11話
「アイカ……。どうした?」
仲間が襲われた地点にたどり着いたドトウは、先に到着していた『監視班』唯一の女性であるアイカに聞いた。
「……ラクドがやられたみたいだ」
地面に血まみれで倒れている男は――足と腕が別々の方向を向いていた。
所々、皮膚も捲れている。
「かろうじて息はあるみたいだけど……」
「ラクド……しっかりしろ!」
浅い呼吸を繰り返すラクドと呼ばれた髭を生やした男に呼びかける。
「ああ……ドトウさん」
呼びかけに気付いたのだろう。
右目を開けて応じる。
左目は腫れあがり開けられる状態ではなかった。
「どうした……『例外人』か」
「へ……へへ。ちょっと……やられちゃいました」
すいませんと弱弱しく笑って謝るラクド。
笑う気力があるなら、取りあえずは大丈夫か……、ドトウは胸を撫で下ろす。
「で、どんな奴だった?」
「いえ……、後ろからいきなり……で、すいません」
再度謝るラクド。
「……そうか」
『監視班』は基本は監視対象1人に対して4人で行動を取る。
『監視班』に与えられた監視対象は識で――識に近づく人間がいないかを監視することが、今日の任務であった。
識に近づく人間に気を取られ、自分への気配にラクドは対応できなかったのだろう。
だが――、
「まだ、ここらへんにいることは確かだ。俺は周囲を探索する。アイカはラクドを連れて立った維してくれ」
「了解! ほら、捕まって」
「悪いな……」
アイカの肩に捕まって立ち上がる。どうやら片足、片手は無事なようで、肩を借りてなんとか歩き出す。
「もう、ちゃんとしなさいよね、ラクド」
「はーい」
二人が歩いていく先に――ドトウは妙な気配を感じた。
「とまれ!」
「え……」
二人の前に現れたのは一人の男。
髪を丸めた坊主頭。
「やっぱり……いた」
男はのんびりとした口調で発した。
「……ッ」
アイカも負傷しているラクドも、とっさに武器に手を掛ける。
アイカはナイフに。
ラクドは銃に手を伸ばした。
「こいつ……。気を付けろ、こいつ恐らく『進行度3』だ……」
二人の元に駆け寄ったドトウは一歩前に出て、『例外人』の男に対峙する。
ドトウが男から視線を外さないままに、
「『3』が相手じゃ俺らには無理だ……引くぞ、アイカ、ラクド!」
撤収命令を出す。
『監視班』は武器こそ与えられている物の『監視』が任務であり戦闘は避けるべき行為だ。
相手が『進行度1』や『進行度2』なら戦う選択もあるのだが。
「キカク……とれるか?」
ドトウは耳についているマイクに向かって言う。
トランシーバーから伸びているイヤホンとマイクのセット。ドトウの問いかけに、「どうした」と、返事が返ってきた。
「ここからは『監視班』の任務外として、本日は撤収する」
ドトウは腰についているホルスターから銃を取り出して男に向けて構えた。
「……そういうと思って、もう向かっている」
「……頼むぞ」
短い会話で理解してくれた仲間に感謝する。
後は、どうやってこの場から逃げるかを考えなければいけないのだが……、
「……敵は……殺す」
殺意を隠そうともせずに『例外人』はあくまでものんびりと声を出していた。
後ろを一瞬確認するが、まだ、アイカとラクドは視界に入ってきた。
怪我をしたラクドがいたのでは――あれが歩く速度の限界なようだ。
「ちっ……。しょうがねぇか」
撤収するとはいえ、この状況で争いを避けて逃げるのは難しそうだ。なんとか応援が来るまでは持ちこたえなければ……。
「やるしかねぇか……」
ドトウは覚悟を決め――銃の引き金を引いた。




