第12話
遅くなってすみません!
では、どうぞ!
2人の影が大地を走り去る。
砂煙を巻き上げながら、人とは思えない程のスピードで走っていた。2人は魔力を使い、身体を瞬時に強化していたのだろう。
誰にでも出来るものでは無いが、ルシアとルナは騎士なのだから出来るのは必然だ。ルシアの場合は、元騎士と言った方がいい。
それでも2人の実力は計り知れないものだ。
「ルシアっ! そろそろ見えてくるよ!」
「分かった。魔力を集中させるから、その間の時間を稼いでくれ、ルナ!」
風を切る音が耳に響く中、ルシアとルナは互いに叫び合う。ルシアの指示通り、ルナはコクっと頷いた後、1人で悪魔を宿した亜人に向かって行く。
ルシアはその間に、走るスピードを落として、鞘から出した剣に魔力を注ぎ込む。悪魔と化した亜人を倒すには、それ相応の威力が無いといけない。本気で溜め込んだ一撃を食らわせるしかなかった。
「ーーガァァァ!」
走って近づいていたルナを音で判断したのか、亜人はルナに向かって、鋭い牙を見せつけながら雄叫びを上げる。
ルナも直ぐさま剣を構えた。
「いきなり行くよ! 剣技ーー聖なる風刃!」
ルナは構えた剣を亜人の太腿に向けて駆け出すスピードを合わせて、剣撃を刻み込んだ。
「ーーガァァァ!?」
太腿の肉を断ち、骨を切り落とす。
大地に真っ赤な血潮を浴びさせる。
亜人は、ルナの剣技を受けて、太腿の関節の部分から切り落とされ、バランスを崩して片足で倒れてしまう。
しかし、数秒の時間が経過すると、何事も無かったかのように、傷口が再生して見る見るうちに、足が生えてくる。
「やっぱり効いてない!」
ルナは直ぐに体制を直して、亜人から少しだけ合間を取る。ルナと言っても、基本的に身体はか弱い少女。
亜人からの攻撃を受けると、怪我では済まされない。寧ろ、命を落とす危険性すら無いとは言い切れないのだ。
それに、あの亜人は悪魔。想像以上の力があっても可笑しくは無い。警戒するのが、鉄則だと言えるだろう。
しかし、距離を置いたのにも関わらず、ルナに向かって亜人は、何度も拳を振り下ろした。
「……っ!」
ルナは危機一髪の所で、その攻撃を躱す。 ルナが元いた場所は、亜人によって地面を軽く抉られていた。やはり、普通の亜人とは力が段違いだ。
「せゃぁぁぁぁ!」
ルナは効かないと分かっていても、剣撃を亜人に向かって叩き込む。少しでも時間を稼がないといけないと思っていた。
後方ではルシアが剣に魔力を集めている。肌で感じるだけでも、凄まじい量だ。
ルシアにルナは視線を向けていると、力を溜めていたルシアが顔を上げる。そして、ルナに向かって下がれと目で訴えていた。
「ルナ!」
「分かってる! 早くやってルシアっ!」
ルシアの声と共に、ルナは後方に下がりながら叫び声を上げる。それと同時に、ルシアは地面を強く蹴り出し、亜人に駆け寄った。
片手には黒い刀身の剣が構えてある。だが、前のようには蒼炎を纏ってはいなかった。
「剣技ーー深淵の炎槍!」
ルシアが剣技を発動させると、目の前に無数の蒼炎で作られた槍が現れる。
ルシアはその槍を亜人に向けて、何本も撃ち放った。槍は凄まじい爆音を鳴らし、亜人の身体に突き刺さる。
肉を焼き、骨を貫く。忽ち、亜人は蒼炎によって埋め尽くされる。だが、それでも再生の能力がある為か、燃えながら歩き出した。
ルシアもこれで死ぬとは考えていなかったのか、直ぐに剣を構えて言葉を紡いだ。
「剣技ーー深淵の灯火!」
掛け声と共にルシアの剣が蒼炎を纏う。
そして、側に駆け寄ったルシアは、無数の剣撃を亜人に叩き込んで行く。腕を切り裂き、足を吹き飛ばし、肉を切り裂いた。
だが、亜人は死ぬ事はない。直ぐに、傷は再生を開始する。ルシアもその再生の速度には驚いたが、それでも剣撃を止める事はない。
「ーーガァァァ!」
再生する度に切り落とされる足と腕。
亜人は呻き声を上げるが、地面に倒れたまま何も出来ない。ルシアの攻撃が一方的に亜人に向かって繰り出されている。
その光景は余りにも無残だ。 近くにいたルナも、その光景から目を背けた。
再生する度に、辺りに腕が飛び散る。血と合わさって肉が飛び散る。しかし、ルシアの蒼炎により、直ぐに灰になって消え去る。
「そろそろ……死ね」
ルシアは自分の蒼炎でダメージを食らいながらも、亜人を切り裂いた。そして、亜人の頭に向かって剣を力強く突き刺した。
鈍い音が鳴り響く。頭蓋骨を貫いた音だろうか……はたまた、剣が地面に突き刺さった音なのだろうか定かではなかった。
だが、頭に剣が突き刺さってなお、亜人は身体を動かして踠き苦しむ。
