第11話
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
……いや、うん……遅いけどねw
漆黒の樹海のすぐ近くにある草原。
見れば見るほど、草しか生えていない。
しかし、この環境の方が魔獣にとっては生活の過ごしやすい環境なのだ。
「……ねぇ、ルシア」
「……なんだ、ルナ」
ルナはルシアの袖を引っ張りながら言う。
その様子は驚いているものだった。
「いや……あれが亜人なの?」
ルナは、進行方向にいる生物に向かって、指を指しながら言う。その生物は、人型の身体をしているが、大きな角が生えていた。
しかも、口からは牙が剥き出している。
人間……とは到底言えない。だが、亜人にしては余りにも異形だった。
普通の亜人は、角や牙を生やしているが、身長は比較的に低い。しかし、目の前にいる亜人は、軽く二メートルを超えている身長を有しているのだ。
この事にルナは疑問を抱いていた。
「ん……亜人だな」
「いや、どう見ても違うでしょ!?」
ルナはルシアを見据えて叫びを上げる。
「あれじゃ、化け物でしょ!」
「魔獣は化け物だろ。可愛い魔獣がいたら、ペットにしている」
訴えるルナに対して、ルシアは子供に言い聞かせるような適当な感じで返す。
しかし、目の前にいる亜人は、ルシアですら異形と思っていた。
ルシアは、ルナに何かを隠している。だが、ルナはルシアの考えに気づいていなかった。
「それで……倒すの?」
「倒すしかないけどな……」
ルシアとルナは離れた側で話し合う。
亜人は、どの種類でも目が悪いのが一般的だ。その代わりに、耳が凄くいい。
森人のような耳を持っているが、森人の美しい容姿も皆無で、魔法の才能も一切ない。警戒する所といえば、筋肉が発達した腕や足ぐらいだろう。
しかし、目の前にいるのは、普通の亜人と体格が余りにも違う。ルシアが戦ったミノタウルスとクィーンのような違いだ。
倒すと言っても、多少なりとも危険性が出てくるのは必然。このまま、ルナと一緒に戦って万が一、ルナに怪我でもしたら危ないとルシアは深く考えていた。
だが、ルナはルシアの考えを読んだのか、
「私に戦うな……とか言おうとしたでしょ」
呆れたように言葉を述べた。
その事にルシアは少しだけ驚く。ルナに自分の考えが読み取られたからだろう。
「はぁ……何で気づくんだよ」
「ほら、やっぱり! でも、私は戦うよ。いつまでも、ルシアより下なのは嫌だしね」
ルナは微笑みながら言った。
ルナの雰囲気は昔のような感じがする。
ルシアとルナは昔の頃は、師匠と弟子のような関係だった。しかし、ルナの父親で、この国の王だったユグドを殺した事により、ルナはルシアの事を復讐の対象とした。
だが、今は師弟の頃に戻っている。
ルシアはそう感じていた。その所為か、自分に似合わないような考えを浮かべたのだ。
「俺が合図したら突撃する……いいか?」
「うんっ!」
ルナが大きく頷いた。
それと同時に、ルシアは鞘から剣を抜き出す。漆黒の刀身が青空の下でも煌めいた。
ルナの方も鞘から剣を抜いた。
しかし、ルナの剣はルシアの剣と比べて、余りにも神々しいものだ。光を放ち、周りに輝きを放っている。流石は、聖剣と呼ばれるだけはあるのだろう。
ルシアは剣を強く握りしめる。
「行くぞ!」
ルシアの叫び声を合図に、2人は亜人に向かって駆け出した。
突風が吹くような勢いで駆け出し、辺りに砂煙が舞った。その音に気づいたのか、亜人はルシアとルナの方を振り返る。
ルシアと亜人の視線が合う。
「はぁぁぁぁ!」
しかし、亜人が反応する前に、ルシアは右手に添えた剣を振り下ろす。赤色の表皮が深く切り裂かれ、血潮を上げる。
