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レジェンドガール  作者: 井村六郎
終章 伝説になれ
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エピローグ

 行方不明になっていた少女が帰ってきたという事で、世間がかなり騒いだが、一月もせずに治まった。杏利にたくさんの記者がインタビューしようと押し掛けたが、自分がどこにいたのか、何をしたのか、詳細な事は何も教えていない。軽くあしらった。

 その代わり、家族には全てを話した。こことは違う世界に呼び出され、喋る槍と一緒に想像を絶する大冒険をした事を。

 あの世界で杏利が得たものは、失われていない。アイテムも、マントも、魔法も、心想も。家族は全員信じてくれた。それらの力を見た事で、疑いようのない事実だとわかってくれたから。

 何より倉人が、いい面構えになった。そんな経験でもしなければ、わしが言った事を会得など出来んだろうからな、と言ってくれたから。



 あれから半年の時間が過ぎた。残念ながら大学は受け直しとなったが、別に試験など苦ではない。異世界で冒険する事に比べれば、ずっと楽だ。

 そう。今でも杏利は、時々あの世界での出来事を、夢なのではないかと思ってしまう。しかし、夢ではない。全てが事実だ。杏利は本当に、異世界で冒険をしてきたのだ。

 だが、もうあの世界に行く事は出来ない。もう杏利は、戦いと無縁のこの世界で、普通の人間として生きていくしかないのだ。

「杏利。準備は出来た?」

「うん。今日はちゃんと大学行くからね」

 今日は大学の入学式。しっかりと準備をして、玄関で靴を履く。

「行ってらっしゃい」

「気を付けてな」

 和幸と倉人も迎えに出てくれた。

「行ってきます」

 杏利は軽く笑いかけ、玄関の外に、一歩足を踏み出す。


 その時だった。周囲の木々がざわめき、突風が発生したのだ。


 いや、突風などという生ぬるいものではない。竜巻だ。突風が巨大な竜巻に変化したのだ。


「な、何だ!?」

「杏利!! 危ない!!」

 和幸は驚き、美晴は杏利を家の中に連れ込もうとする。

 しかし、杏利は動かなかった。

「この竜巻……」

 杏利は竜巻に、懐かしいものを感じていた。そうだ。規模こそ違うが、あの時もこんな竜巻が――。


 そう思っている間にも、竜巻は消えた。竜巻が消えて、代わりに翼を広げて宙に浮く、巨大な三つ首のドラゴンが現れた。


「ルカイザー!?」

 忘れるはずがない。魔科学が生んだ超古代兵器、竜帝ルカイザー。

「杏利!! 見て!!」

 美晴に促されて見てみると、杏利の目の前には、槍を持った白服の青年が立っていた。

「……杏利」

 青年は、信じられないものを見たといった顔をして、杏利の名を呼んだ。

「ゼド……?」

 杏利もまた、同じ顔をしている。この青年は、杏利とともに最終決戦を戦い抜いた、ゼド・エグザリオンだ。見間違うはずがない。

 という事は、彼が持っている槍は――。

「杏利~!!」

「エニマ!!」

 ゼドが持っていた槍は一瞬光ると、女子高生の姿に変わって杏利に抱き着いた。エニマだ。やはりあの槍は、エニマ・ガンゴニールだ。

「あ、あんた達、どうして……」

「わしの能力を忘れたか?」

 杏利が尋ねると、エニマは悪戯っ子のような笑みを浮かべて笑った。

 イノーザの戦艦ポルマーは、次元を渡る力を持っていた。そのポルマーと融合したイノーザを倒す事で、エニマはより強力な次元移動能力を手に入れた。その能力を使って、ゼドと一緒に会いに来たのだ。

