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叛逆の騎士と聖剣の巫女  作者: yukizakura
Shout of Beast《シャウト オブ ビースト》
2/21

第2話

今回も戦闘はありません。

では、どうぞ! エクスカリバァァァァ!

 



 ルシアは、アリナたちと別れた後、ギルドに向かって足を進めている最中だった。

 早朝なのか、まだ日差しは強くはない。それでも、少し暑いぐらいの気温だ。

 今いる町は、王都から数百キロ離れた位置に存在している最北端の町である。

 町の人々は、畑仕事や特産品などを別の町や町の中で商売をして暮らしている。


 そんな穏やかな町にも魔獣は存在した。

 魔獣と言っても種類は様々あるが、比較的力の弱い魔獣たちが生息している。それでも、魔獣は人間に危害を加えてしまう。だから、必然的にギルドは作られているのだ。


「ふぅ……着いたな」


 ルシアはいつも通りにギルドの前に辿り着いていた。

 ギルドと言うのは、魔獣の討伐を専門とした冒険者が集まって作った組合の事だ。

 このギルドで、依頼主からの依頼を受注して、その依頼を達成すると、お詫びとして報酬金を受け取る流れになる。


「よし! 行くか……」


 ルシアはギルドの扉を力強く開けた。

 その扉は重く頑丈な作りだ。

 それには理由があり、このギルドは魔獣達に襲われた際に、避難所として機能する為、扉だけではなく外装まで頑丈になっている。


 ギルドに入ると重い雰囲気が漂ってきた。

 だが、その雰囲気も一瞬のうちに様変わりする。身体がなれると言うこともあるが、周りにいる冒険者が、ルシアを見て納得したかのように殺気を消したのだ。この雰囲気に飲まれるようでは、冒険者をやっていけない。新人に対しての試練と言ってもいいだろう。


