第14話
なんか文字が変かも……
まぁ、でも多分大丈夫っ!
ルシアとルナはエリシアに戻っていた。
そして、今はアリナの経営する宿屋にいる。アリナの宿屋に戻った時、ルシアの様子を見て、アリナは心配そうに声をかけた。だが、ルナの方を見て、優しく笑顔で微笑んだ。
それから、ルシアとルナは部屋に戻って、異変について情報を整理している最中だった。
「先ずはユグドが生きている事だ」
ルシアはテーブルに座りながら言う。
テーブルの上には、紅茶の淹れられたカップが湯気を立てて置かれていた。
「どうしてお父さんが生きてるって分かったの? 何か確信があったんでしょ?」
ルナは吹っ切れた様子で語る。
ルシアとは反対側のテーブルに座っているわけではなく、ルナはルシアのベッドに腰を下ろして、ルシアの方を向いていた。
「あぁ……精霊宿しの亜人を覚えているな?」
「……うん」
精霊宿しの施された亜人の討伐をルシアとルナは既にギルドに報告している。しかし、精霊宿しについては言ってはいない。問題になるという事もあるが、精霊宿しについてルシアが知っていると、可笑しな事になるのだ。ルシアは素性を隠している。
ギルドに素性がバレた場合は、直ぐにこのエリシアから追い出させる。いや、運が悪いとギルドの冒険者の全てが敵になるのだ。
そんな事をルシアは望んでいない。クレセリアからも、異常に魔力淀んだ魔性石だった為か疑問を抱いていたが、どうにか誤魔化していた。
「あの亜人を殺した際に、核となる心臓の部分があったんだ」
「心臓? それって……」
ルナは急に表情を青ざめる。
「あぁ……人間だった頃の名残だ」
魔獣の場合は心臓など持っていない。その代わりに、核となる魔性石がある。しかし、精霊宿しを施された者が魔獣になった場合、人間だった頃の名残で心臓が存在するのだ。
しかし、それではユグドが生きている理由にはならない。答えは他にあるのだろう。
「だが、心臓があるのは、精霊宿しを施されてから時間が経っていないからだ」
「えっ……最近に精霊宿しが行われたってこと!?」
ルナは口を両手で塞ぎながら驚いた。
そんなルナに対して、ルシアは頷いたまま説明を再開する。
「あぁ……1ヶ月未満の場合は心臓がある。それ以上の奴はもう魔獣と変わらない」
しかし、これは魔獣に変異した精霊宿しの実験者だ。他にも変わる者はいる。
今回の精霊宿しを施され、亜人に変わったが、それは悪魔の影響だろう。天使を施されていた場合は最も変わっていた。
それでも敵には変わりがない。精霊宿しを施されて無事だったなど、普通はあり得ない。
「だから……お父さんは生きているのね」
「あぁ……精霊宿しはユグドしか出来ないからな」
ルシアの言う通り、ユグドにしか精霊宿しの方法は分からない。1ヶ月前に精霊宿しが施されたとするならば、ユグドは生きていると考えるのが必然だろう。
しかし、ルナは深く考えた様子を見せた。
「なら、このエリシアの異変もお父さんが行なっている事なのルシア?」
少し弱々しくルナは言葉を吐いた。だが、あの時のように恐怖に竦んでいる訳ではない。
瞳は真剣に真っ直ぐとルシアを向いていた。
ルシアは何かを知っている様子だ。既にこの異変の真相に気づいているのかも知れない。
ルシアは表情を暗くさせ、
「いや違う。この異変は別の者が仕組んでいる。それもユグドに関係している人物がな」
微かに震える声で呟いた。
その事にルナは首を傾げて問う。
「騎士ってこと?」
「あぁ……ルナはグラシを知っているか?」
「えっ? ……グラシ!?」
ルナはルシアの言葉を聞いて驚いた。