「ガァァァ!」
ルシアの攻撃に亜人は一瞬、似るんだ様子を見せるが、賺さず戦闘の態勢へと身体を構え直し、唸り声を轟かせる。
「せゃぁぁぁぁ!」
しかし、亜人の視界の外から、剣を構えたルナが飛び込んできた。
光を放つ聖剣が亜人の身体を切り裂く。刀身から血潮を舞い上げて、ルナはルシアの側に駆け寄った。
「ねぇ! 全然、効いてなさそうだけど!?」
ルナの言う通り、亜人には剣で切り裂いた痛々しい跡がある。だが、亜人は痛みを噛み締めているものの、平然とした動きで、ルシア達を圧倒していた。
ルシアは魔力を右手に集中させて、
「アレを使うから、耐えてくれよルナ!」
「ちょ、ルシアっ!」
目を閉じたまま、ルナの後ろに隠れた。
ルナはそんなルシアに対して、驚きと怒りを覚えながら、向かってくる亜人に剣を向ける。
「ガァァァ! ガァァァ!」
唸り声を上げて襲いかかってくる亜人。
ルナは、後ろにルシアがいる事を確認した後、静かに剣を構えて呼吸をした。
周りの音は亜人の足音だけしか聞こえない。しかし、次の瞬間に凄まじい風を切る音が鳴り響いた。
「ルシア、早くしなさいよ。剣技ーー聖なる風刃!」
「ーーガァァァ!?」
ルナの剣技により、亜人の振り上げていた腕が最も簡単に吹き飛んだ。
先ほどルナがやった剣技は、風の刃を相手に飛ばす剣技。抜刀に近い構えから、瞬時に繰り出せるルナの得意技でもある。
それを受けた亜人は、血飛沫を飛び散らせて、痛みに顔を顰めて膝を地べたに着いた。真っ赤な血が地面に広がる。
しかし、少しだけ時間が経つと、亜人は平然とした表情を浮かべて、直ぐに立ち上がった。それと同時に、出血していた部分が少しだけ治っていたのだ。
「えっ! さ、再生してる!?」
「やっぱりな……」
後ろで構えているルシアが口を開く。
「やっぱりって何か分かったの?」
「いや、推測だが……アレは悪魔だ」
「あ、悪魔……」
ルナは驚いた表情のまま静かに固まる。微かに手が震えている気がしていた。
それを見越したのか、ルシアはルナの身体を持ち上げて、素早くその場を離脱する。
「な、なに持ち上げてるの!?」
「話は後だ! 今は逃げるぞ!」
高速で移動するルシアの後ろを諦めずに亜人が追いかけている。しかし、地面を走る速度はルシアの方が上だった。
あっという間にルシアと亜人の距離は離れていた。流石に諦めたのか亜人がこれ以上、追っては来なかった。
***
ルシアとルナは森の中に逃げていた。
ここからなら魔獣に見つかる事もなく、亜人について話せるからだろう。
「それで……アレが悪魔だって本当?」
「あぁ……悪魔だ。見た目では、余り判断出来ないが、あの再生力は異常なものだ」
切り株に腰を下ろして囁くルシア。
ルナはルシアを見上げるように、静かに地べたに腰を下ろして話を聞いていた。その表情は、先ほどよりも真剣なものになっている。
「逃げる時には腕が生えてたもんね……」
「さて……どうしたもんか」
2人は苦笑を浮かべて考える。
ルシアには何か勝てる手段を持っているようだったが、何故かそれを言おうとはしない。ルシアにとって、都合が悪いのだろう。その都合が何かは見当はつかなかった。
ルナはハッとした表情で、
「それより……何で悪魔が?」
ルシアに恐る恐る尋ねた。
ルナはユグドが行った精霊宿しが原因なのではないかと考えていたからだ。
もし、父親がやっていた場合は自分で終わらせないと行けないと考えていたのだろう。
「多分……精霊宿しの生き残りか、新たに精霊宿しを施された人間だろうな。見た目は、完璧に亜人になってしまってるのが皮肉な事だ」
「ちょっと待って……」
平然と淡々に述べたルシアに、ルナは指を出して頭を抱えたながら唸りを上げる。
