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叛逆の騎士と聖剣の巫女  作者: yukizakura
Shout of Beast《シャウト オブ ビースト》
19/21

エピローグ

少し、簡単に終わらせた感が……

捨てきれないが大丈夫でしょう!

 



 叫びの獣の討伐から1日が経過した。

 叫びの獣となったグラシは、ルナの聖剣の力により身体を取り戻したが、命は助からず、最後はルシアの手で、この世を去った。


「本当にいいの? アリナに合わなくて」

「あぁ……」


 ルシアは悲しげな雰囲気を醸し出す。

 目の前は懐かしい宿屋だ。

 アリナが経営している宿屋。

 2年近くもルシアは、この宿屋で寝泊りをして生活をして来た。2年も過ごせば、アリナの宿屋は、自分の家のように感じてしまう。

 だが、もうここに来るのは最後だろう。

 ルシアは、グラシを殺した張本人。

 幾ら、詭弁を語っても真実は変えられない。


「アリナ……今までありがとう」


 ルシアはそう言い残し去って行く。

 宿屋の前には、一枚の紙切れと青い刀身が輝く剣が置いてある。それは、紛れもなくグラシが書いた手紙とロストレイブだった。


 ルシアとルナは、グラシの頼みを終わらせ、エリシアの町から出ようと門の下まできた。

 振り返ると懐かしい光景が目に広がる。

 人々で賑わう風景。

 レンガで作られた町並み。

 その全てが懐かしく、愛おしかった。


「そろそろ行くか……」

「うん」


 ルシアとルナは町を出ようと足を進める。

 だが、ルシアの後ろから声が聞こえた。


「ちょっと待ってルシアっ!」

「……クレセリアか」


 ルシアは声がした後ろを振り向いた。

 すると、そこに居たのは、エリシアでギルドの受付をしているクレセリアだった。

 クレセリアは、急いだ様子でルシアの後を追いかけて来たのか、息を切らしている。それに、何やら1枚の紙切れを手に握っていた。


「ルシア……いいえ。ルシア・モルドレッド……貴方に伝えたい事があるの」


 どこで聞いたのか知らないが、クレセリアはルシアの正体を知っていた。これには、隣にいるルナも驚きを隠せないのか、大きく口を開いて、「嘘……」と呟いている。

 ルシアは視線を尖がされて見つめる。

 クレセリアは、その視線を受け取ると、怯えたように怯んだが、手を握りしめて勇気を出して、ルシアに向かって何かを叫んだ。


「ルシアっ! 救ってくれてありがとう」

「えっ?」


 警戒していたルシアは唖然した。

 何が何だか分からないような表情だ。


「私は……ね。昔、貴方に助けられたの。あの日の夜に、魔獣に襲われそうになっている私を、貴方は身体を振り絞って助けた」


 ルシアとルナは耳を傾けて聞いた。

 クレセリアの言っている事は、ルシアが叛逆の騎士と呼ばれるようになった原因の夜の事を言っているのだろう。

 だが、それ以前にルシアは驚いた。

 まさか、クレセリアが昔、ルシアが助けた人だったなんて思いもしなかったからだ。いや、助けた人の事を覚えていなかった。

 ルシアは、殺した人間の事を覚えるのに、必死で助けた人の事を考えてもいなかった。


「だから……ありがとうルシア」

「……クレセリア」


 可愛げに微笑むクレセリア。

 ルシアは、その笑顔に見覚えがあった。

 しかし、思い出す事は出来ない。


「もう行っちゃうんでしょ?」

「あぁ……」


 曖昧な返事でルシアは返す。

 次にルシアが行く場所は決まっている。

 だが、それをルシアの正体を知っているクレセリアに話していいのか分からなかった。


「なら、コレを持って行って……」

「……これは?」


 クレセリアは1枚の紙切れをルシアに渡す。

 それは、スクロール状に巻かれており、中には綺麗な文字とギルドの紋章が書いてある。


「他のギルドへの推薦書だよ」


 クレセリアによると、この推薦書があれば、他の町でも素性を明かすことなく、ギルドの依頼を受ける事ができるらしい。叛逆の騎士のルシアにとっては必要なものだった。

 ルシアは、クレセリアからそれを受け取る。


「ありがとう、クレセリア」

「どういたしましてルシア……」


 泣きそうなまま、クレセリアは微笑んだ。

 クレセリアは、ルシアと一緒に旅に出たかったのだ。命の恩人の為に、人生を使う覚悟だってある。

 このエリシアのギルドに配属された頃、最初はルシアの事しか考えてなかった。だが、ある時、クレセリアの元にルシアがやって来たのだ。

 運命だと感じた。

 恩返しが出来るとクレセリアは思った。

 しかし、ルシアはクレセリアの事を覚えてはいなかった。それが、クレセリアは苦しめ、クレセリアはルシアの事を考えて行動した。

 結果的に恩返しと言う言葉通りの事を行えなかったが、クレセリアは諦めた。自分では、ルシアを幸せに出来る恩返しは出来ない。

 それが出来るのは、ルシアと共に歩ける人。

 片時も離れず、肩を寄せ合い続けれる人。

 クレセリアは手を胸の前で握りしめて、


「ルナ……ルナ・ペンドラゴン」

「な、なに?」


 急に呼びかけられルナは警戒する。

 だが、次の言葉でルナは気持ちを改めた。


「ルシアを頼むねっ!」


 微笑みながらクレセリアは言った。


「うん……任せてっ!」


 ルナは誓いを立てるように言葉を紡いだ。

 それを聞いたクレセリアは笑顔で、


「ありがとう……ルナ」

「私こそありがとう……」


 ルナは、クレセリアから差し出された手を、優しく力強く握りしめた。決して、クレセリアに言われた事を破らないような気持ちで。


「話は終わったか?」


 見守っていたルシアが声をかける。


「うん……」

「なら、俺とルナはもう行くよ」


 ルシアはクレセリアにそう言うと、ゆっくりと背を見せて、町の外に向かって歩みを進める。段々とルシアが小さくなって行く。

 そんなルシアに向かって、クレセリアは手を振りながら、心の底から気持ちを叫んだ。


「ルシアっ! また帰って来てよ!」


 ルシアから返事はなかった。

 だが、代わりにルシアは軽く手を挙げる。

 言葉を返すのが面倒くさい訳ではない。

 ルシアはクレセリアの顔を見れなかった。

 クレセリアは、無様に涙を流している。

 そんな悲しい表情を見たくはなかったのだ。


「返事を返さなくていいの?」

「いいんだよ……これで」


 ルシアは振り向く事なく進んで行く。

 再び、この町に戻る時は、全ての問題を解決した……その時だ。それまでは、ルシアは決して道を振り返る事はない。


「ねぇ……ルシア」

「なんだ?」


 朝陽が照らす中、ルナはルシアに尋ねる。


「私は貴方に着いて行くよ……どこまでも」

「……ありがとう、ルナ」


 ルシアはルナの頭を優しく撫でた。

 全ての始まりはここからだ。

 これから、ルシアとルナは途方も無い旅をする。

 困難も後悔も沢山あるだろう。

 もう、後戻りする事など許されない。


 それが、2人の決めた運命なのだから……




これで第1章は終わりです。

読んで下さった方々、本当にありがとうございます!


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