第17話
モンハンをしてて遅くなりました。
申し訳ありませんorz
では、どうぞ!
樹海の奥へ、ルシア達は進んで行く。
漆黒の樹海という名の通り、奥に進むごとに周りの草木の生え方が違う。まるで、今までの世界とは別のような感じがした。
「この奥にグラシがいる」
「……うん」
ルナは奥から漂ってくる魔力の濃度に驚きつつも表情をハッキリさせて頷いた。
「ルナ……あんまり力むな」
ルナが平常ではない事を察したのか、ルシアは優しく声をかける。その声を聞いて、ルナは胸の奥から安堵した気持ちが湧いた。
今なら何でも出来そうな気分だ。
ルシアと2人なら、全ての根源を断ち切る事も可能だと心の奥底で実感した。
「……バレてた?」
「当たり前だ。それより……いたぞ」
ルシアが鋭い視線で奥を睨みつける。
「アレが……グラシなの?」
そこに居たのは紛れもない魔獣だ。
四足歩行で佇む。身体の外皮は黒い獣毛で覆われているが、それをカバーするように、固そうな金属の鎧のようなものを付けていた。
いや……アレは鎧だ。
考えられる事は、グラシが魔獣化した際に、その名残としてが付着している。それが、目の前にいる叫びの獣をグラシと判断するには、十分すぎる証拠だった。
「あぁ……グラシだ。騎士の頃と同じ鎧を魔獣になってまで、身につけてるのか……」
「どうするの?」
深く考えるルシアにルナは尋ねる。
「やるしかない。俺が、深淵の炎槍を放つのを合図に、叫びの獣に突撃する」
コクッとルナは頷き、鞘から剣を抜いた。
白く輝く光が辺りに拡散する。
このルナの持っている聖剣こそが、今回の重要的なものだ。聖剣の本当の力を解放した瞬間に、この戦いは終止符を打つ事になる。
ルシアとルナと同様に剣を鞘から抜いた。
しかし、今回は愛用の漆黒の刀身が特徴的のクラレントともう一つ剣を持っていた。
「ルシア……その剣……」
「あぁ……ロストレイブだ」
グラシの剣をルシアは握りしめていたのだ。
基本的に騎士は聖剣を一つしか持たない。いや、持たないよりか……持てないからだ。
聖剣の元は精霊。悪魔か天使の違いがあるものの、それを同時に扱うなど、互いの精霊同士が争い合い、役目を果たす事がない。
クラレントとロストレイブ。
二つとも魔剣だが、違う精霊同士だ。
その事にルナは疑問に思っていた。
何故、反発し合うのに剣を持っているかと。
ルシアは疑問を解消する事なく、
「剣技ーー深淵の灯火」
ルシアの固有の剣技ーー深淵の灯火を使う。
深淵の灯火が発動され、ルシアのクラレントとロストレイブに青い炎が纏い付く。だが、それを見てルナは余計驚きを上げた。
ルシアのクラレントとロストレイブは、反発し合うどころか、お互いに魔力を周囲から吸収して、力を剣の内部へ溜め込んでいた。
普通はあり得ない事だ。
それもルシアは固有の剣技を使っている。
いつも使っているクラレントが、ルシアの意思に応える事はあり得なくはない。だが、何回か触っただけのロストレイブが、ルシアの意思に応えることなんてあり得ないのだ。
しかし、ロストレイブはルシアの意思に答えて、その力を発揮している。記憶の消失に特化したロストレイブだが、他の剣と比べて精霊が宿っている分、魔力の供給が早い。
まるで、グラシを止めてくれと頼むように、ロストレイブが応えているようにも見えた。
「ルナ……準備はいいか?」
「……うん」
疑問が解消されないままのルナだったが、ルシアの声を聞き、気を改める。ここから先は、死が待っている可能性も少なくない。それに、叫びの獣に攻撃された時点で、記憶は消失して死ぬよりか酷い事になってしまう。
ルナは覚悟を決めて、ルシアの合図を待つ。
ルシアはゆっくりと剣を構えて、
「剣技ーー深淵の炎槍!」
グラシに向かって駆け出した。
発動した深淵の炎槍は、ルシアの周りを囲むように空中に漂っていた。青い炎を纏った槍が、何十本もルシアの周りにある。
「グラシぃぃぃぃっ!」
轟く雄叫びと共にルシアは、発動した深淵の炎槍を叫びの獣に放った。無数の青い炎を纏った槍が、次々に叫びの獣に向かって、飛んで行く。先程まで、気づいてもいなかった叫びの獣は、無数の槍が飛んで来るのを見て、驚いたような表情を見せたまま着弾した。
深淵の炎槍は、叫びの獣の身体に刺さり、肉を焼き上げ、血潮を空へと噴きださせる。
そのままルシアは、二本の魔剣を叫びの獣に向かって叩き込んだ。ルシアと叫びの獣の身長差は格段に離れている。だが、怯む事なく、ルシアは剣を振りかざした。
「……すごい」
ルナはルシアの姿を見て驚いた。
