第10話 修正版
出来ました!
待たせて申し訳ありませんorz
ギルドに辿り着いたルシアは、クレセリアから受け取った在住表を見て、大きく口をあけながら絶句していた。
「あったな……」
やはり、何度も見ても在住表にはエグトリアの名前が記載されている。
これでハッキリと証明された。
エグトリアは、この町に在住していたのにも関わらず、誰も覚えていない。そして、誰にも知られないまま、行方不明になったのだ。
「クレセリアは知ってたか?」
「エグトリアさんですか? う〜ん、そんな名前の人は聞いたことないですけど」
首を傾げながらクレセリアは言う。
「あぁ……在住表には記載されているんだ」
ルシアとエナ、それにクレセリアも在住表を見つめながら、その場に固まった。誰しもが、訳も分からないと考えていたのだろう。
キルトの職員のクレセリアですら、在住表に名前の書いてある人物を覚えていない。普通では、あり得てはいけない事だ。
しかし、クレセリア以外もギルド長ですら、在住表に書いてあるエグトリアの事を知らなかった。いや、知っている筈なのだろう。
だが、それを誰もが覚えていないだけだ。
「これで、原因が分からなくなったな」
「そうね……ルシアの言う通り、単なる行方不明って訳じゃ無さそうだね」
ルシアとルナは、互いに顔を見合わせて、相談を始めた。その様子を見ていたクレセリアは、首を傾げて驚いた様子だった。
今にも声を上げそうだ。
しかし、クレセリアは自分で、それを抑えたのか声を上げる事はなかったが、代わりにルシアとルナの両方を睨んでいる。
特にルナの方を睨みつけていた。何らかの理由が、クレセリアにはあるのだろう。
「それより……大丈夫なのルシア?」
「ん……何がだ、クレセリア?」
恐る恐るルシアに問うクレセリアに対して、ルシアは首を傾げて返す。
「いや……その……」
そう言いながら、クレセリアは鋭い視線をルナに向け出した。ルナは、何で視線を送られているのか分からず、キョトンとしている。
ルシアも何事かと思っていた。
「ルナさんですよね?」
「は、はいっ! ルナ・ペンドラゴンです!」
慌てた様子でルナは返事を返した。
「あの……前、ここに来た時にルシアの事を殺してやるとか言ってなかったですか?」
「……へっ?」
ルナはそれを聞くと急に口を閉じてしまう。
ルシアもそんなルナに視線を送る。
すると、突然にルナから冷や汗らしきものが溢れ出した。ルシアからの視線に目を合わせようとせずに、顔を逸らしていたのだ。
「ルナ……お前な」
「言ったような……言ってないような……」
ルナは曖昧な返答をして誤魔化そうとする。
戸惑った様子でルナは、何かを思い出したのかクレセリアに向けて指をさした。話を変えようとしているのはバレバレだった。
「それより、クレセリアさんだっけ?」
「はい……そうですけど」
急に名前を言われて少し戸惑うクレセリア。
そんな事を気にせずに、ルナは話を進めて行く。ルナの様子はまるで、味わった屈辱を返すように、言葉に棘を乗せて語っていた。
「貴女、私が来た時にルシアなんて名前の人知らないって言ってたよね?」
「言ってたような……言ってないような……」
クレセリアは、先ほどのルナと同じ返答で答える。基本的にルナとクレセリアは、精神共に性格も似ているのだろう。
気が合うと思えばいい事だ。
それでも、ルナは納得が行かない雰囲気を見せていた。
クレセリアの方も、ルシアに対して言っていた事を隠した事に納得が言っていないのだ。
ルシアはそんな2人を見て、呆れた様子でため息を吐く。最初から、何かこの2人には同じ雰囲気をルシアは薄々と感じていた。
「何なの、その曖昧な返答は!?」
「貴女だって、さっきルシアに同じように返していたでしょ!?」
呆れているルシアを放って、ルナとクレセリアの2人は啀み合いながら叫び合っている。
同族嫌悪とはこの事を言うのだろう。
しばらくすると、2人は気が収まったのか、啀み合っていた事は収まっている。だが、未だにルシアの方ばかりを向いて、2人は互いに視線を合わせようとはしなかった。
「はぁ……それで、これからどうする?」
「原因が分からないと探しようがないよね」
改めて考えてみると状況は複雑だ。
この消失の原因となる原因が分からない。ルシアにとって、そこが一番の謎だった。
この町で異変が起きている事は証明された。
だが、それを裏付ける証拠がない。起きているという事は理解出来るが、どうやって起きているのかがサッパリ分からないのだ。
糸口すら見えてこない。解決しようにも解決出来ない。
しかし、ルシアは何か嫌な予感がしていた。嫌悪にも親しい嫌な予感だ。
言うなれば、昔に起きた叛逆の事と何か関係がある気がしていた。
「まぁ……考えても仕方がないか……」
「じゃ、何するのルシア?」
気を取り直したルシアに対して、ルナは首を傾げながら尋ねる。
