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叛逆の騎士と聖剣の巫女  作者: yukizakura
Shout of Beast《シャウト オブ ビースト》
3/21

第3話

少し長くなりました。

 


 最北端の町『アルシア』

 このアルシアは、王都から数百キロと言う距離を離れた所に位置する、正真正銘の最北端の町だ。しかし、比較的に人口は多く、廃村となる事は、まだ先の事だろう。

 田舎と言うべきのアルシアには、豊富の言葉が合うほどの魔性石が採掘出来た。それに合わせて、魔力の源となる世界樹ユグドラシルの恩恵が、土地に深く行き渡っている。

 そのおかげで、農作物が多く取れ、魔性石に合わせて、商人や隣町の人々と取引を出来るために廃村になっていないのが真相だ。


 アルシアは、最北端に位置する所為か、他の場所よりか珍しく四季がある場所でもある。

 四季と言っても、冬には雪が少し降る程度だ。それでも、冬支度は必要になる。

 アルシアの町の住民の冬支度を支えているのが、町から少し離れた所にある、ジグルドが経営している農場だ。この農場は、農作物や家畜を育てているので、隣町で食べ物を買うよりか安く仕入れる事が出来る。

 それに、何より品質が最高にいい。ルシアが、今、お世話になっているアリナの宿屋の食事も大体はジグルド産の物だ。

 確かにルシアもジグルドの作った野菜や、牛や豚……鳥に至るまで、美味しいと感じたぐらいだから、その凄さは驚きである。


「はぁ……無駄に遠いな」


 そして、ルシアはジグルドの農場に、向かっている真っ最中だった。

 朝に、アルシアを出てからずっと歩いているが、未だに農場は見えてこない。時刻は、ちょうど12時になった頃だろう。日の光の当たり具合で、そこは把握出来る。


「それにしても……魔獣がいない」


 ルシアが辺りを見渡しても、魔獣の魔の字すら見えてこない程に、魔獣の姿が見えない。気配すら感じないのは異常だと感じていた。

 決して、ルシアは魔獣を殺したい訳ではない。もちろん、魔獣を殺すと魔性石を落とし、それが金になる。だが、そんな魔獣を片っ端から殺しても、金が増えるだけだ。

 ルシアは金が欲しい訳ではない。いや、金は多少なりとも欲しいが、その為に自然界の理を壊すほど、バカな人間ではないのだ。


「お……やっと見えてきたか」


 辺りの景色を見渡しながら歩いていると、やっとジグルドの農場が視界に見えてきた。

 ジグルドの農場は、立派とは言い難いが、周りは草木に囲まれた草原で、その木々と木々と間に、違和感を感じさせる家が建っている。これが、ジグルドが住んでる家だ。

 その家から少し離れた所に行くと、畑や飼育場が見えてくる。ここで、季節に合わせた野菜や果物を育てているのだろう。

 ルシアは家の扉をノックしながら、


「ジグルド、依頼を受けて来たぞ」


 大きい声で囁いた。

 すると、ジグルドの家の中から、何やら物騒な物音が聞こえてくる。急いで、何かを片付けているような音だ。焦っているのだろう。

 しばらく、物音が立て続けに響いた後に、軋んだ音を立てて、ゆっくりと扉が開いた。


「なんだよ……ルシア」


 その扉が完全に開くと、無精髭が目立つ、オッサンと言う言葉が似合う男性が現れる。流石、農家なのか筋肉が浮き出ていた。冒険者のルシアより身体つきはいいと言える。


「久しぶり……ではないか」

「先週、会ったばっかりだろう。それで、依頼を受けて来たと言うのは本当か?」

「あぁ……日頃から世話になってるしな」


 ジグルドはそれを聞くと、家の中に向けて、親指で指差す。ルシアがそれを見て、首を傾げるとため息交じりで、「中に入れ」と呟いた。ルシアは渋々、家の中に入った。

 ジグルドの家の中は意外と綺麗だ。装飾と言う物は無いものの、デーブルや椅子、タンスに至るまでが、統一されて高級な雰囲気を漂わせてくる。農家の家とは思えない程だ。


「それで?」


 静かに椅子に座ってルシアは語る。