 ルシアは、ゆっくりと受付があるカウンターに向かって足を進めていた。

 流石に、2年間もこのギルドに通っているので、ルシアの顔を知らない者はいない。知らない奴がいれば、そいつは新人か、単なる仲間意識もないダメな冒険者だ。


「あっ! おはようございます、ルシア」

「……おはよう、クレセリア」


 ルシアが受付のカウンターに行くと、カウンターの前の椅子に座っていた、ギルドの職員と思われる女性がペコリと頭を下げて、ルシアに向かって笑顔で挨拶をしてした。

 その笑顔には、少なからず好意がこもっているように見える。


 それを側から見ていた冒険者達は、又かと言わんばかりにため息を吐いていた。

 クレセリアと言う名の女性は、余りにも美しいと言う言葉が似合っている。

 透き通るような白いシルクの肌。甘い吐息を度々、吐いている唇。そんな容姿を一段と引き上げるかのような金髪だ。


「今日も依頼ですか?」

「あぁ……そのつもりだ。なんか、手軽な依頼とかは入っていないか?」


 カウンターに肘をつき首を傾げながら聞く。


「手軽なのなんてないです。それより、ルシアには緊急の依頼が入っているけど?」

「……緊急依頼か……珍しいな」


 急にルシアの声のトーンが変わる。

 ギルドには2つの依頼の形式がある。

 1つは、依頼主が何日間か期間を与えて、誰にでも受注が可能の普通の依頼。

 2つ目は、依頼主が本当に急速に解決をして欲しい時に出す緊急依頼の2つがある。

 もちろん、緊急依頼の方が報酬金は高い。だが、誰にでも受けれると言うわけではない。

 緊急依頼を受けるには、長きに渡るギルドへの信頼と、己自身の技量が図られる。


「どんな依頼だ?」

「こちらの依頼です」


 クレセリアは一枚の紙切れを渡す。

 その紙切れを見てみると、赤い字で『ミノタウルスの討伐』とデカデカと書かれていた。


「ミノタウルスの討伐か……」


 ミノタウルスと言うのは魔獣の一種だ。

 下半身が人間のような形をしているが、その足や太腿には、皮膚を覆い被す程の剛毛が生えている。それに、人間とは違い、頭の部分が牛の頭になっている魔獣になる。

 この春の時期になると、ミノタウルスは繁殖期に入る為、被害が出ていると推測出来た。


「けど、ミノタウルスは繁殖期になっていても、人間に直接的な危害を加えない気がするんだが……」

「私もそう思ったんですが、何故か人間や家畜を無闇矢鱈と襲うらしいです」


 繁殖期に入っても、ミノタウルスは人間にとって直接的な被害は出ない。栄養を摂取する為に、家畜を少なからず襲う事もあるが、人間を襲うなど、繁殖期だからこそ余計にあり得ないのだ。

 ミノタウルスは馬鹿ではない。人間を襲っても逆に狩られることぐらい理解している。


「分かった。一先ず、その依頼を受けよう」

「本当ですか!? では、ここにサインを」


 先ほど見せられた紙に、手渡された羽ペンで、スラスラと自分の名前を記載した。

 依頼に名前を書くことで、依頼を受注した事になる。正式には、それを見たギルドの役員が、特製の印鑑を押してからだ。

 ポンっと印鑑を押し付けた音が響いた。


「これで受注は完了です。目的の場所は、町から少し離れた所にある農場です」

「あー、ジグルドさんの農場か……」

「ルシアの言う通り、ジグルドさんの農場です。行き先は……分かっていますね」


 そんな会話をしている最中に、クレセリアは何枚もの紙に丁寧に文字を記入して行く。ギルドの役員のクレセリアが書いているものは、大体は重要な書類系統だ。

 多分、緊急依頼に対する事だろう。


「あぁ……ジグルドさんには、お世話になっているからな」

「そうですよね。だって、ルシアはアリナの元に住み込んでいるもんね」


 敬語には程遠い言葉遣いで、クレセリアはルシアに向かって語り出す。途中途中、言葉が丁寧にならないのは彼女の性格上の事だ。

 だが、今の言葉には何処か棘があった。怒りとかではない。純粋な嫉妬に見えていた。

 時々、ため息を見せるのはその所為だろう。


「もう行くが、他に俺に用事はないか?」

「ん……他には……無いです」


 クレセリアは深く考えた後に言葉を言う。

 それ聞いたルシアは、一回だけ頷き、受付のカウンターから離れて行く。

 その姿を見ていたクレセリアは、何かに気づいたのか、椅子から立ち上がって、ギルドから出ようとしていたルシアの手を掴んだ。


「ま、待ってください、ルシアっ!」

「ど……どうしたんだ?」


 急な事に少し驚きを隠せないルシア。

 そんなルシアの手を、クレセリアの手が力強く、優しく握りしめていた。

 その事が疑問に思い、ルシアは首を傾げる。


「その……言うのを忘れた事がありました」


 なぜか、クレセリアは照れている。

 そんな様子をルシアはもちろんとして、周りにいた冒険者や職員を含めて、何事かと思い注目の視線を送っていた。

 時々、冒険者や職員から「ついに!」や「修羅場になるんじゃ?」と言う声が上がる。

 ルシアは苦笑いを浮かべて、クレセリアの視線に合わせるように視線を送った。


「えっと……ルシア……」

「何だ急に改まって……お前らしくもない」


 それを聞くとビクッと身体を震わせる。


「えっとね……き、きき気をつけてね!」

「…………」

 

