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例外  作者: 誇高悠登
一章
13/18

12話

「ちょっと、どこ行くんですか!」


 陽菜は握られた手を振り払う。

 無理やり歩かされて10分程度しただろうか。

 何が起こっているのか、分からないままには歩くのは限界だった。

 陽菜は少し乱れた息を整える。


「どこって言われてもな――俺、どこに逃げてんだ?」


 求めていたはずの答えは聞けずに、逆に識に質問されてしまった。

 雨が上がった曇り空。

 月は見えない。

 空には闇が広がるばかりだ。


「私に聞かれても困ります。ただですら話が分かっていないのですから」


「あ、大まかには説明しただろ?」


「されてません!」


 徳倉と識が話をしているのは聞いていたのだけど、まさか、あれが説明のつもりだったのだろうか?

 識と会ってから頭の回転が追いつかない。

 陽菜は頭の悪い方ではないと自覚していたが――未知との遭遇では頭脳はあまり役にはたってくれなかった。


「しゃーねーな」


 識は面倒そうに言う。


「俺らの組織に敵対してる組織がいるんだ。そいつらが敵を送り込んできた」


 識曰く、この状況はかなりマズイと言う。


「敵……ですか」


「ああ。まだ確認は終わってないが、俺の予想だと結構やばめだな」


 普段は『例外』を利用して社会に紛れたり、隠れたりしている『例外人』。

 だが、自分達から攻めてくるということは、戦力が整ったか、独断で行動する自信家かのどちらかだ。後者であればまだ、助かるのだが……。

 しかし、それは敵のみぞ知ることであって、識と陽菜には想像しかできない。


「だから、逃げるんですか?」


「当然。俺は無駄に死にたくないんでな」


「でも……さっきのおじさまは? 一緒に逃げなくてよかったんですか?」


 歩きながら話を続ける二人。

 逃げるならみんなで逃げたほうが良いのではないか。

 陽菜は提案する。


「徳倉なら無理はしない。『監視班』を助けられたら助けるだろうし、無理だったら自分だけでも逃げてくる」


 識は余計な心配は無用だと陽菜の案を一蹴する。


「そうですか……」


「それより、自分の心配をしろ」


 徳倉や『監視班』はこの程度のピンチは何回も切り抜けている。

 だが、陽菜は違う。

 まだ、『例外』を知っただけの一般人。どうなってもおかしくはない。


「え……」


「ぶっちゃけ、俺一人なら負けないさ。ただ、今の段階で上の連中はあんたを守れという命令らしい」


「私を……守る?」


 自分を指差す陽菜。


「ああ。ったく、言うのは簡単なんだよな。「仲間にしろ」だ、「守れ」だ、「無駄な被害は出すな」だ、「相手の力を調べろ」って。だったら少しでも手伝いに来いってんだよ。一回も現場に来ないくせによ」


