表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆の騎士と聖剣の巫女  作者: yukizakura
Shout of Beast《シャウト オブ ビースト》
5/21

第5話

遅くなってすみません!

今回も戦闘はないです。




 いつもの雰囲気のアリシア。だが、妙に違和感を感じる空気が流れている。気の所為だと思いたいが、何やら嫌な感じがしていた。

 そのアリシアに、1人の男性が帰って来た。そう、それはルシアだ。ルシアは、依頼をこなした後に、ジグルドの家で返り血を洗い流して、早急にアリシアに帰っていたのだ。

 多分……いや、アリアの事が心配だったのだろう。しかし、ルシアがアリナを心配しているのには、好意とは別の何かがあるような気がしていた。


 ルシアが、一目散にギルドに向かうと、嬉しそうな表情を浮かべていないクレセリアが待っていた。

 今にも泣き出しそうな雰囲気だ。目元が先程からピクピクと動いている。それに、涙と思われる雫が籠っているのが見て取れた。


「依頼を達成したぞ……それより、何かあったのか? か弱い少女のような表情を浮かべて……キモいぞ?」

「ちょ! キモいは酷いです!」


 冗談でルシアは言ったつもりだが、クレセリアは真に受けてしまい頬を膨らませる。

 完璧に怒っている訳ではない。

 しかし、気分を害したのは明白だ。

 ルシアは丁寧に頭を下げて、


「その……すまない。さっき言ったのは、冗談だ。真に受けるとは思わなくて……」

「なんだ……冗談でしたか」

「まぁ、ちょっとキモかったけどな」

「ひ、酷いです!」


 又しても、クレセリアは同じ反応を見せる。

 けれど、今回は何やら嬉しそうだ。先程の言った事を相当、間に受けていたのだろう。

 それが、冗談だと分かって、飛び跳ねるように嬉しかったに違いない。彼女も、少なからずルシアに好意を抱いてからだ。


「あ! そう思えばルシア!」


 クレセリアは、何か大事な事を思い出したのか、大きい声を上げてルシアの方を向く。

 こう見ると、クレセリアは20歳なんだが、それでも幼い子供に見えてくる。そう思ったルシアの自然と頬が緩んでいた。


「いきなり叫んで、どうしたんだ?」

「聖剣です! 聖剣!」


 ルシアが、クレセリアに向かって首を傾げながら聴くと、クレセリアは無邪気な子供のように大きい声で叫んできた。

 ルシアはそれを聞いて疑問符を浮かべた。クレセリアの様子からして、政治の権力の意味を表す政権ではない事は分かった。

 そうなると、残るは1つしか思い浮かばない。だが、ルシアは何故、そのような事をクレセリアが言い出した方が疑問だったのだ。


「聖剣? 聖なる剣の事か?」

「それ以外に何があるんですか!?」


 どうやら、ルシアの考えている通りだった。


「その聖剣がどうしたんだ? 石に刺さっていたのか? 竜の巣から持ってきたのか?」

「違います! 巫女です、巫女!」

「はぁ……巫女か」


 何が出ると思ったら、クレセリアが言った言葉は巫女だった。ルシアは、その巫女と聞いて、ありえないと頭の中で考えた。

 冗談でも言っていると思っている。

 そんなルシアに対して、クレセリアが知るはずのない名前を言い出した。


「来たんですよ! ルナ・ペンドラゴンが!」

「……ルナ? ペンドラゴン?」

「何ですか……その可哀想な子を見る目は」


 クレセリアが怒っている最中に、ルシアは頭の整理が追いつかず、それどころではなかった。頭の中に色々と疑問が浮かび上がる。

 自分の聞き間違えだと思いたかった。

 他人の空似だと思いたかった。

 これが、自分が見ている悪い夢だと思いたかった。だが……現実は違う。

 クレセリアの様子を見て分かった。冗談を言っている雰囲気でもない。

 ルシアは、表情を見れば、その人が嘘を言っているのかが、分かってしまうのだ。そして、クレセリアは嘘をついていなかった。

 このエリシアに彼女が来た。その話は、紛れもない、幻想でもない……事実だ。


「そうか……ルナが来たのか」

「余り、驚かないんですね? 聖剣の巫女たる『ルナ・ペンドラゴン』が来たのに」


 クレセリアは、ルシアの表情を見て、驚いた様子を見せて苦笑いを浮かべていた。