ルシアは剣に力を入れ込んだ。そして、溜め込んでいた魔力を全て注ぎ込む。
「……爆ぜろ!」
ルシアが叫ぶと同時に、亜人の身体はバラバラに爆発した。蒼炎が広がっていた場所から順に、爆発したのだ。
そして、一番大きな爆発をしたのが、ルシアが差していた亜人の頭だった。頭は、爆発すると原型が見えない程、辺りに飛散した。
それから亜人は再生する事は無かった。
辺りに散らばった肉片は、ルシアの蒼炎により直ぐに灰と化している。その傍、ルシアは一つだけ燃えていない破片を見つける。
「ルシア……終わったの?」
「ん……あぁ……終わった」
そうルナに言うと、ルシアは目の前にある、脈打ちするモノに向かって剣を突き立てた。血を吹き出しながら、その部位は灰と化す。
それが終わるとルシアは剣技を解いた。蒼炎が音を立てて消え去って行く。辺りには、無残に燃えた大地と灰であふれていた。
***
ルシアは無事に魔性石を回収して、エリシアに向かって帰る途中だった。しかし、亜人を殺してから、ルナは静かに黙り込んでいる。
そんなルナにルシアは、
「怖かったか?」
「うん……怖かった。ルシアがルシアに見えなくて、心の底から怖かった」
そう言いながらルナは苦笑する。
ルナの身体は今でも震えていた。
ルシアと視線を合わせようとしなかったのはその所為だ。ルナは、ルシアの事を昔のように怖いと再び考えてしまっている。
違うと分かっていても、あの時のルシアはまるで別人のようだったと考えていた。
「ごめん……ルシア」
震えながらルナはルシアに頭を下げる。
そんなルナをルシアは見つめて、
「俺の方こそごめんな、ルナ」
「……えっ?」
ルシアは震える声で囁いた。
その声を聞いて、ルナは顔を上げる。そして、ルシアの方を向くとルシアは頬から涙を流しながら、怯えた様子だった。
ルナは余りの事に言葉が出てこない。
「俺も怖いんだ……自分自身が怖い。もし、俺が暴走したらどうなるんだろうってな」
そんなルシアを見て、ルナは今まで抱いていた恐怖が自然と消え去った。そのまま、涙を流すルシアに近づき、抱きしめる。
暖かい感覚がルシアから伝わってくる。それは、ルナにとって心地いいものだった。
「俺は強くない……弱いんだよ。今も生きる事から逃げようとしたい弱者だ」
「……ルシア」
ルナはルシアを離して顔を合わせる。
そして、そっと顔を近づけた。ルナは自分でも何でやっているのか理解が出来なかったが、身体が勝手に行動していた。
唇と唇が優しく触れ合う。
時間が遅く経過するのを感じた。胸の奥が清々しいほどに暖かく、気持ちがいい。ルシアに対する恐怖などは、完全にルナの心から消え去った。
ゆっくりとルナは甘い吐息を吐き離れる。
「ごめんね……ルシアは強いよ」
「……俺は……強くない」
笑顔で微笑むルナ。
それに対してルシアは真剣に答える。
「ううん。貴方は強い。叛逆の名を背負っても、生きようとしている」
「だが……俺は罪人だ。多くの騎士を殺した。多くの幼い子供を殺した」
後悔するようにルシアは囁く。それは自分を呪っているようにも見えた。だが、そんなルシアに対してルナは笑顔で否定した。
「けど、私はルシアを許す。貴方の罪を全て、私は許してあげる」
「ユグドを殺したのにか?」
ルシアの問いにルナは無言で頷いた。
そして、もう一度ルナはルシアを抱きしめる。優しく、全てを包み込むように……
何度も何度もルシアを撫でる。
周りの風が暖かく吹き付ける。まるで、2人を包み込むかのように吹き付けた。
「……落ち着いた?」
しばらくしてからルナは離れる。ルシアはいつものような表情に戻っていた。無性に恥ずかしくなったのか、ルナは頬を染める。
だが、そんなルナにルシアは頭を下げた。
「あぁ……ごめんなルナ」
「違う。そこはありがとう!」
照れながらもルナはルシアに言い寄る。
「あぁ……ありがとう」
「うんっ! どういたしまして」
頬を赤く染めてルナは微笑んだ。
それを見てルシアは真剣な表情で、
「ルナ……言わないといけない事がある」
「……なに?」
ルナはその真剣な表情を見て、浮かれた様子を直ぐに変えて、真剣な眼差しを返した。
吹き付ける静寂。先程まで騒がしかった木々は、緊張を走らせるように静まり返る。
ルシアは深呼吸を深くして、
「ルナ……ユグドは生きている」
「……えっ? 嘘でしょ……お父さんが?」
ルナは固まり、その場に崩れ落ちる。
辺りは真っ赤な夕日に包まれた。
読んで下さり、ありがとうございます!
今回は話の軸だったかな? それよりか、文字数が少なかったですね……申し訳ない。
では、第13話でまた会いましょう!