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叛逆の騎士と聖剣の巫女  作者: yukizakura
Shout of Beast《シャウト オブ ビースト》
8/21

第8話

7話を修正しました。

7話修正版を見ていない方は、是非、7話修正版を見てから、読んでみて下さい(´・ω・`)




 森の中に鈍い音が響き渡る。

 それは、不快な耳鳴りにも近く、金属と金属が力強く打つかる音だった。その正体はまさしく剣だ。剣と剣が打つかり合い、鈍い金属音を不快な音色のように奏でている。


「こんなモノなの貴方の力は! 昔の貴方は強くて冷静で、騎士の中の騎士だった!」


 森の中を高速で駆け抜けながら彼女は言う。

 木々を躱して移動しているのだ。

 金髪の髪が風で靡いている。その光景は、金木犀が花を散らしているようにも見える。

 それに、彼女が片手に握りしめている剣からは、白い聖なる光が溢れ出いた。星のように輝きを放っている、美しい剣だった。

 彼女、ルナ・ペンドラゴンの後を何者かが、高速で追いかけている。それは、紛れもないルシアだった。

 ルシアは片手にいつもの剣を握りしめている。禍々しい程に黒い刀身が特徴的な剣。この剣の名前はクラレント。聖剣と呼ばれる剣だが、その実態は魔剣と変わらない。

 ルシアだけが唯一、使える剣でもあるのだ。


「それは、過去の話だ。今は罪人だ!」


 ルシアの剣撃がルナに襲いかかる。


「くっ!」

「俺を殺す気があるのか!」


 左右から繰り出されるルシアの剣撃。

 ルナは、その剣撃を受け止めるのが精一杯だった。ルシアの剣は高速で繰り出させる。その剣に合わせているだけでも、ルナの剣術の腕は超人を遥かに凌駕しているのだ。

 防戦一方のルナ。

 ルナは、このままでは殺されると察した。今のルシアの目は本気だ。本気で平然と人を殺せるような鋭い視線を放っていた。

 そこにルシアの渾身の斬撃が飛んで来た。

 その斬撃をルナは、受け止める事をせずに、身体を横に曲げて斬撃を躱した。

 ザンッ! と大きい音が鳴り響く。

 ルナの後ろを見て見ると、大きく生い茂木々の彼方此方に、剣で削れた跡が痛々しく刻まれていたのだ。


「嘘でしょ!?」


 ルナは「あり得ない」と言った表情で、静かに固唾を飲み込んだ。もし、先ほどのルシアの攻撃を剣で受け止めていたら、唯では済まなかっただろう。これが、当たっていた場合は、直ぐに死んでしまうと実感した。

 驚くルナの様子に対して、ルシアは平然とした表情のままルナに向かって迫ってくる。判断を決める時間すら与えないつもりだ。


「どうした? それでもユグドの娘か!?」


 ルシアは、剣を握りしめていた右手を大きく上げて、ルナに目掛けて振り下ろした。


「私はユグド・ペンドラゴンの娘よ! 幾ら、お父さんが精霊宿しの実験をしていたとしても、私の憧れだったのは変わらない!」


 ルシアの剣をルナは瞬時に躱す。

 そして、真剣な声で叫びを上げる。その言葉は、紛れもなく心から出しているものだ。雰囲気で、真剣だと言う事が伝わってくる。


「貴方もよ、ルシア! 私は、貴方にも憧れていた。貴方の強さに……優しさに!」

「それは昔の俺にだろ? 今の俺は違う。今の俺は、お前の父親を殺した罪人だ!」


 ルシアの剣とルナの剣がぶつかり合う。

 その瞬間、辺りに凄まじい衝撃が伝わる。

 ルシアとルナの衝撃で、砂煙が舞い上がる。そして、生い茂っていた木々の枝が飛び散り、木々の葉っぱがザワザワと音を荒だてて、辺りに舞い落ちた。


 砂煙が舞い上がる中で、ルシアとルナはお互いに剣撃を繰り出す。視界は、良好な状態では無いのにも関わらず、互いの立ち位置を把握しているようにも感じた。

 いや……否。2人には分かっていたのだ。

 辺りが暗くても、目が見えなくても、2人には互いの場所が分かってしまう。

 ルシアとルナは、紛れもない騎士だ。互いが持っている魔力を感じ取ることなど、造作もない、当たり前の事だった。


「そんな俺を信じれるのか? 俺の前を堂々と平然と、お前は歩けるのか?」


 強く、強くルシアはルナに向かって問う。


「私は未だに貴方の事を信じられない。でも、それでも、私は貴方の事を許している」


 ルナは懺悔にも近い感じで言葉を述べる。

 すると、2人の剣が互いに止まった。お互いに、心に迷いがあったからだ。

 ルナの場合は、ルシアの事を信じたい。そう考えているが、心のどこかでは、ルシアの言っている事が嘘である事を願っていた。


 逆に、ルシアの場合はルナに信じて貰いたいと思っていなかったのだ。

 ルシアは、人を何人も殺した。その一番の犠牲者は、ルナと言っても過言ではない。ルシアが、ユグドを殺した際にルナの歳は、まだ10歳だった。そんな歳頃に、尊敬していた、愛していた父親が殺されたとなると、その心にどれだけの痛みが生じるかを、ルシアは分かっていたのだ。

