うことにするぜ。俺の名前はトーピ。呼び捨てで呼んでくれるとありがたいから、そこんところ覚えておいてくれ、お嬢ちゃん?」


 ふざけた調子の声が紡ぐ名前の紹介は、私の耳に入ってこない。ただの言葉の羅列としてしか、認識ができない。これをきちんと理解し、受け止めるには、──全てが突然すぎたのだ。


 黙り込んで、何も言わないまま、立ち竦む。


「んーむ。嬢ちゃんよぉ、少しは何か言ったらどうかと思うのだがねぇ。俺が名前を言った意味、わかってんのか?」


 呆れたように、やれやれと首を振るその仕草を見て、少しだけ緊張感が薄れたからなのか。


「────は?」


 いつの間にか、戸惑いだけが濃密なまでに込められた、一音声のみが口から漏れ出ていた。


「あーらら。その様子じゃ理解できていなかった、と。なるほどなるほど、なるほどねぇ」


 よもや、呆れすぎてそれ以上は言えませんとでも言いたげなほど、投げやりな声と言葉を放つ、──「少年」。


 情けなくも言葉になることのない一音声ではあったが、それを出すことができたのが功を奏したのか。


 停滞していた思考が、動き始める。


「え、これ本当に俺が言わなくちゃならねぇのか? いやぁ、中々にきついことをご所望とするねぇ、嬢ちゃんよぉ」


 よくわからない声がどこかから聞こえてきた気がするが、今はそれどころではない。当然それについては後回し、瞬時に脳内のゴミ箱へと放り込んでおいた。


 それで、今この時点でまずおかしいと思えるものは、そう。相対するものの容姿である。

 ここで私と相対するは、一人の少年。……「少年」、なのである。

 私には、とても信じられなかった。先まで私のことを追い込んでいた声は、紛れもなく「大人の男」の声であり、断じて「少年」の声ではない。さらには──


「じゃあ、面倒だしもう言うとしますかねぇ。俺が俺の名前を嬢ちゃんに教えたのは、嬢ちゃんとお友達になりたいからでーす。うわ、俺ってばこんなこと言うとか……我ながら度胸あるなぁ、シビれるぜ!」


 ──声調はともかく、今流れたこの声は、確かに「少年」の声であった。先までとの共通点は、このふざけた調子以上には見当たらない。


 そして極め付けは、相手の要求である。仮に──飽くまでも仮にではあるが──あの「大人の男」の声とこの「少年」の声が同一のものであったとするなら、この声の調子と同じかそれ以上にふざけているとしか言いようがない。


 だって、相手は《研究員》を名乗ったのだ。


 それは、私の敵だ。敵であると、教わった。それなのに、その敵が『友達になってくれ』など──



「あ。言い忘れてたが、俺が《研究員》ってのは冗談だ」


「────ぁ、は?」


「まあ、あれはだな。これから友達になることが決定している──つまりは『仮お友達』となった人にだけ送る、記念の贈り物ってわけだ。小粋なジョークだったろう? 楽しんでくれたかな?」


 二つほど音を絞り出した以上は、声となりうるものは出なかった。

 絶句である。

 この状況でも思考を止めなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。


 ──冗談? 記念の贈り物? 小粋なジョーク?



「────ふざけないでよ!!」


「あ?」


「こんなっ、こんなこと──っ!!」


 それ以上は、続かなかった。続けられなかった。思考が続いていたのは一瞬だけ。相手の言ったことを脳内で繰り返した瞬間、プツリと糸が切れてしまった。……褒めようと思っていたが、これでは、褒められなくなってしまった。

 しかし、仕方がない。これで憤らないほうがおかしい。

 凄く、凄く──


 怖かったのに。


「なのに! なのにあれがっ! ……ただの、冗談、だったなんて……ははっ……なんて話だ……」


 あれだけの覚悟を決めて望んだものが、一切をもって茶番でしかなかった。思わず漏らした乾いた笑いが、やけに響いたように感じる。恐怖で締め付けられていた胸が安堵で解放されて、次には怒りがこみ上げるも、一瞬で何もかものやる気を喪失する。自分の感情がぐちゃぐちゃになって、把握できなくなるほどの動転が、私を支配していた。