 ルシアの目の前にジグルドも腰を下ろす。


「ルシアは依頼について知ってるか?」

「あぁ……一応知っている。ミノタウルスの被害が出てるんだろ?」


 コクっとジグルドは軽く頷いた。

 だが、そのジグルドの目は真剣そのものだ。何か深い事があるように思える。


「そうなんだが、作物ではなく、今回の奴らは人間まで襲い出したんだ。多数の被害者が既に出ている」

「だから、早急に処理して欲しいと?」

「あぁ……奴らの巣は発見済みだ」


 そう言うと、ジグルドは近くにあった地図をテーブルの上で大きく開いた。どうやら地方の地図ではなく世界地図のようだ。

 ジグルドはある場所を指差して、


「ここが奴らの巣だ」

「ここは……」


 ジグルドが指差したのは、魔獣が多く生息する樹海の奥だった。この樹海は、最近何やら物騒な噂が広まっている。

 ある村人がこの樹海に足を踏み込んだ際に、不気味に叫ぶ魔獣を見たらしい。そして、その村人は身体を貪られて死体で発見された。

 その村人の遺書と思われる物に書かれていた。その遺書には、魔獣の他に奇妙な人物に話しかけられた事も書いてあった。


「そう、ルシアの思っている通り漆黒の樹海だ。運悪くここから近いからな」

「はぁ……行く事は行くが、アリナに遅くなると手紙で送っといてくれないか?」


 漆黒の樹海から帰るのに、少なくとも丸一日か2日はかかってしまう。ルシアは、それでアリナが心配すると思っていた。

 ジグルドは、何故かルシアの言葉を聞いた瞬間に、頬を緩めてニヤニヤと笑い出す。その笑顔はまるで悪魔のようだった。


「へぇ……アリナに知らせるのか?」

「当たり前だろ? 心配するからな」


 しかし、ルシアは平然とした態度で話す。


「なぁ、結構前から思っていたんだが、お前ら本当に結婚した方がいいんじゃないか?」

「……はぁ? なんでそうなる」

「いや、普通に考えたらそうだろ? お前はアリナの事を少なくとも嫌いじゃないだろ」


 頭を抑えてながらジグルドは言う。

 それに対して、ルシアは頭に疑問符を浮かべて、表情を強張らせていた。

 ジグルドの言う通り、ルシアはアリナの事を少なくとも嫌とは思っていない。寧ろ、好意があるように自分自身でも考えていた。


「俺は幸せになれない」


 だが、ルシアは悩む事なく強い口調で言ってきた。何処か誓いのような感じだ。


「まぁ……お前の気持ちもあるし、強制なんて野暮な真似はしない。お前の人生だ、お前が好きなように決めればいい」

「あぁ……ありがとう」


 素直にルシアは感謝を述べる。

 しかし、感謝を述べられたはずなのに、ジグルドは驚いた表情で固まっていた。それに「嘘だろ……」と小さく囁いている。


「る、ルシアがありがとうだって!? ななな、なんか変なもんでも食ったかお前?」


 それを聞いたルシアは苦笑いを浮かべた。

 そこまで驚く事なのかと思っていたからだ。


「俺がありがとう言ったら可笑しいか?」

「当たり前だろ!」


 即答だった。

 ジグルドの様子からして見て、茶化している雰囲気は一切ない。本当に驚きを隠せないでいたのだ。


「はぁ……昔と比べて変わったな、ルシア」

「そうか? いや、そうなのかもな」


 ルシア自身も自分が変わった事に、当然気づいていた。

 昔と比べてルシアは丸くなった。最初の頃は、本当に殺人者や暗殺者と言った者が発する殺気みたいなものを常に発していたのだ。

 会話も今のように出来ない。その頃は「あぁ……」か「そうだ」と会話は返答だけだった。近寄りがたい雰囲気も発していた。

 だが、今は普通の人と変わらない。昔のような棘もどこかに消えている。

 昔からルシアを知っていたジグルドにとって、ルシアが感謝を述べる事は、夢でも見ているのかと思った程だ。


「それで、今日には行くか?」

「あぁ……早く帰りたいからな」

「なら、これを持っていけ」


 ジグルドはそう言って、ルシアに向かって布に包まれているナニカを投げつけた。