 それに対してルシアは、どこか遠くを見据えて、悲しい表情を浮かべて話し始める。その様子は、何かに懺悔するようでもあった。


「俺を探しに来たんだろ?」

「そうです! なんで、分かったんですか?」

「知り合いなんだよ……アイツとは、幼い頃からの師匠と弟子みたいなものなんだ」


 クレセリアは耳を疑った。

 今、ルシアは何を言ったのか分からない。クレセリアは、それを聞こうとはしなかった。

 何処かで悟ったのだ。ここで、ルシアに話の概要を聞くと、ルシアとの関係性が崩れるような感じがした。

 彼女は怖かったのだ。関係性が壊れる事を恐れている。しかし、それ以外に今のルシアの雰囲気に悪寒を覚えて震えていた。

 ギルドの受付をしていて、クレセリアは始めて冒険者に恐怖した。殺気立った冒険者を幾度なく見てきた彼女だが、ルシアに、今のルシアはそれ以上に恐れをなした。

 今のルシアの様子を簡単に言うと、それはまるで、悪魔を身に宿したような感じだ。近くにいるだけで、心臓を握られている気分になってしまう程に、殺気を放っている。

 しかし、それは誰に向けたモノでもない。自分に向けてルシアは殺気を出していたのだ。


「る、ルシア……」


 彼の急な変化に臆しながらも、クレセリアは言葉をルシアに向けて言い放った。彼女をよく見ると、身体中を震わせている。目には、涙を浮かべていた。


「……クレセリア、ごめん」


 ルシアは、急に大人びた感じを消し、青年のような柔らかい表情を浮かべて、クレセリアを優しく抱きしめた。


「えっ? ちょ、ちょっと、ルシア!?」

「ごめん……本当にごめん」


 急にルシアが抱きしめて来たので、彼女の心臓の鼓動は、高速に脈打ちをする。頬が真っ赤に染まるのを自分自身で実感した。


「……ルシア」


 ルシアを抱きしめて気づいた。

 彼の身体は震えていた。ルシアも何かに対する恐怖で、身体が震え、足が竦んでいたのだ。先程からルシアの顔は真っ青だった。

 こんなルシアを見て馬鹿だとクレセリアは思った。今までルシアを怖がっていた自分を。

 ルシアがこのような様子を見せたのは初めてだ。聖剣の巫女が、関係している事は、誰にでもわかる事だろう。

 当然、クレセリアは知っている。けれど、無闇に追求はしない。それは、ルシアの為にならないと心の奥底で、感じてたいたからだ。

 身体が接触して、ルシアの暖かさが、クレセリアの身体に伝わってくる。そう思うと、頭から蒸気が吹き出しそうになっていた。


「ルシア……大丈夫?」

「あぁ……もう、大丈夫だ。変な所を見せてしまったな」


 ルシアをゆっくりと離すと、ルシアは表情を切り替えて、いつも通りに戻っていた。それよりか、先程より視線が真剣だ。

 彼も心の中で、何か決心がついたのだろう。

 そんなルシアを見て、クレセリアは気を紛らわせて上げようと冗談を吹き込んだ。


「可愛かったですよ? 甘えるルシアも」

「……殺すぞ?」


 ルシアは本気で言っているか分からない程の声で、クレセリアを睨みつけながら言った。

 その声を聞いて慌ててクレセリアは、


「じょ、冗談ですよ。けど、可愛かったのは、本当のことです」

「お前は……」


 呆れた様子のルシア。

 ルシアは、そんなクレセリアを見た後に「はぁ……」と深いため息を吐いた。


「分かったが、アリナには言うなよ?」

「何でですか?」


 クレセリアは、知っている。ルシアが、アリナに少なからず好意を向けている事を……

 ルシアが言うセリフは分かった。いや、悟ったと言っていい。ルシアは、きっとアリナが勘違いすると言いたいのだろう。

 だが、クレセリアの的は外れた。

 ルシアは考える余地もなく即答で、


「アリナが心配するからだ」


 ギルドの外を向いて言い放っていた。

 そのルシアの瞳には、優しさと言うよりは、使命と言う感覚がしてならない。本当にルシアは、アリナの事が好きなのかと、クレセリアは疑問に思いながら心の中に収めた。


「そう言えば……依頼を達成してきたぞ」

「あ、そう言えばそうですね。ミノタウルスの魔性石は、回収しましたか?」


 ルシアは、麻袋に入れていた魔性石を2個取り出して、クレセリアの問いに答えた。

 1つは、ミノタウルスから取れた魔性石だ。黒く濁っている結晶の形をしている。逆に、もう1つのミノタウルス・クイーンから取れた魔性石は、魔力容量が多いのか、赤くどす黒い色で不気味に輝きを放っていた。