乱暴に動いているはずのルシアだが、的確に叫びの獣の攻撃を躱している。それも、先に読んでいるかのように華麗に避けていた。
ルナも剣を構えて駆け出した。
「剣技ーー聖なる風刃!」
ルナは叫びの獣の背後から剣技を放つ。
聖剣から光を放つ風の刃が、叫びの獣の肉を切り裂き体勢を崩した。しかし、精霊宿しの影響を受けたグラシの再生力は異常だった。
先ほどのルシアの攻撃も既に治っている。
だが、それと同時にルシアの攻撃も再生と同じ速度で繰り出されていた。深淵の灯火を纏った二つの剣が血を浴びる。青い炎が肉を焼き、剣が肉を切り裂き骨を断ち切る。
鈍い呻き声を叫びの獣は上げた。
「ルナっ! 奴の心臓を狙え!」
「分かった!」
ルナとルシアは、叫びの獣のコアとなる部位に向かって剣撃を刻み込んだ。無数の刃が叫びの獣のコアを切りつけて削って行く。
その間にも、叫びの獣の攻撃は繰り出されたが、ルシアとルナは全てを避ける。だが、攻撃を全て避け切れるのも時間の問題だ。
ルシアたちの身体は悲鳴を上げていた。
再生能力の影響で、叫びの獣は疲れを見せない。それに、大したダメージも食らっていないように見える。ルシアの行動が鈍くなるが、叫びの獣は速さを増して行く。
「くそ! いい加減に落ちろよっ!」
心の叫びを露わにしても攻撃をやめない。
しかし、ルシアは疲労をしていた影響か、先ほどより周りに視線を張り巡らせていなかった。気がつくと、叫びの獣の背中から二本の翼のような生々しい腕が生えていたのだ。
「えっ? 嘘でしょ?」
ルナは掠れた声を上げる。
叫びの獣の背中から生えた腕は、攻撃をしている最中のルナを叩き潰すように振り下ろされた。頭の中で全てが崩れる感じがした。
ルナは避けれないと直ぐに悟る。
ルシアの方を向きルナは微笑んだ。
まるで、「ごめん」と謝るように。
「ルナぁぁぁぁぁ!」
ルシアは剣を逆手に持ち駆け出した。
一目散にと言ってもいい程に、地面を蹴りルナの方へ向かった。ルナが目を閉じるその瞬間に、ルシアはルナの前に立つ事が出来た。
だが、既に叫びの獣の背中から生えた二本の腕は、目の前まで迫っていた。ルナを担いで、逃げる事はルシアでも無理だ。
残された選択肢は一つしかない。
ルシアはその選択肢を選んだ。
「ルナ……後は頼む」
ルナの耳元で優しい声が聞こえた。
そう感じた時には、身体は吹き飛ばされるような浮遊感に襲われる。衝撃を覚えたルナは、直ぐに目を見開いた。だが、視界に見えた映像は、ルシアが叫びの獣の攻撃を食らって、空中に吹き飛ばされているものだった。
「……ルシア?」
ルナの声を遮るように獣が叫びを上げる。
「嘘でしょ? ルシア……ルシアっ!」
ルナは吹き飛んだルシアの方へ一目散に走って行く。叫びの獣の攻撃など眼中ない。
今はルシアの事しか頭になかった。
「ねぇ! ルシア……起きてよっ!」
地面に無様に落ちたルシアの元にルナは膝をつき、体勢を起こそうとする。しかし、ルシアの身体は力が無くなったように軽い。
突如として涙が溢れ出た。
ルシアの頬に何滴の水滴が落ちる。
ルナはルシアを抱きしめたまま、
「……起きてよ……ルシア?」
言葉も出ない表情で驚いた。
ルナの頭の中に亀裂が入る感じがした。
なぜか、目の前にいる人の事が徐々に、消えて行くような感覚に襲われる。いや、完全に、ルナの記憶からルシアは消えている。
叫びの獣の消失が発動したのだ。
しかし、記憶の中からルシアが消えてもなお、ルナは涙を流す。心の奥底から、目の前が大切な人だとは感じてたからだ。
「……なんでこんなに泣くの?」
自分に訴えかけても涙は止まらない。
だが、自ずとやらないといけない事は覚えていた。ルナは、ルシアを木の側に連れる。
「待っていて……」
ルナはルシアを木の側に優しく置いた後、聖剣を構えて叫びの獣のに向かって行った。
***
叫びの獣の雄叫びと、ルナの声が漆黒の樹海に響き渡る。ルナは、聖剣を止める事なく叫びの獣へと繰り出していた。
「はぁはぁ……」
今のルナにはルシアの記憶はない。
だが、木の側に座っているルシアを見る度に、悲しさと怒りを覚えた。それに、心の奥底が、マグマのように熱い。記憶が無くなってから、初めてルナは理解した。
ルシアが大切な人だということを。
「いい加減にしてよっ!」
ルナは叫びの獣の腕を吹き飛ばす。
しかし、少し経つと腕は完全に再生した。
こんな事をしても無駄と分かっている。
だが、それでもやらないとダメだった。ルナは、待っている人の為に剣を振るう。
「なんで思い出せないのっ!」
ルナは感情の全てを剣に添えて打ち付ける。