「あー。あぁ、うん。なんだか知らんが、かなりの負荷を与えていたようなので……それについては謝ろう。すまなかったな、嬢ちゃん」


「あぁ……うん……」


「それで、それはそれとして、だ。いやぁ嬢ちゃん、あんた最高に面白いな! あの程度で──おっと、あんな冗談でそこまで疲弊するとは……やはり俺の思い描いた展開以上だった。もう一度拍手を送ろう!」


「………」


 拍手の音が、私の殺意を助長させる。こいつは、どこか頭がおかしくてあらせられるようだった。でなければ、真面目に謝意を述べた後にここまでふざけたことはしないだろう。


「とまぁ、これも俺の冗談なんだけどな。だからそう睨むなって、冗談だよ。で、だ。──どうなんだ?」


「……何が?」


「何がって、ほら、さっきのお願いだよ。俺と友達になってくれないかってやつな。どうなんだ?」


「……ああ」


 一旦彼から目を逸らし、顎に指を当てて考え込む。

 友達になる。


 ──これは、別にどうでもいいことでしかない。友達など、いてもいなくても困るものではない。……いや、この少年に限ってはそうもいかない、か?


 これまでの、彼曰く冗談が頭の中で再生される。……怒りの種火が一瞬にして強大な炎へと変わり行くのが、ありありと把握できた。

 彼と友達などというものになってしまえば、その果てに待ち受けるは面倒な未来。厄介ごとばかりが、瞼の裏側にくっきりと浮かんでくるほどには、はっきりと想像できる。


 それだけならきっぱりと断るのだが……ただ一つ、忘れてはいけないことがある。

 それは、この少年が《研究員》について知っていた、ということである。

 私は、この《研究員》というものの実態をよく知らない。ただ何に関しても気をつけなくてはならない存在である、ということだけしか知らないのだ。

 ならば。


「あなたは、《研究員》についてどれだけのことを知っているのですか?」


「ん。まあ、沢山知ってるぜ。それこそ知らないものはないと自負できるくらいにはなぁ」


「そうですか……」


「ああ。そうだ。ところで、敬語はなしにしてくんねぇか? なんというか、嬢ちゃんの敬語を聞いてると笑いがこみ上げてきちまうんだよ。さっきの印象のせいだろうな、ほら、思い出すだけで……ぷっ」


 そりゃどうも、とイラつきを抑えて投げやりな返答を返しつつ、思考を展開する。

 《研究員》の情報は少しでも欲しい。少年が言葉の通りに大量の情報を持っているのなら、かなりの利益が約束されているといえよう。それなら。


「……わかりました。あなたの提案を受け入れることにします。ただ、条件として、私に《研究員》及びそれに関する情報を教えて頂きたいのですが」


「ああ、わかった。つまり、『裏』のなんやかんやを話せば俺と友達になるというわけだ? よし、そんなものはお安い御用なので、友達となるのは確定だなぁ。嬢ちゃん、どうもありがとう。では、よろしくな!」


 そう言うと、彼は突然歩き出した。そのまま私の目の前まで来ると、そこで歩をぴたりと止めた。そして、徐に手を差し出した。

 まじまじと、差し出された手を見つめる。何かを待つように、そのままの状態を続ける手。私は顔を上げて、彼の目を覗き込んだ。


 何をしたいのか、彼の意図が全くわからなかった。故に、戸惑いのままに眉根を寄せていると、彼は苦笑してから口を開いた。


「握手だよ。ほら、友達になった記念だ。記念があの冗談だけだと、楽しくも面白くもないだろう?」


「ああ……」


 握手。その行為は知っているが、したことはなかった。

 おずおずと手を動かす。のろまに動き続けるそれにじれたのか、少年はパッと手を伸ばすと、私の手を掴み取った。


「ほれ、これで友達としての契約は完成だ。さっきも言ったが、光栄に思え! 嬉しいだろう?」


 力強く握られた手の上に、少年の自慢気な声が降り落ちる。暖かい手の感触に、私は目を見開いて、自身の手を掴むそれを見つめ続けていた。


「どうよ、嬉しいんだろう! えーっと、あー、そのー。あれ?」


 戸惑った声がした。変にふざけた調子のままだったからか、その珍しさに我に帰り、彼の顔に視線を移す。


「俺、嬢ちゃんの名前聞いてなかったぜ! おいおい、これはどういうことだよ、えぇ? 俺だけ名乗ったのに嬢ちゃんだけとかよぉ」


 握手は崩さず、もう片方の手で顔を覆い、盛大なため息を吐きちらす。芝居掛かった仕草は必然ながら私の神経をじりじりと逆撫でし、治まりつつあったイラつきを、再度生じさせていた。