「これで……全部だ」


 ルシアが、魔性石を受付のテーブルの上に置くと、魔性石を見たクレセリアは、口を大きく広げて、無様に驚きを隠せないようだ。


「る、ルシア……これって」

「ん? 魔性石だが?」


 ルシアは平然とした表情で言葉を返す。

 しかし、クレセリアは一向に驚いているのをやめない。寧ろ、時間が経過する度に、余計に驚いているような気がしていた。


「魔性石だが? じゃ、ないですよ! この魔性石、Aランクを軽く行きますよ!?」

「……そうか」


 気にしていないように言うルシア。


「そうかって……まぁ、いいです。それより、ルシアは何を倒して来たんですか? 普通のミノタウルスでは……ないですよね?」

「クイーンが居たんだよ」


 それを聞いたクレセリアは、頭を抑えて呻き声を上げながら立ち眩んでいた。驚きを通り越して、頭痛がするレベルなんだろう。

 実際に、ルシアが軽々しく言ったが、誰にでも言える事ではない。ミノタウルスは、冒険者が2人以上いて勝てる相手だ。クイーンとなると、2人では少な過ぎる。10人いても足りないとされている。

 それをルシアは1人で倒したのだ。

 それだけで、ルシアの異常さが見て取れる。

 クレセリアが驚くのも仕方がない。


「クイーンを倒したんですか?」

「……あぁ」

「本当に? 本当の本当に?」


 クレセリアは疑いの目を向ける。

 その視線に、ルシアは臆する事なく言った。


「本当だ」


 ルシアが答えると急に周りが静まり返る。クレセリアはもちろんのこと、ギルド内にいる冒険者まで、固まったまま口を閉じていた。


「倒したんですか? 1人で? ミノタウルス・クイーンを倒したんですか!?」

「だから、さっきからそう言ってるだろ!」

「はぁぁぁ……ルシアって不思議ですよね」


 クレセリアは、凄く長いため息を吐いた。それを合図に、周りの冒険者たちもため息を吐いた後に、元の様子に戻り始めた。

 周りにいる冒険者も、ルシアのその力には疑問を覚えていたが、誰しもが言葉にしない。ギルドの暗黙の了解とされているのだ。

 だから、ルシアの事は謎に満ちている。不思議と言う言葉が一番合っているからだ。


「それで、依頼は達成か?」

「はい……達成ですよ。本当は、ボーナス報酬を出してもいいんですけど、こんな最北端のギルドには、余裕が無いんです」


 クレセリアは、棚から一枚の紙を取り出す。

 それは、依頼を受けた時に書いた最初の書類だった。その紙に、クレセリアは金色のハンコをポンっと強く押し付けた。


「あぁ……知っている。だから、ボーナス報酬とかは渡さなくていい。依頼分の報酬を受け取れるならな」

「ありがとうございます、ルシア」


 ペコリと頭を下げてお礼をするクレセリア。

 クレセリアは、頭を上げると準備していたのか、金貨一枚と銀貨50枚が入った袋を取り出した。ミノタウルス・クイーンを倒したには、見合っていないのは明白な報酬だ。

 だが、ルシアがいいと言っているなら、それでいいのだろう。彼は、ギルドを危機に陥れてまで、金が欲しいわけではないのだ。


「はい。これが報酬金です」

「確かに受け取った」


 ルシアは、クレセリアから受け取った報酬金を別の袋に合わせて収めた。その袋には、大量に金が入っているのか、ズッシリと重たく時々、金の擦れる音が鳴っている。


「じゃ、俺は宿屋に戻る事にする。何かあったら、教えてくれ。力になる」

「分かりましたよ、ルシア」


 ルシアは、ギルドから出ようと扉に手を置いた。その様子をクレセリアは、静かに、優しい眼差しで、見守っていた。


「大好きですよ……」


 ルシアに聞こえない声で囁く。

 その後に、扉が閉まる鈍い音が鳴り響いた。


ん……もう、本格的な話に入っていいのかな?

次回はルシアの正体が!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