「新たにって……そんな事あるの?」
「いや……可能性としては殆どない。まぁ、ユグドが生きていたら話は別だけどな」
ルシアの話だと、ユグド以外に精霊宿しの方法を知る人物はいないと言う。ならば、必然的に精霊宿しの生き残りの可能性だろう。
「けど……何であんな所に悪魔なんか」
「それが未だに分からない。歩いてここまで来ていたら、流石に今の騎士に討伐依頼が入って、直ちに殺されるはずだからな」
だが、精霊宿しの生き残りが誰にも気付かれずに、ここまできた可能性は低い。何かに連れて来られたとし考えられなかった。
人的に出現したとしか思えない。
何か嫌な予感がルシアの中で蠢いていた。
「それで……どうするの? 私の攻撃じゃあ簡単に再生されるのがオチだけど」
「俺の剣技を使うしか無いだろ」
ルシアはため息を吐きながら述べる。
精神的にも身体的にも剣技は疲れる。
魔力の操作に才能のあるルナは、そう言った負担が余り少ないが、ルシアは至って平凡な所為で、普通に疲労をしてしまうのだ。
「深淵の灯火でしょ……アレは酷いからね」
「なんだ……知ってるのか」
ルシアは自分の剣技について説明をする気だったが、ルナが知っている事は驚きだった。
「知ってる。ルシアを倒すために、貴方の剣技とかはマーリンから教えてもらったし」
「おい……マーリンって言ったか?」
ルシアはルナが話した事に耳を疑った。
自分の聞き間違えでなかったかと思い、目を鋭く尖らせて、もう一度ルナに問う。それは、真剣と言うよりは、怒っているように見えた。
「うん……マーリンに教えてって言ったら、剣技なら幾らでも教えてあげるって言ってた」
「あいつ……次会ったら殺そう」
ルシアは不敵な笑みを浮かべて囁く。
本気で殺意が混じっている様子だった。
そんな様子のルシアを見てルナは微笑む。今まで、憎んでいたとは思えないほどに。
そんなルナを見てルシアは、
「震えは治ったか?」
「えっ……震え?」
突然の事にルナは驚きを露わにする。
ルナはハッと直ぐに手や足に視線を向けた。
すると、本当に震えは治っていた。
ルナは少し照れたようにルシアを睨んだ。
「……いつから気づいてたの?」
「俺が悪魔って言った瞬間からかな」
それを聞くとルナは自分自身の鼓動が早まる感じがする。それに何やら、胸の奥が熱い感覚がしていた。だが、嫌ではなかった。
「ルシアにしてはやるのね」
「何がだよ……それより、大丈夫か?」
ルシアは心配そうな目でルナを見つめる。
それにより、余計にルナは頬を赤く染めた。
だが、それと同時に、ルナはルシアの方が大丈夫なのだろうかと考えた。
ルシアは紛いにもユグドの弟子だ。それに、ユグドの元で働いていた騎士でもある。
そんな尊敬する人物が起こした事件が関係してるものに関わって、平気な筈がない。ルナ自身でさえ、震えてしまう程に恐怖や後悔と言った感情が溢れてくるのだ。
その事がルナは逆に心配だった。
「ルシアは大丈夫なの?」
「俺か? 俺は平気だ……」
ルシアは、ルナの問いに少しだけ反応を見せたが、いつも通りの平然とした表情だった。
ルシアの言葉は、慣れていると言っているようにルナには聞こえてしまった。
「そろそろ……行くか?」
今でも心配をしているのか、ルシアは今までで見せた事もない優しい視線を送ってくる。
これはエリナの影響だとルナは微笑んだ。
ルシアは変わったと改めてルナは実感する。
「うん! 早く終わらせよう!」
「あぁ……俺も確かめたい事がある」
ルシアの言葉にルナは疑問に思ったが、その事について言う事はなかった。それは、余りにもルシアの様子が真剣だったからだ。
ルシアとルナは鞘に手を添えて、再び亜人に向かって歩み始めた。