「……はぁ、しまらねえな。……で、だ。嬢ちゃん、名前は? ちなみに年も言ってくれると嬉しいぜ?」


 月光に白い歯を煌めかせ、流し目でこちらを見つめ名を問うてくる様は、心底から気持ちの悪いものだとしか言いようがなかった。


「……私の名前はアレンです」


「ほう、アレン。いい名前じゃねぇか? 俺ほどじゃぁねえがな!」


「……はい。それと、何度も嬢ちゃん嬢ちゃんと言われるのも耳障りなので、ここで言っておきますが……」


「ぁん? 何を?」


「私の性別は男です。二度と嬢ちゃんなどという言葉を私に対して使わないで下さい。不快ですので」


 一瞬、空気が凍ったような気がした。しかしそれも束の間、


「なるほどねぇ。まあそういうこともあるのかねぇ。ふむ。だが、だ。アレンよ。アレンさんや。……何でそんな服着てんの?」


「服、ですか?」


 下に視線を移す。視界の中、潮風にゆらゆらと揺れる白い布は、ワンピースと呼称されるものに近い。


「……何か問題でも?」


「うん? ……いや? 問題なんてどこにもないが」


「なら、なぜ服のことを?」


「ん。ま、気になったからだ。お前は気にしなくていいぜ、アレンさんよ」


 はっはっは、と笑い声が響いた。

 私には何がおかしいのか分からなかったため、戸惑いのままに少年の顔を見つめる。

 なお笑い続けた少年であったが、私がじとりと見つめ続けたせいか、途中で気まずそうに横を向いた後、小さくため息をついた。


「まあ何はともあれ、だ。アレン、これからよろしくな!」


 にかり、と少年が笑む。悪戯なその笑顔は、はじめ戸惑いしか私に与えることはなかったが──


 握手を続けているからだかろうか。不思議と、不愉快には感じなかった。


「はい、情報の件とも重ねて、よろしくお願いします。……えっと……」


「そこで言いづらそうにするのは、もしかして俺の名前をきちんと聞いていなかったからか? 悲しいねぇ。まあそれも面白いからいいんだが。……改めて、俺の名前はトーピだ。今度は忘れるなよ?」