 ルシアはそれを反射的な軽く受け取る。感触からして、おにぎりだろう。ここの地方の料理ではないが、安価で簡単に作れるからおにぎりはこのアルシアでも広まっている。


「おにぎりか……」

「なんだ? 俺が握ったのは嫌か?」


 冗談交じりでジグルドは言う。

 だが、ルシアは真面目にこう言った。


「あぁ……正直、嫌だな」

「おいっ! なら、返せよ!」

「嫌だが……ありがとうと思っている」


 ルシアは笑顔で微笑んだ。

 その笑顔を見て、ジグルドは毒気を抜かれた。凛々しい初めて見る表情だった。


「ふっ、そう言う事を言えるならいい! ほら、早く行ってこい。アリナが待ってるぞ」

「言われなくても、もう行くよ」


 ゆっくりとルシアは立ち上がる。

 ジグルドに一礼をすると、扉を開けて足を突き出して行く。その背中を見て、ジグルドは不意に笑顔で微笑みかけた。


「頑張れよ……ルシア」


 ドンッと扉が閉まる音が響く。

 ルシアに見えないように、ジグルドのその頬には涙が伝っていた。悲しい時の涙ではなく、嬉しい時の涙だった。



 ***



 ジグルドの家を出てから時間が経過していた。既に日は落ちて暗闇が広がっている。

 今、ルシアがいるのは漆黒の樹海の中だ。時々、魔獣の呻き声が聞こえてくる。だが、噂の不気味な叫び声ではない。獣の独特の唸り声に近い声だった。

 木々を掻き分けてルシアは進んで行く。

 漆黒の樹海と言う名の通り、上空には星すら見渡せないほどに草木が生い茂っている。地面にも見た事もない草や蔓が伸びていた。


「はぁ……結構進んだな」


 ルシアは一休みするために木に腰をかける。

 昼にジグルドから貰ったおにぎりの事を思い出し、背負っていた袋から取り出した。

 綺麗とは言い難いが、立派にお米が立っていて、ほのかに温かさを感じる。パラパラと塩らしきものが振ってあるのが分かった。


「……いただきます」


 ルシアは感謝を込めて食らいつく。

 米を噛み締めるたびに、口の中に甘い風味が広がり、その後に少しだけ塩気を感じる。疲れている今にはバッチリの相性だ。

 全部食べ終わる頃には、感じていた疲労感というものが一切なくなっていた。ルシアも人間だから疲労感は感じる。だが、今は本当に疲労感が消えていた。


「よし……あと少しだから行くか」


 ルシアは腰を上げて、目的としているミノタウルスの巣に向かって足を進めて行った。

 数時間歩いてあると、やっとミノタウルスの巣と思われる場所に辿り着いた。巣と言っても草木が大量に倒れている場所だ。


「ミノタウルスは……いたな」


 ゆっくりと近づくと、ミノタウルスらしき姿が見えてきた。特徴的な毛深い肌。そして印象的な牛の頭がそこにはあった。

 ルシアは鞘から剣を引き抜いた。

 ギンッと金属の鈍い音が鳴り響く。暗闇の色と同化するような禍々しい刀身が現れる。


「さて……やるか!」


 剣を構えて豪快に地面を蹴り出した。

 地面の土が抉られる。ルシアは、まるで風を切り裂く獣の如く高速で駆け出した。

 一瞬のうちにしてミノタウルスに近づく。だが、流石のミノタウルスもその音に気づき、警戒しながらルシアの方向を振り向いた。

 しかし、既にそこにはルシアの姿は見えない。ルシアはミノタウルスが振り向く間の瞬間に、背後に素早く移動をしていたのだ。

 これには、ミノタウルスも驚きを露わにした。


「ブモォォォォォ!?」


 ミノタウルスは独特な鳴き声を上げる。

 その背後では、ルシアが目を光らせて、剣を右手に力強く握りしめていた。

 次の瞬間、ルシアの右手が高速で振り下ろされる。真っ赤な血が噴き出した。


「……死ね」

「ブモォォォォォ! ブモォォォォォ!」


 ルシアの斬撃がミノタウルスの背を切り裂いた。骨を断ち切るには至らなかったが、背中の肉の筋は既に断ち切られていた。

 この傷ではもう腕は上がらないだろう。

 だが、必死に足掻くミノタウルス。魔獣と言っても生物は生物だ。どんな生物も身の危険が迫ると、生きようと必死に足掻く。無駄だと分かっていても身体が勝手に動いてしまうのだ。