ルシアはそれにニヤリと笑みを浮かべて、
「気分転換に依頼を受けるぞ」
「えっ? 本当に受けるの!?」
ルナは驚いた様子で叫んだ。
朝、ルシアが言った事を単なる冗談だと思っていたからだ。
「この依頼を頼むクレセリア」
「はい!」
驚きを隠せないルナを差し置いて、ルシアは勝手にクレセリアに依頼を受けていた。
それを見てルナは余計に唖然する。
気分転換に依頼を受けるなど聞いた事がなかった。それに、あのルシアが自分と依頼に行くなど思ってもみなかったからだ。
「因みにルナもだからな」
「はぁ……」
ルナはため息を吐きながら、渋々、ルシアの持っていた依頼の紙に名前を書いて行く。しかし、その表情は少しだけ嬉しそうだった。
「私、ギルドに入って無いけどいいの?」
「あ……そこは心配ない」
基本的にギルドの依頼は、ギルドに属する者しか受けれない。だが、依頼を受けるだけで、それの付き添いで行く事は、ギルドに属してなくても出来る事だった。
「なんか軽いのね、ギルドって」
「まぁ、自治団体みたいなものだしな」
ルナが依頼の紙に名前を書き終わる。
すると、ルシアはその依頼をクレセリアに渡して、気長にルナと話をしていた。
その頃、クレセリアは依頼の受注を承諾する判子を押していた。これが終われば、依頼は完全に受注した扱いになる。
「それで、何を受けたの?」
クレセリアの作業が終わるまでの間、ルナは気になっていた事をルシアに尋ねる。
ルナは知りたかったのだ。
ルシアが受けた依頼が、スライムでない事を。本当にルナはスライムが嫌いだった。
「安心しろ……スライムじゃないから」
「ふぅ……良かった! それで、スライムじゃないのなら、本当に何を受けたの?」
ルナは可愛らしく首を傾げながら問う。
「えっ? 亜人に決まってるだろ?」
「いや……決まってる訳ではないでしょ」
ルシアの返答を聞き苦笑を浮かべるルナ。
そんなルナに、ルシアは呆れた様子を見せながらも、依頼の内容を詳しく教える。
「亜人の討伐の依頼だな。場所は、漆黒の樹海な近くだ」
「うわー、漆黒の樹海の近くとか……」
ルナは漆黒の樹海と聞くと、嫌そうな表情を浮かべて、肩から力を落としていた。何かあったのか知らないが、嫌そうなのは明白だった。
この漆黒の樹海とは、ルシアがジグルドの依頼で、ミノタウルスを討伐する際に訪れた樹海の事だ。
漆黒の樹海は、この地域の場所では珍しく気候が違う。世界樹の影響を受けて変化した土地と言ってもいい。
比較的温暖な気候の為、魔獣の住処になっている場所でもある。しかし、最近になって、この漆黒の樹海の辺りには、上位種の魔獣が出現する事が確認されていた。
ルシアの倒したミノタウルス・クィーンもこの場所で出現するのは珍しいのだ。
本当はミノタウルス・クィーンの生息範囲は樹海の奥にある場所。そこから離れた所に出ていたのには、何か理由があるのだろう。
それも調べるついでに、ルシアはこの亜人討伐の依頼を受けたのだ。
しかし、ルナにはこの事を知らせていない。知らせると面倒になると言うこともあったが、それ以上に何か起きる気がする。
だが、ルナは何故か漆黒の樹海に行くと言った瞬間になぜか嫌な表情を浮かべていた。
ルシアは何故、ルナが嫌がるのか理解出来なかったが、どうせスライムだろうと考える。
そんな事をしていると、クレセリアが依頼の最終的な確認が終わったのか、顔を上げる。
「終わりましたよルシア……それと、殺害予告をしていた巫女さん?」
「ちょ! 予告したけど、それはないでしょ!? なんなのよ殺害予告の巫女って!」
クレセリアの冗談……とは思えないが、その言葉にルナは怒りを露わにして叫ぶ。その2人の様子を見ていると、なぜか笑えてくる。
余りにもに過ぎて、姉妹にも見えそうだ。
「まぁ、あの巫女は置いといて……」
一々、反応しなくてもいいのに、クレセリアの言葉にルナは何度も反応していた。
クレセリアはそれを無視して、
「これで、依頼の受注は完了です。亜人の魔性石を持ってきて下さいね」
「あぁ……分かった」
ニッコリとクレセリアは笑顔で返す。
その笑顔を見て、ルシアは少しだけ頬を緩めて、その場を離れて行った。
「おい……ルナ、早くしろ」
「ちょ! 待ってよルシアっ!」
クレセリアの方を睨みつけながら、ルナはルシアの方へと走って行く。しかし、クレセリアはルシアの背中を見つめて、不安げな表情を見せていた。
「記憶の消失でしょうか? エグトリアと言う名前を知っていたような気がします」
そして、今まで考えていた事を小さく囁く。それは、何かに気づいている様子だった。
「気をつけて下さいルシア。何か嫌な予感がします」
立ち止まったまま、クレセリアはルシアとルナの姿が見えなくなるまで見守っていた。窓からは薄暗い雲がこちらに向かっているのが見えた。
今年も最後ですねw
いや……長かったような、短かったような……
では、また来年、会いましょう!