「トーピ。……どことなく、変な名前ですね」


「そうかぁ?」


 心外そうに怪訝な表情を作ったトーピは、しかし次には笑い出していた。心底から可笑しそうに、笑って、笑って、笑って。

 ひとしきり笑った後、彼は私との握手を解いた。自然と、軽く。そっと、手から伝わっていた暖かさが途絶える。

 その自然さにつられたのか、私の顔もまた、自然としかめてしまっていた。それも一瞬のことではあったが。


「じゃあ、アレンと友達になれたことだし、俺はもう帰るな。じゃあな、アレン! また明日会おうなー!」


 そう言うと疾風の如く駆け出したトーピは、そのまま駆けていくかとおもいきや、急にピタリと立ち止まる。


「ああ、そうそう。お前が言ってた情報についてなんだが……明日話す。……俺の他の友達と一緒に遊ぶ際に、な!」


「…………ぇ?」



「お前も誘いに行くので、悪しからず! あ、拒否権はないぜ。てことで、じゃあな!」


 そう言い放つと、トーピは今度こそ目にも留まらぬ速度で颯爽と駆けていった。

 そしてそのまま、月光の下に残された私は。



「…………ぇ?」


 情けなくも悲劇的な声音で、音を漏らすことしかできなかった。















◇◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇◆






 これは、嵌められたと言うべきなのだろうか。


 鼻息混じりに歩を進める、未だ私を引きずり続けている「奴」──トーピに、恨みがましい視線をぶつけつつ、そんなことを思う。


 あの後、誰にも見つかることなく甲板から部屋に戻ることができた私は、極度の緊張が切れた反動か、母さんの隣ですぐに寝入ってしまっていたらしい。


 騒がしい周囲のせいで目を覚ました私がすぐさま目にしたのは、仲良さげに談話する母さんとトーピの姿であった。


 トーピ曰く、私と母さんがこの船のどこで寝泊りをしているのか、出航してすぐに把握していたらしい。だから、昨日知り合ってすぐ、こうして会いに来れたのだと言う。とんだストーカーである。……であるのだが。……しかし、母さんはそれよりも私に友達ができたことに対してたいそう喜んでしまったようで、それについて追求はしてくれなかった。


 もう一つ、私とトーピが夜の甲板で知り合ったと言う事実。これについては母さんに知られてはまずい事柄ではあるものの、トーピはうまくはぐらかしていた。夜中に行ったトイレで偶々出会い、意気投合したと言ったらしい。すこし無理やりな気はするものの、母さんが納得しているのなら問題はなかった。



 それにしても。



「いつ手を離してくれるのですか?」


 長い。長すぎる。もう、十分以上は余裕で経っているのではないだろうか。最初はすこし痛いだけだったのが、蓄積された疲労も相まってなのか今ではかなり痛く感じる。いい加減、離してほしい頃合いであった。


「まあ、もうすぐだ。もうすぐだが……おい。聞き捨てならない部分があるぞ」


「どこがでしょうか。私の記憶が正しければ、非のある部分はなかったと思いますが。トーピの頭がおかしいだけなのでは?」


「いやぁ、やはりいい毒を吐いてくれるなぁ、アレンよ。それより、非のない部分はないだって? あるじゃないか。ほら、その──敬語だよ」


「────あ」



 ──『友達に敬語はおかしいでしょ!』


 ……母さんに放った、トーピの言葉である。それを聞いた母さんは深く頷きを返して、『トーピ君の言う通りね。アレン、友達なら仲良くお話をしなきゃ。ね?』なんて言い出す始末。

 最悪であった。


「ごめん、トーピ。ついやっちゃっただけだから、許してほしい」


「いや、許すも何も。面白いから別にどうでもいいんだけどな」


「……へぇ」


 こめかみがピクピクと動くのを自覚しながら、私は自身に冷静になるよう呼びかける。こいつと居ると、私のイラつき具合は猛スピードで進行していくようだ。もう少しで限界を超えそうである。

 ただ……今歩いている、この通路のせいもあると言うのは否めない。

 昨日同様、じっくりと染み入る煩さの充填的な蔓延。明るい光で照らされる赤い絨毯。白い壁は特に光が強調されて、煩わしく感じる。しばしばすれ違う人々の陽気な笑顔も、見るだけでイライラする。


 ああ、あの緑の光が懐かしい。静けさで満ちていて、私以外には誰もいない世界。開放感の象徴とでも言うべき、私だけの世界。それを思い出すだけで心が満たされていくようではあるが、それに比べてこの時間帯の廊下ときたら。たった一瞥するだけでイラついてくる。

 これはつまり、いわばこの通路の夜の顔とでも言うべき姿を知っているため、ギャップ効果で余計に不愉快に思えるのだろう。


 取り留めのない思考でさらにいい具合に不快度が上がって来ていたところで、


「おし、おーい! 連れて来たぜ!」


 トーピの叫び声が、色々な意味で深遠なる思考に沈んでいた私を、我に帰らせた。


 トーピの声でこちらを向いて、手を振って来た者の数は──四。


 無邪気な笑顔は私の不愉快中枢を刺激してきたため、見るに耐えないとばかりに視線を外したのだが……途中で、視線の移動は止めてしまった。


 わずかばかり移り変わった視界の、その中心にあるのはひとりの少女。

 他の四人はトーピに手を振ったと言うのに、その子だけは何もしなかった。ただ、胡乱気にこちらを見やるのみ。それだけなら、静かで好感が持てるなという印象を抱くだけなのだが、それに加えて一つの特徴があったのだ。


 彼女の瞳。

 彼女の静謐を湛えたような瞳には、私に通じる「何か」があるように感じられたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