ルシアが述べたグラシと言う男性は、アリナから聞かされていた人物だったのだ。しかし、グラシはルシアに殺された筈。なぜ、このアリシアに関係しているのか分からない。
そんなルナの反応を見てルシアは、
「知っているのか……」
驚いた表情を見せて言葉を発する。
「なら、アリナの夫と言う事と、俺がグラシを殺した事についても知っているな?」
「……うん」
ルナが頷くと同時に、ルシアは固唾の飲み込んだ後に、静かにグラシについて説明した。
ルナはベッドに座りながら耳を傾ける。
「グラシは精霊宿しを施され、半獣になっていた。それを殺したのが俺だった」
「精霊宿し……お父さんが……」
ルナは暗い表情のまま下を向いた。
憎悪と怒りが心の底から湧いたのだろう。
しかし、ルナは直ぐに顔を上げて、ルシアの方を向いて説明を促した。ルナはユグドを止めないと行けないと考えていたからだ。
「そして、グラシの得意な魔法が消失だ」
「……消失?」
ルナは聞いた事の無い魔法に首を傾げる。
「あぁ……消失はグラシ出ないとまともに扱えない。効果は記憶を消失させる」
「えっ? 記憶を消失させる?」
又してもルナには理解出来なかった。
そんなルナを見てルシアはため息を吐く。そして、ルシアはテーブルの上に剣を置いた。
「そ、その剣って!?」
ルナはその剣に見覚えがあったのだ。その剣は紛れもないグラシが持っていた剣だった。
ルシアはルナが分からないと思い、先ほど密かにアリナから剣を借りていた。借りるその時にアリナは何も言わずに剣をルシアに渡した。躊躇する事なく笑顔で渡したのだ。
もしかするとアリナは気づいているかも知れない。ルシアの秘密についての全てを。
「あぁ……グラシの剣だ。名前はロストレイブ。消失の魔法に特化した剣」
「これがグラシの剣なのね……」
テーブルの上に置かれていた剣は、青く澄んだ刀身を見せていた。だが、ロストレイブには何か悍ましいモノが微かに感じ取れた。
その横にルシアは自分の剣を置く。
「このロストレイブは、俺の持っているクラレントと同じ魔剣に属する剣だ」
魔剣と言われる剣は、普通の剣とは違い、精霊の宿った剣の事を魔剣と呼ぶ。その精霊が悪魔の場合は魔剣となり、天使の場合は聖剣と呼ばれるのだ。
持つのには凄まじい技量が試される。
ロストレイブもクラレントと同じ魔剣。ルナの持っている聖剣と反する剣という事だ。
「ルナ、一度立ってくれないか?」
「うん……分かった」
ルシアに言われた通りにルナは立ち上がる。
ルシアもテーブルの上にあるロストレイブを握りしめてルナの方に近づいた。ルナはその事に少しだけ不安な表情を浮かべる。
「あ、そんなに警戒しなくてもいい。今から魔法の消失がどんなものか見せるだけだ」
「えっ? 本当に!?」
ルシアはそう言いながら剣を引き抜いた。
青い光が放たれ、青く透き通る刀身が現れる。それは青空のように美しかった。
「大丈夫……少し経てば記憶は戻るから」
「ちょ! そう言う事じゃないでしょ!?」
ルナは驚いた様子で狼狽える。
そんなルナに対してルシアは苦笑を浮かべたまま、剣を構え出した。
ルナも決心したかのように静かに目を閉じる。ルシアの事だから痛い事などする筈が無いと信じていたが、それでも怖かった。
「じゃ、行くぞ! 剣技ーー消失の記憶」
ルシアの握りしめていた剣は、藍色の光を放ちながらルナの身体を切り裂いた。しかし、ルナの身体には一つも傷はない。ルナ自身にも何が起きたのかさっぱり分からなかった。
「あれ……何が起きたの?」
「ルナ……グラシを知っているか?」
呆然とするルナに対してルシアは質問する。