 予想していた通りの言葉だったので、ルシアはどう反応していいのか困り、無言のままその場に立ち止まってしまう。


「あれ? ルシア……聞いてるの?」


 クレセリアも焦っているのか、緊張しているのか分からないが、既に言葉遣いが丁寧ではなくなっている。

 ルシアは、未だに黙ったままだ。言葉を考えているのか、顔が強張っているのが見える。

 だが、仕方がない。ルシアは余り会話を得意としてない人間なのだから。


「あ、あぁ……気をつけるよ」

「必ず帰って来て下さいね! 約束ですよ!」


 クレセリアは、ルシアに近づいて、顔に向かって指を指して力強く言ってきた。

 それに、クレセリアの頬が少し赤みかかっているのが見える。心の底から、ルシアを心配していると言う気持ちが伝わってくる。


「じゃあ、俺は行くぞ?」

「はいっ! 頑張って下さい!」


 ルシアはギルドの扉を開けて出て行く。


「無事でね……ルシア」


 それを見守るように、クレセリアは両手を胸の前で握りしめながら見守っていた。

 その目には涙が溜まっているように見える。

 クレセリアは両手で目を擦った後、いつも通りに仕事に戻り、受付のカウンターに座り込んだ。


「はぁ……」


 ため息を零すクレセリア。


「……すいません」


 そんなクレセリアの前に1人の少女がやって来た。腰に剣を添えているからして、その少女は冒険者だと一目で分かった。

 だが、その少女は冒険者にしては、余りにも美しく、余りにも覇気を感じた。


「ど、どうしました?」

「ここにルシアと言う人物はいませんか?」

「えっ?」


 意外な言葉に固唾を飲み込んだ。

 クレセリアには分からなかった。なんで、この少女の口から「ルシア」と名前が出て来た事が。


「えっと……」

「あ! そうよね。いくらギルドの人でも、個人に関する事は言えないか……」


 1人で納得したのか少女は頷く。

 そしてクレセリアに対して深く頭を下げて、


「それじゃあ、ルシアと言う男性を見かけたら、一言伝えてくれない?」

「……いいですよ」

「本当っ!? ありがとう……えっと」


 少女はバッと顔を上げて、クレセリアの顔をまじまじと見ながら感謝を述べる。しかし、何か言いにくい方があるのか、言葉を濁してしまう。

 そんな少女を見ていたクレセリアは、彼女が何が聞きたいのか反射的に理解した。ここら辺は、流石、ギルドの役員と言うべきだろう。


「ふふふ……私の名前はクレセリア。クレセリア・フルローザですよ」

「クレセリアさんね……なら、私も自己紹介をしないと……」


 彼女はそう言って、騎士がするような敬礼をした後に着ていたマントを脱いだ。

 マントで隠れていた服装が露わになる。

 透き通る白い肌を隠すように、白銀の鎧が輝きを放っている。重装と言う言葉より、軽装な動きやすそうな鎧だった。

 その鎧を見るだけで、彼女の力量が見て取れる。確実に彼女は凄腕の冒険者と並ぶ。

 それに、歳はクレセリアより若い。見る限りは16歳のように感じ取れた。


「私はルナ・ペンドラゴン。聖剣を受け継ぐ、聖剣の巫女だけど、気楽に接してくれると嬉しいかな」


 ルナが言葉を言う終わると、ギルドの中は急に静まり返る。まるで、女神が現れたかのような視線をルナに向けながら。

 口を上げて驚きを隠せないままルナに問う。


「せ、せせ聖剣の巫女!?」

「うんっ!」


 だが、クレセリアの問いに、ルナは軽々しく返事をして、可愛い笑顔で微笑んだ。

 急な事に又しても言葉を濁すクレセリア。

 そんなクレセリアを置いて、ルナは先程と同じように話を進め始める。


「それで、もしルシアと言う男性を見つけたら、こう言ってくれない?」


 なぜ、この聖剣の巫女とルシアが関係があるのかと疑問に思いながら、クレセリアはコクっと軽く頷いた。

 気がつくと冷や汗が首筋から垂れ落ちる。嫌な予感がして堪らなかった。


「必ず、貴方を殺してやるって……」

「えっ?」

「じゃあ、お願いねっ!」


 そう言い残し彼女は去って行った。

 困惑を隠せないクレセリアを置いたまま。

 クレセリアは、その場に固まって、ギルドの床を静かに見つめ続けていた。




ん……戦闘は次になります。

やっとミノタウルスとの戦闘です。

では、また会う日で!

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