「ブモォォォォォ!」

「……無駄だ」


 両腕が使えないミノタウルスは、まだ使える足を使って蹴りを入れ込もうとする。

 しかし、その蹴りはルシアに読まれていた。

 ルシアは、蹴りが来ると、身体を捻らせて空中でその蹴りを避けて、剣を振り下ろす。

 ミノタウルスの血が空中に飛び散る。その血の中には足と思われる部位が飛んでいた。


「ブモォォォォォ!?」


 足を無くした事により、ドサっと地面に倒れこむミノタウルス。動こうと片足で立ち上がろうとするが、痛みに怯み、上手く片足では立ち上がれないでいた。

 その光景は余りにも酷かった。踠き苦しむミノタウルスをルシアが平然と見下ろしている。

 そのルシアの身体中は、ミノタウルスの返り血で真っ赤に染まっていた。しかし、ミノタウルスを切った剣には、血すら付いていない。漆黒に煌めいた刀身のままだった。


「そろそろ……終わりにするか」

「ブモォォォォォ!?」


 ゆっくりとルシアはミノタウルスに近づいて行く。ルシアが一歩、また一歩を踏み出す度に、ミノタウルスが恐怖で震え出した。

 後ずさりをしようとするが、ミノタウルスの足が切られているため、後ずさりをすら許されない状況だった。

 ルシアがミノタウルスの前に立つ。片手には不思議に煌めく剣が掲げられている。そして、次の瞬間にその剣が血を浴びる。


 骨を断ち切る音が響く。

 ミノタウルスの口から大量の血反吐が吐き出させる。それと同時にナニカが落ちる。

 ミノタウルスの身体は地面に倒れ込んだ。首先から大量の血が地面を赤く汚す。その方裏に、ミノタウルスの頭が無残に落ちていた。


「ふぅ……終わったか」


 ルシアは、顔に飛び散った血を手の甲で拭き取りながら安堵のため息を吐く。ルシアの圧勝とも言ってもいいが、気を抜いていたらルシアがやられる場面はチラホラあった。

 忘れないようにルシアはミノタウルスの死体から、核となる魔性石を取り除いた。この魔性石は、魔獣の心臓とも言っても過言ではない。魔獣によって大きさは変わるが、本質は実際変わらない。