 一人文句を並べる識。

 日ごろから、不満が溜まっているようだ。


「ともかく、あんたをどうするかは上が決めることだ。久しぶりに『例外』に感化されない人間が出たからって無茶しすぎな命令だぜ」

 命令にただ従うのは識としては、只々、不本意なのだが、今は大人しく命令を守っていた。


「……」


「だから、相手が諦めるか、上からの指示がある間はとにかく逃げる。もっとも――上があんたを諦めたら、俺はその時点で見捨てるがな」


 文句はないなと確認する識の前に――。


「どういうこと? 僕にも話を聞かせてもらえないかな?」


「……双さんっ!?」


 双がいた。

 双は道路わきにあった農家の物置に身を潜めて二人の会話を聞いていたのだ。


「あれ、お前、まだ帰ってない訳? 『監視班』の奴ら何してんだい……って、『例外人』に対応してんだったな」


 だとしても片方の仕事を手放すなって。

 ミスを重ねるなと識は呆れるが、『監視班』も度重なる識の身勝手さを知っているので、識にだけは言われたくないだろうが。


「陽菜さんと別れる前――君がファミレスで出した『殺気』と同じような感覚があったから隠れてたんだ……」


 双は『殺気』を感じて一度帰った振りをして、離れた場所から二人を見ていたのだ。

 丁度二人が足を止めたので、物置に隠れて会話を聞いていた。


「ありゃ、『殺気』……漏れちゃってた?」


 人の文句を言えない自分のミスだった。


「陽菜さんをどこへ連れてくつもりだ?」


 陽菜と識の間に割り込み、二人を割く双。

 何の話をしているかは分からないが――明らかに普通でないことは、内容を理解していないそうでも分かったのだ。

 だから、こうして姿を現して陽菜を守ろうとする。


「あのさ、そのやり取りは、今、ちょうど終わったところなわけで……、良いから逃げるぞ!」


 だが、双は陽菜を先に進ませない。


「逃げる……? 説明するまで逃がさない」


「ああ、もう!」


 識は天を仰ぐ。

 双はこれが正しいと思ってやってるのだろうが、邪魔になっている。

 せめて足を動かしながらでも話を聞いてくれれば助かるのだが、一歩も動く気配はない。


「陽菜ちゃん、いくよ?」


 双はこの際どうでもいい。

 上からの命は陽菜を守ることだ。

 双の後ろから出ようとするが「いくな!」と、双に手を掴まれた。

 二人の間で固まる陽菜。


「なぁ、巻き込まれたらさ、お前の命もないんだぜ? だから、ここは俺のいうことを、聞いてくんねーかな? 皆助かってハッピーだ」


「断る。明らかに陽菜さん嫌がってたじゃないか」


 逃げていた二人を双は『監視』していたのだ。識に手を掴まれて無理やり歩かされていた陽菜。一緒に逃げているようには見えなかった。


「だーかーらー。その説明を今、して上げた所。現に俺の方に来ようとしたのが証拠になると思うけど?」


 双は陽菜を手を掴む物理的な仕草で止めた。

 識は呼んだだけ。

 その陽菜の対応を見れば、歴然だろうと言いたいのだ。


「……だとしても、僕は君を信用できない」


 素人にも分かる『殺気』を持つ識は――明らかに普通じゃない。

 そんな人間をどう信用すればいいのか。


「信用ねぇ……」


 と、繰り返す。

 だが、頑固な双の態度に識はポケットにあるナイフにへと手を伸ばしていた。


「ああ、そうだ。目的が何か説明してもらおうか」


「説明するだけでいいんだな?」


 これで最後だ。この説明で双が納得して陽菜を開放しなければ、殺してしまおうと――識は決めた。


「ああ……」


 双は頷く。勿論『殺気』には気付いている。しかし、それでも双は陽菜を離さなかった。


「いいか、俺らは今、『例外人』に襲われてる。今は仲間が引き付けてくれているけど、それもいつまでもつかは分からない。だから、逃げてる」


 理解したかと識は人差し指で右のこめかみを数回叩いた。


「『例外人』? ふざけてんのか?」


 識の態度も良くなかったのだろう。

 双は一層、陽菜を自分の方に引き寄せた。


「ふざけてねぇよ。ほら、ファミレスで俺が話した内容だよ。あれ、例えじゃなくてさ、実在してたんだわ。無意識に特別だと人に思わせる人間がねー」


「……」


「お前の友達もさほど興味を持たなかったんじゃないか?」


 夕日が殺人現場に興味を持ったのは殺したのが識だから。

 もしもそれが逆転して、杉本 光が識を殺した場合――野次馬は誰も集まらなかったかもしれない。

 それにファミレスでもおしゃべりな夕日が、杉本 光や『例外人』についてほとんど話していなかった。


「でも、それは、話が難しいだけだって」


 本人がそう言っていたし、別に夕日におかしなところは何もなかった。


「さぁ、どうだが。『例外』は無意識に人に影響を与えるからな……」


 確かに夕日にしては珍しかった。

 それは双も感じていたのは事実である。


「で、そいつらは法で縛れないから、俺らが排除してるってわけ。説明は以上だ」


 これで話はお終いだ。

 混乱している双に近づいて、陽菜を掴んでる手を離させる。

 掴んでいた手に力は込められていなかった。


「そんな話……急に信用できると思う?」


 それでも、まだ、信用できないと言う双に、


「まあ、無理だろうな」


 識はナイフを掴んだ。もう、面倒だから殺そうか。

 識が判断したその時――、


「双さん、この際は嘘か誠かなんてどっちでもいいでしょう」


 今まで黙っていた陽菜が言う。


「私だってまだそんな話、信用出来てません。でも――識さんが嘘をついてるとも思えません。だから、一緒に逃げるだけならしてもいいじゃないんですか?」


「でも……」


 何かを言いかけたが、


「いや、そうだね」


 陽菜に言われたことで双は納得した。識は完全に信用できないが――陽菜ならば信じてもいいと。


「話がついたところで――向こうはどうなってるかなっと」


 識は徳倉へと連絡をする。

 何回かコールしたのちに徳倉は対応した。


「倉さん、そっちはどうだ?」


「……識殿。気を付けてください」


「……なにかあったのか?」


 電話越しでも徳倉が心配しているのが分かる。

 重い声が耳元で響く。


「『監視班』は全滅です……。かろうじて皆、息がありますが……敵の姿は見えません」


 恐らく識の方に向かってるのではないかと、徳倉は言う。


「そっかー」


「今、『監視班』に情報を求めているのですが、話せる状態じゃないので……何も」


 識の予感は的中していた。

 となると、この中で姿の見えない敵に対抗できるのは――、


「なら、やっぱ、ここは俺が何とかする」


 識しかいない。

 俺がやると徳倉に言う。


「しかし……」


 危険すぎるのではないかと口に出そうとした徳倉だが、その言葉を飲み込んだ。


「倉さんは、『監視班』の救護を頼む。本来は放って置きたいところだが、まぁ、貸しってことで丁重に扱ってやれ」


 『監視』されてばかりで嫌いなのだが、恩を売って置けば利用価値が出るかもしれない。

「承りました」


 徳倉は了承して電話を切る。


「さて、こっちはこっちで……考えるか」


 状況はかなり不利だ。

 なにより動ける人間が今の状況では識しかいない。


「……なぁ、本当にどうなってるんだ?」


 そんな中で双と陽菜の安全も考慮すると――手段は限られる。

 識はその中で双と陽菜に命令する。


「だから、説明は後だ。取りあえずあんた、陽菜ちゃんを送ってやってくれ」


「わ、分かった」


 双は頷く。

 識から陽菜を離すことは望んでいたことである。

 だが、何故、識は双の望みを聞いたのか。

 陽菜が識に質問した。


「識さんはどうするんですか?」


「ちょっと、状況が変わった。俺は引き返して、ちょっくら敵を倒してくる」


「敵って……」


 声を漏らした双に向かって、


「あんだけ偉そうにしてたんだ。しっかり守れよ?」


 と、言い残して識は引き返していく。


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