 それに、父親を殺したのが尊敬していた人間だった場合は、尚更のこと傷は深くなる。だから、ルシアはルナに殺して欲しかった。自分の罪を諸共、消し去って欲しかった。


「もう一度言う。俺は、お前の父親を殺した。この手で、容赦なく殺した。それでも、俺を許すと言うのか?」


 今まで平然を装っていたルシアの表情が、焦ったような表情を見せている。ルシアには、先ほどルナが言った事が効いたのだろう。

 いや、ルシアは淡い期待を抱いていたのかも知れない。ルナが先ほど言った事は、実は冗談だったのではないかと思いたかった。

 心臓の事が高速で脈打ちする。

 ルシアの呼吸が不自然に早かった。疲れている影響ではない。動揺して、緊張の余りか無意識のうちに呼吸をしていたのだ。

 ルナの唇が微かに動く度に心臓の鼓動が、ドクンっと脈打ちしている。それ程と、今のルシアは自身の感情を保ていなかった。


「許すよ……私は貴方を許す」


 優しく微笑みながらルナは囁いた。

 ルナの囁きは、ルシアにとっては地獄だった。今までの罪から解放されると信じていたのに、その信じていた事が消え去ったのだ。

 ルシアは反射的に声を荒げて、


「俺は、お前の父親を殺したんだぞ!?」


 ルナに向かって驚いた様子で叫んだ。

 片手に持っていたクラレントが、カチカチと小刻みに震えている。ルシアは、ルナの答えを知る事が、怖かったのだ。その所為で、身体は恐怖によって蝕まれていた。


「分かってるよ。それでも、私は貴方を許す。貴方を信じてみようと思ったの」

「何でだ!? 何故、俺を許そうとする!何故、俺を信じようとする!」


 ルシアは、ルナに剣を向けてながら言った。

 その剣にルナは、怯む事なく笑顔みせる。その笑顔は、昔の頃のルナとそっくりだった。


「言ったでしょ? 剣を交わる前に、私は貴方を信じるって……その時からルシアの事を信じてみようかと思ったの」


 ルナは、ルシアに笑顔を見せていたが、目からは大量の涙を流していた。昔の事を思い出していたのだろう。

 ルシアの事も、父親のユグドの事も……

 ルナは、その涙を手の甲で拭う。目の下は、泣いた所為か、薄く赤く腫れていた。

 目から垂れている涙が地面に落ちる。それと同時に、ルナはルシアに向かって剣を突き立てた。


「これで……終わりにしよ、ルシア」

「あぁ……お前の気持ちは分かった。俺も昔みたいに、ルナの事を信じよう」


 刃と刃が向かい合う。

 ルナの視線はルシアに、ルシアの視線はルナに送られている。2人は、しばらくの間、何も語る事なく視線を合わせ続けていた。

 木々が揺れ木の葉をゆらりと落とす。ザワザワとした音色に、辺りが包まれる。自然と気持ちが落ち着いてくるのを感じる。

 2人は深呼吸をして、片手に握りしめていた剣に力を入れ込んだ。

 ルナの持っている剣が、光の輝きを放ちながらルシアの方を向いている。逆に、ルシアの持っている剣は、闇に染まる刀身を煌めかせて、ルナの方向を向いていた。


「行くぞ、ルナ!」

「うん! 私も行くよ、ルシア!」


 2人は掛け声を上げる。

 それを合図に、互いは右足を前に出して、高速で走り出した。地面の土を抉り、砂煙を宙へと舞い上げる。風を切る音が、耳鳴りのように鼓膜に響いていたのだ。


「ルナぁぁぁぁぁぁ!」

「ルシアぁぁぁぁぁぁ!」


 ルナは剣を振り下ろした。

 ルシアは剣を振り下ろす。

 ルナの剣は左から、ルシアの剣は右から、高いの身体目掛けて振り下ろされた。

 ザンッ! と鈍い音が木霊する。そして、砂煙が辺りに舞い上がる。2人の様子は、どうなっているのかよく見えてこない。2人とも、剣を身体に食らっていたら、怪我どころでは済まないだろう。


 ゆっくりと砂煙が消えて行く。

 すると、2人の影が薄く見えてきた。

 完全に視界が見えるようになり、2人の様子が分かる。2人はどちらも立っていたのだ。

 身体の何処にも怪我をしてない。

 ルシアとルナの剣を見てみると、身体から横にずれて、足の隣に突き刺さっていた。どうやら、ギリギリの所で2人ともに剣が当たらなかったのだ。


「………はは……はははっ!」

「……ふふ! これは、引き分けね」


 ルシアとルナは、その結果を見た瞬間に、口から笑い声が溢れてくる。今まで、緊張をしていた分、余計に笑顔を見せていた。

 互いに剣を地面から引き抜き鞘にしまう。

 そして、お互いに向かい合った。


「俺は、未だに罪人だ。お前の父親を殺した叛逆の騎士だ。それでも、信じるか?」

「うん。でもね、ルシア。これから、貴方の事を信じて行くんだよ。そこは忘れないで」


 それを聞いたルシアは苦笑い浮かべた。

 今のルナに何を言っても無駄だと感じていたからだ。ルナは、決して今の考えを崩すことは無いだろう。

 それ程に、ルナの決心は確かなものだった。

 ルナは、不貞腐れた表情を見せて、ルシアに向かって手を差し出してきた。その行為に、ルシアは疑問を浮かべる事は無かった。


「改めて……これからよろしく、ルシア」

「あぁ……こちらこそよろしく、ルナ」


 ルシアはルナの手を握りしめる。

 そして、互いに笑顔で微笑み合う。

 その時のルシアとルナは、昔のような関係に戻ったような感じがしていた。







案外……短かった。

次は日常編です。

では、第9話でまた会いましょう!

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