今までルシアと話していた事は記憶には残っているが、ルシアの顔が思い出せない。大切な人だと理解しているが、名前も外見も……その声すら思い出せないのだ。
話していた事は本を読んだように、ルシアが話した言葉の文字だけが思い出す。まるで、ルシアが最初からいなかったように感じた。
「あの人を返してっ!」
泣き噦る子供のように叫ぶルナ。
ルシアの事が大切だと思う。
しかし、そのルシア自体を思い出せない。
自分が好意を寄せている事も分かっている。
ルシアの顔を見る度に心に亀裂が入る。
ルナは自分自身が壊れて行く感じがした。
「ねぇ……誰なの……」
もう、諦めたかった。
このまま、何も考える事なく死ねるなら、死にたいと思った。だが、それと同時に、ルシアと話していた楽しいと感じていた、記憶が微かな霧のように思い出してしまう。
『笑ったあの人の顔が好きだった』
『照れ隠しのような態度が好きだった』
『自分の罪を背負っている姿が好きだった』
ルナの感情はぐちゃぐちゃに渦巻いた。
幾らでも思い出せる。
ルシアの事が好きだった気持ちを……
だが、ルナは思い出せない。
ルシアの事を全て思い出せないのだ。
「助けてよ……」
ルナは溢れる弱音を吐いた。
それと同時に全身の力が遠のいて行く。
身体に限界が来たからだろう。
ルナは先程から叫びの獣に向かって、剣撃を刻み込むのをやめなかった。ルシアと同じように魔力の急激な消費をしていたからだ。
聖剣を地面に落とした。
もう……考える気力すら残っていない。
ルナは今にも倒れそうな勢いだった。
「ガァァァァァァ!」
醜い叫び声を獣は上げる。
それは勝ち誇ったようにも見えた。
背中から生えた二本の腕が、ゆっくりとルナに近づいて行く。
ルナは、覚悟したように目を閉じる。
だが、叫びの獣の腕は、ルナには向かわず、木の側にいるルシアに向かった。
「な、なんで……その人なのっ!?」
ルナは嗚咽を上げながら、泣き叫ぶ。
それを嘲笑うように、叫びの獣はルシアを二本の腕で握りしめる。ギシギシと鈍い音が、ルナの耳元まで聞こえて来た。
自分の所為だと自分自身を呪った。
ルナは心の底から泣き叫んだ。
「その人を離してよっ! なんで……なんで、私を襲わないのっ! お願いだからっ!」
泣き崩れながらルナは囁いた。
何もかも諦めたルナは思い出す。
『だから、大切なものは何か見極めろ』
あの人が行った事。
心の奥底から悩んだ答えを。
今ならルナは分かる気がした。
いや、初めて会った時から感じていたかも知れない。この人が大切な人だという事を。
ルナは限界を超えた身体を無理矢理動かす。
「私は……貴方が大好きです」
小さい声で囁いたルナは、ルシアを握りしめている、叫びの獣の二本の腕に向かって、駆け出した後に聖剣を振り下ろした。
夥しい量の血潮が飛び散る。
直ぐに叫びの獣の腕が再生するかと思ったが、一向に再生する気配がない。それに、先程からルナが持っている聖剣が、白銀の百合のように美しく輝きを放っていた。
ルナは、叫びの獣が離したルシアを空中で抱きしめて、笑顔で微笑んだ。
「ごめん……私はやっぱり弱いね」
ルナはルシアにそう伝えると、ルシアを安全な場所に座らせた後、聖剣を叫びの獣に向かって、真っ直ぐと構える。それを迎え撃つかのように、叫びの獣は雄叫びを上げて、ルナ目掛けて地面を蹴り、一目散に駆け出した。
叫びの獣は前足をルナに振り下ろす。
しかし、ルナは身体に限界を迎えていたはずが、緩やかに軽くその攻撃を空中に飛んで避ける。だが、それを追撃するように、叫びの獣は残る腕をルナに向かって伸ばした。
だが、ルナはそれを避けようとはせず、
「剣技ーー魔力の消滅」
聖剣の力を発動させた。
白銀に輝く聖剣に、無数の光が集まる。
それは忽ち集まり一本の剣となった。
聖剣を覆うように光の粒子が包み込む。
ルナはその聖剣を容赦なく振り下ろした。
叫びの獣の腕は、ルナの聖剣によって断ち切られ、地面に荒々しい音を立てて落ちる。聖剣の能力なのか、切られた叫びの獣の腕は、再生する事なく夥しい血潮を吹き出す。
前足を失った叫びの獣は、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。魔獣化した影響で、四足になっている影響で、立ち上がる事はない。
そんな叫びの獣の頭を目掛けてルナは、
「さようなら……グラシ」
聖剣を真上から振り下ろした。
それから叫びの獣が動く事はなかった。
残り2、3話で一章は終わります。
また次の話で会いましょうっ!