「ここが、杏利の世界なの?」

「キリエ!!」

 杏利に会いに来たのは、エニマとゼドだけではない。キリエとウンディーネも。

「どうやら着いたようですね」

「い、異世界に来るのは初めてです……!!」

「すごい!! 本当に世界を越えたんだ!!」

 ロージットとマリーナとジェイクも。

「杏利様の世界には、私達の世界と同じ文明があるとお聞きしまして」

「ですが、見たところそれらしいものはありませんね……」

「どこかにあるんだろうさ。同じ文明といっても過去の話らしいからな」

「いずれにせよ、滅多に出来る経験じゃありませんよ」

「やっぱりついてきてよかった」

 サクヤとシンガとリュウマとシキジョウとアカガネも。

「杏利お姉ちゃん!!」

「せっかくだから、ルカイザーも一緒に連れてきたよ」

「本当に会えた!! やっぱり昔ながらの力ってすごいわ!!」

「うん! 私嬉しい!」

 アヤとチェルシーとティナとミーシャも。

「みんな来ちゃったの!?」

 杏利とともに戦った仲間達が、全員来ていた。

「な、なぁ杏利。この人達が、お前が言ってた、異世界の?」

「う、うん」

 和幸が困惑しながら、杏利に尋ねる。すると、ゼドは和幸に言った。

「あなたが杏利さんのお父さんですか?」

「え? あ、ああ、はい。そうですが……」

「娘さんを俺に下さい」

「……はあ!?」

 ゼドの突然の発言に、和幸は耳を疑う。

「い、今欲しいって言ったのか!? 私達の娘を!?」

「いかんぞ!! 絶対にいかん!! 見ず知らずの若者に、ウチの可愛い杏利を差し出すなんぞ!!」

 倉人も加わってきて、猛反対する。

「あ、杏利?」

 美晴は恐る恐る、杏利の顔を見た。杏利はほんのりと顔を赤くしていた。

「杏利ちゃん!! 考え直してちょうだい!! ダメよそんな急に!! お母さんまだ心の準備が出来てないのよ!!」

「ちょっと母さん落ち着いて!!」

 美晴はエニマを押し退けて杏利の両肩を掴み、反対しながら揺さぶる。

「おいゼド!! こんな事しとる場合じゃなかろうが!! 今わしらの世界は大変な事になっとるんじゃぞ!!」

「えっ?」

 エニマの口から飛び出したワードを聞いて、杏利はエニマを見る。


 続いて、空から巨大な円盤が、複数現れた。


「いかん!! 奴ら追いかけてきおった!!」

「ちょっとエニマ何なの!? どういう事か説明してよ!!」

 説明を求める杏利に、エニマが説明する。

 今からちょうど一ヶ月前に、別の世界からジュネッサーと名乗る敵が攻めてきた。戦いが長期化しそうだと思ったエニマは、自分の能力が強化されている事を思い出し、杏利に助けを求めてこの世界に来たのだという。

 その際ゼドに協力を頼んだのだが、それなら杏利の仲間達も一緒に連れていこうと提案され、全員ついてきてしまったのだ。

「俺達だけでは荷が重い。だが、お前がいるなら確実に勝てる。また頼ってしまって申し訳ないと思っているが、力を貸してくれ」

 本当なら、もう交わるべきではない。だがエニマも、ゼドも、キリエ達も、もう一度杏利とともに戦う時が来るのを待っていたのだ。

「もちろんよ!! ちょっと待ってて!!」

 杏利は美晴から離れ、自室に行く。

 少しして、杏利が戻ってきた。あの時と同じ制服に、マントを羽織っている。

「やっぱりこっちの方が気合いが入るわね」

 半年経ったが、まだ制服は着られる。その姿はまさしく、伝説の勇者、一之瀬杏利の再来。

「エニマ!!」

「うむ!!」

 エニマは槍に変わり、杏利の手の中に収まる。同時にオーディンアーマーを纏った。それから、杏利とゼドは頷き合う。


「「心想、顕現!!」」

「世界に降り注げ、黄昏の光!!!」

「布都御魂・護光剣聖!!!」


 互いの心想を発動する二人。杏利は振り替えって、自分の家族達に言う。

「行ってくるわね。ちゃっちゃとやっつけてくるから!」

「う、うん!」

「よくわからないけど、頑張れ杏利!」

「行ってこい!」

 家族達はエールを送った。

 杏利は自分の光で、全員を包む。


「行くわよ!!」

『おー!!!』


 勇者杏利とその仲間達は、新たな戦いに身を投じた。





 杏利を迎えた勇者軍団は、圧倒的な力を発揮し、侵略者達を一日で全滅させた。

 その後、リベラルタルと地球に異世界の存在が明らかになり、二つの世界は手を取り合って、発展の道を選んだ。その際、二つの世界の架け橋として、杏利とエニマは十二分の活躍をしたという。



 十年後。

 一人の少女が、野原に生える一本の木の木陰で、昼寝をしていた。

「やっぱりここにいた」

 そこへ、一人の女性が現れる。

「杏利!! おったか!?」

「うんいたいた。いつもの場所よ」

 杏利と呼ばれた女性は、別の女性に返す。

「こら。起きなさい」

 杏利は少女を起こす。少女は眠たい目をこすりながら、女性に言う。

「ママ?」

「こんなところで寝てたら、風邪引くわよ。そろそろゼドが帰ってくるわ」

 杏利は少女を立たせた。

「さ、あたし達も帰るわよ。イノーザ!」

「うん、ママ! エニマお姉ちゃん!」

 イノーザと呼ばれた少女は、杏利とエニマの間に入り、手を繋いで、家に帰っていった。

これにてレジェンドガール、終了です。

今回こそは、満足出来る結果になったと思っています。

ゼノアの影をちらつかせる事は、ボツにしようかなって思ってたんですけど、結局通しました。

ワールドイーターは様々な物語で暗躍する存在。だからもしかしたら、私が書く作品に、また出すかもしれませんので、ご容赦を。


さて次に書く作品は、『エクストリームガールズ!!』というタイトルにする予定です。この作品は、ギャグ小説にします。私が書ける限り、最高の出来にしますので、よろしくお願いします!


では、次回作でまたお会いしましょう!!

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