「グラシ? ……聞いたこと無いけど?」
ルナは首を傾げながら答えた。
それに、本当に知らない様子だ。これが記憶の消失の効果なのだろう。
しばらくするとルナは驚いた様子で、固まったまま、ルシアの方を見つめていた。
何か言いたげな雰囲気だ。
「ルシア……さっきの何?」
「効果が切れたか?」
無言でルナは頷いた。
「なんか頭の中から、急にグラシの事について忘れたような感じがしたんだけど……」
「それが消失の魔法だ。他人の記憶から、記憶の一部を消す事ができる魔法。グラシの場合は、記憶を全て消せていたがな」
ルナはそれを聞いて悪寒を覚えた。
グラシが戦場で、この魔法を使った場合、使われな者は何も出来なくなる。いや、生きている事すら忘れてしまうかも知れないのだ。
ルナは悍ましいと思いながら、
「消失の魔法の事は分かったけど、この異変について何か関係してるの?」
ルシアに向かって問う。
ルシアは鞘にロストレイブを納めて、椅子に腰を下ろしていた。
そして、ゆっくりと話し始めた。
「あぁ……エリシアの異変も消失。ユグドが生きていると分かった今、グラシが生き返っている可能性も出てきた」
「つまり……これはグラシの仕業なの?」
恐る恐るルナはルシアに聞く。
「精霊宿しを施されたグラシだろうな」
それを聞いた瞬間にルナは震えた。
先程の消失の魔法を受けて、その力がどれだけ強大か分かったからだ。それに、精霊宿しを施されて、半獣となっているグラシの力の域は、遥かに騎士のレベルを越している。
この異変の原因がグラシであるならば、この町中の人から記憶を消せる事になるのだ。そんな相手にどうやって戦えばいいか、ルナには何も浮かんでこなかった。
もし、亜人のように再生能力まで有していたら、ルナは何も為す術がない。その事に心の底から自分の力を呪った。
「……何か策はあるの?」
ルナは暗い表情で問う。
ルシアは考えた様子を見せた後、
「ルナの聖剣の力を借りれば、勝てる見込みはある。俺だけでは、多分苦しいだろう」
苦笑しながら言葉を述べた。
ルナはルシアの言っていた事に疑問を覚える。ルシアは聖剣の力を借りると言っていたが、ルナには思い当たる節がなかったのだ。
もう一度、ルシアの瞳を見つめる。しかし、ルシアの視線は揺らぐ事がない。本当に真剣に先程の言葉を言っているのだろう。
「聖剣の力なんてないよ……」
「いや……ある。お前は、その聖剣エクスカリバーの本当の力を発揮出来ていない」
ルシアはハッキリと強い口調で言った。
「そのエクスカリバーが本来の力を発揮すれば、俺なんて手も足も出なくなる」
「ほ、本当に?」
「あぁ……必ずな」
真剣にルシアは述べた。
何にも迷う事なく言葉を紡いだのだ。
その事にルナは驚いた。自分の持っている剣の実力を発揮出来ていない事と、ルシアが足も手も出なくなる事に衝撃を受けたからだ。
ルナは鞘の聖剣に視線を送る。
「どんな能力なの?」
「聖剣の本当の力は魔力を消す事だ。魔法や剣技の全てを無効化する。絶対的な力だ」
ルナはその場に固まった。
ルシアの言っている事が理解出来ない。そんな能力が実在したら、何も出来なくなる。最強と言っても過言ではない程の能力だろう。
ルナは無理だと思った。だが、それでも聖剣の力を発揮させないといけないと思った。自分の為ではなく、ルシアの為になりたい。
彼女はその一心で動き始めた。
その夜は綺麗な星が見え、遮るかのように獣の泣き叫ぶ声が星に向かって轟いていた。
さて……次回訓練とかするか? いや、話的に変になりそうだな……なので次回も日常編です!