 魔性石は魔力の塊だ。天然で取れるものは、穢れていないが、魔獣から取れるものは穢れているため魔力の量が大きい。その為、ギルドはこれを買い取ってくれる。

 それに、この魔性石には魔獣の基礎情報か入っている。これをギルドで読み取る事で、何を倒したかが分かるような形になる。

 今回もミノタウルスの討伐の依頼の達成条件も、この魔性石の回収が入っている。

 ルシアはミノタウルスの魔性石を、布で出来ている袋の中に丁寧にしまい込んだ。


「さて……これで終わりか」


 ルシアは、ミノタウルスの巣を見渡した。

 このミノタウルスがオスかメスか分からないが、繁殖期の今は巣の中には、基本的に一体いたら2体はいるはずになる。だから警戒を怠っていなかった。

 しかし、ルシアが帰ろうとしたその時、


「モァァァァァァァ!」


 ミノタウルスと思われる叫び声が轟いた。

 だが、先ほどのミノタウルスに比べて、その叫び声は大きく荒々しいものだった。


「やはり、まだいたか!」


 ルシアは叫び声が聞こえた方向に剣を向ける。その瞬間、草木の向こう側から、1サイズ大きいミノタウルスが現れた。牛の頭のはずだが、ツノが二本ではなく、三本だった。

 その見た目で判断がついた。

 このミノタウルスは特別な魔獣だ。


「はぁ……ミノタウルス・クィーンか」


 ミノタウルスでも中々見かけない特別種。

 その力は、普通のミノタウルスの3倍以上になるとも言われている程だ。クィーンがいる所為で、人間を襲ったのかも知れない。


「少し……本気を出すか!」


 ルシアは無造作に剣を構えた。

 しかし、先ほどの構えとはどこか違う。剣先をミノタウルス・クィーンに向けている。

 剣を向けられた事により、様子を見ていたミノタウルス・クィーンが迫ってきた。


「モァァァァァァァ!」


 巨体な身体から放たれる腕。

 ルシアを潰そうと拳が迫っている。だが、ルシアは身動きを一切しなかった。それに、瞑想するかのように目を閉じていた。

 戦意が喪失したと言うわけではない。その理由が、次の行動で露わになった。


剣技ブレイドアーツーー深淵の灯火」


 ルシアが小さく呟いた。

 そして、その瞬間にミノタウルス・クィーンの拳がルシアに当たったように見えた。

 ルシアには拳が当たらなかったのだ。いや、当てれなかったと言った方がいい。よく見てみると、ミノタウルス・クィーンの腕が血飛沫を上げて宙に舞い飛んでいた。


「モァァァァァァァ!?」


 驚いて後ずさるミノタウルス・クィーン。

 ルシアを見てみると、別に変わった様子はない。だが、ルシアの持っていた剣が、青い炎を纏って火の粉を上げていた。

 蒼く透き通る炎。神聖な炎にも見えてくるのだが、どこか呪いを感じさせるほどに禍々しい。

 これは先ほどルシアが使った剣技だ。

 剣技と言うものは、身体にある魔力を使い、剣の技を繰り出す事の意味を表す。魔法とは違い、剣技は身体に直接的に影響するものや、剣に影響するものの事を剣の技……剣技ブレイドアーツと言う。


「さて……終わりにしよう」


 ルシアは青い炎を纏った剣を構えて、ミノタウルス・クィーンに向かって駆け出した。

 突風のように突き進む。


「モァァァァァァァ!」


 ルシアが急速に近づいてきた事に驚きつつも、ミノタウルス・クィーンは怯むことなく、もう1つの腕を振り下ろした。

 だが、それをルシアは剣で切り裂いた。

 青い炎がミノタウルス・クィーンの切り落とした腕を焼き尽くす。血を吹き出させる前に、その肉を炎で焼き焦がした。


 その炎が忽ちの間に、ミノタウルス・クィーンの身体を覆い尽くす。毛深い身体を燃やして、焦げ臭い匂いが辺りに漂った。

 だが、死に至るまでの攻撃ではない。ミノタウルス・クィーンは踠きながらも、青い炎を身体に纏ってゆっくりとルシアに近づいた。


「無駄だ……」


 ルシアは剣を構えて呟いた。

 ミノタウルス・クィーンが向かって来ているのに怯む様子を一切見せない。そして、ルシアが力を込めて叫びを上げる。


「爆ぜろ!」

「モァァァァァァァ!?」


 次の瞬間、ルシアに向かって来ていたミノタウルス・クィーンの身体が爆発した。青い炎がミノタウルス・クィーンを包み込んで、ルシアの掛け声と共に爆発を起こした。

 悲惨な叫び声と共に、辺りに肉塊が飛び散る。血は炎の熱で、蒸発して鼻腔を劈く臭いを放っていた。


 身体を大きく抉られたクィーン。

 腹の中の臓器がごそっと持っていかれていた。肋骨らしき骨が浮き彫りになっている。

 ミノタウルス・クィーンは、血反吐を吐き捨てて、ゆっくりと地面に倒れた。

 ドンッと大きい音が響き地面を揺るがす。


  「ふぅ……これで本当に終わったな」


 ルシアは、ミノタウルス・クィーンが死んだ事を確認した後に、剣技で発動させてい『深淵の灯火』を解除させた。

 ルシアの剣とミノタウルス・クィーンの死体から青い炎が消え去る。まるで、元々の場所に戻ったように消えた。

 忘れずに、ミノタウルス・クィーンの死体から魔性石を剥ぎ剥ぎ取る。先ほどの魔性石と比べて、色が赤黒く輝きを放っていた。


「さてと……帰るか」


 ルシアは依頼を達成した事を確認した後に、ミノタウルスの巣から離れようとした。

 しかし、その時だった。帰ろうとした際に、樹海の奥から不気味な叫び声が響いた。高いとも言い難い、低いとも言い難い、何かに助けを求めている声にも聞こえた。


「まさかな……」


 ルシアはその声を何処かで聞い覚えがあった。だが、そんな事は絶対にあり得ないと自己解決して、その場を去って行った。

 アリナが待っているアルシアに向かって……


期末考査があるので、少し更新が遅れます。

第4話では、いよいよメインヒロインが!?

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