狂鳥~出会いの物語~
さわさわと木々が歌う。
光輝く太陽の日差しを木々が受け止め、柔らかに地上に落とす。
優しい光を、精一杯伸ばした新緑の葉が拾い集め、糧とする。
年に一度のこの日だけは弱肉強食の動物たちも、森の中では争わず、静かに時を過ごしてゆく。
鳥の楽しそうなさえずりと木々の歌が、森の隅々までを覆い、新たなる年の訪れとあるモノの誕生を祝福した。
幸福の時間は、ある、一人の人間の男により破られた。
この日のみ発生する侵入者避けの結界を無理矢理こじ開け、その男は森に侵入した。
血の匂いを身に纏い、警告に訪れた知能ある動物たちを全て切り捨て、男は森の奥へと進んでいく。
⦅これ以上、森の中で血を流すことはできぬ⦆
そう判断した各種族の長と呼ばれる者達によって、全ての動物達は身を潜め、男の動向を伺った。
ずんずんと迷い無く歩いて行く男は、まるで何かに導かれる様に中空を見つめながら進んでいく。
一際繁った茂みを抜け、森の中心にそびえ立つ途方もなく大きな木の根元に辿り着くと、そこには幼児がすっぽりと入るほどの虹色にきらめく卵のようなものがあった。
ありとあらゆる種族の長達に見守られたそれは、小さく揺れ動き、目覚めの瞬間を迎えようとしている。
「どけ」
牙を剥く長達を歯牙にもかけず、男は無造作に卵に近づいていく。
[ナニをするキだ。にんゲんヨ]
長達の中でも一際大きく強く知恵のある、森の番人と呼ばれる個体
が男の前に進み出、静かに問いかける。
「それを貰いに」
低く応じた男の言葉に周りの長達が色めき立つ。
[ナニをバカなコとヲ!]
[ニんゲんなどニわたスモのカ!]
練り合わさった事で凄まじい質量を持った殺気の塊を剣の一振りで霧散させると、男は番人と向き合った。
「ソレに呼ばれた。故に貰い受ける」
[りょウしょウした。]
[キさマ!くルっタカ!?]
[バンニンとモあロウもノが!]
[ダまれ!!アレがこのオトコをよびよせタのだ!
ナラばワレラにソレがとめられルものカ!!!!]
番人の言葉に渋々ながら開いた道を、男は構えは解いたものの、剣を鞘に収めぬまま進む。
男が近づくとソレは嬉しそうに一際強く光を放った。
つぃ、と伸ばされた指が表面を撫でると、そこから細かなひび割れがパリパリと始まりそのまま全体に広がってゆく。
表面全てが細かなひび割れで覆われると、次は上から下へと剥がれ落ちてゆく。
殻が剥がれ落ちた跡から出てきたのは、鳥の雛のようなもの、だった。
男の手のひらよりも一回り大きく、羽毛も頭上が赤で始まり後ろに徐々に薄くグラデーションになっている。
薄黄色に色づいた尾羽の先だけが金色に染まり、光輝いていた。
産まれたての雛は紅く煌めく瞳で男を見つめると、
「ピィ!」
と一声鳴いた後、羽を広げて風をまとうとゆらゆらと不安定に飛びながらも男の頭頂部にたどり着き、居心地が良さそうに目を細めた。
[タンじょう、おめでとうゴザイます。]
番人の言葉に、森の生き物たちが雛に向かって一斉にひれ伏す。
男の頭の上で雛がゆっくりと話しかけた。
[わたしハ、もりをデるよ。
そのアいだもりのシュゴはバんにんにマかせるから。]
[ギョい]
[コレがしんだラもどってクるけど、おまエたちがこロシたらもどラないでしょうメつするカら。
ジャまをするナよ?]
雛の言葉にその場にいたもの達は深く頷いた。
雛に逆らうことは森のもの達には許されていない。
男が森のもの達に負けることは無いが、こう命じておけば無駄な血が流れる事にはならないだろう。
雛は満足して男の頭に座りなおした。
男は雛を頭に乗せたまま、何も言わずに長達に背を向けた。
[ジゃあネ]
男の頭上から「ピィ!」と一声鳴くと、雛はもう振り返らずに真っ直ぐ前を見つめる。
男と雛。
この後、狂鳥と呼ばれ、恐れられる二人のこれが出会いの物語