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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第五章 光の勇者
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弟七十二話 霧深き山の魔仙人 中編

前回までのあらすじ



長い!早く最終決戦書きてぇ!

 次に杏利が引きずり込まれた異界は、どこまでも荒れ果てた大地が続き、常に地震が起き続ける土の異界だった。

「ううっ!」

 あまりに揺れが激しく、立っていられない。しゃがみ込んでしまう杏利。

「どうした。この程度の震動にも耐えられんのか?」

 対するドードルは、杏利が立つ事も出来ない地面の上に、涼しい顔をして立っていた。

「そんな事では、何をされても対応出来んなぁ? はっ!!」

 ドードルが手をかざして気合一喝。地面が隆起しながら、杏利に向かってきた。

「くっ……スキルアップ!!」

 地面がこんなに不安定では、うまく避けられない。避けようと思ったら、真上に跳ぶしかない。

「そうだ。だがな!!」

 空中では動けない。

「アーガイズ!!」

 そこを狙って、ドードルは土属性の上級魔法を唱えた。広範囲に飛び散る無数の硬い土が、杏利を襲う。

(防ぎきれない!!)

 杏利が何らかの魔法を使って空中で移動が出来ないよう、拡散する魔法を使ってきた。ドードルの目論見通り、杏利は飛んでくる土塊の迎撃に四苦八苦し、防ぎきれずに叩き落とされた。

「どうしたもう終わりか!」

「ま、まだまだ……!!」

 杏利は立とうとしたが、揺れが邪魔で立てない。こんな不安定な場所で、まともに戦うなど到底不可能。

 こうなったら、空中で戦うしかない。杏利は以前にも空中戦を演じた事がある。その時の事を思い出して戦えば、或は……。

「コフィアイザー!!」

 まずは安定した足場を空中に作る。杏利はコフィアイザーを唱え、巨大な氷塊の上に飛び乗った。これで、地震の影響は受けない。

「それで我が異界の力から逃れたつもりか!! 甘いわ!!」

 地面から離れた程度の事で、魔仙人と呼ばれる者の力を攻略出来たと思うな。ドードルはそう告げると、全身から魔力を解き放った。

 すると、地面がさらに激しく鳴動し、ドードルの足元の土が競り上がってきた。

 いや、ただ競り上がったのではない。ゴーレムだ。地面が隆起し、巨大なゴーレムとなった。その大きさたるや、以前打ち倒したノアギガントと同等かそれ以上で、ドードルはその頭の上に乗っていて、あっという間に杏利を見下ろし返してしまった。

「さぁ、次はどうする!?」

 ドードルはゴーレムを操り、ゴーレムは巨大な拳を振り下ろす。

「コフィラナ!!」

 杏利は咄嗟に隣に別の足場を作って飛び退き、ゴーレムの拳をかわした。

 今杏利がいた氷塊は、ゴーレムの拳で粉々に破壊される。それなりの大きさと強度があったはずだが、一撃で木っ端微塵だ。

 どうにか回避には成功したが、まだ安心は出来ない。ゴーレムは氷塊の破壊に使った拳を横に振るい、また杏利を攻撃してくる。

 今度はゴーレムの拳に飛び乗る杏利。二つ目の足場も破壊されたが、それよりもっと大きな足場に乗ったから、もう必要ない。このまま、一気に頭まで駆け上がるのみ。

 と思っていた時、何かに掴まれたような感覚とともに、杏利の足が止まった。

 足がゴーレムの腕に埋まっていて抜けない。このゴーレムはドードルが土を操って作ったものなので、その全てを自在に操れるのだ。

 ゴーレムがもう片方の腕を振り上げ、自分の腕ごと杏利を叩き潰そうとしてくる。

(力比べじゃ勝てない!! だったら相性よ!!)

「ウイエルガ!!」

 杏利は自分を中心に風の結界を作り出し、ゴーレムの腕を二本とも吹き飛ばした。使われている魔力はドードルの方が上のはずだが、相性差というのは凄まじいものがある。

「まだよ!!」

 ゴーレムは両腕を失った。攻撃手段が激減したこの機を、逃すわけにはいかない。杏利は身に纏った風を操り、空を飛ぶ。

 天駆ける勇者は、あっという間にゴーレムの頭に到着し、槍に風を纏わせてドードルを突いた。

「ぐおっ!」

 素早く横によけようとするドードルだったが、杏利の刺突が予想以上に速く、左腕を斬り飛ばされる。

「……これで終わったとは思わない事だな。この程度の傷では、試練を突破したと認められない」

 手足を斬り落とされようが、魔法は使える。魔法を使える余地が全くない状態、つまり致命傷を与えて殺さない限り、試練は終わらないのだ。

「今の一撃で仕留められなかった事を、後悔させてやろう!!」

 そう言った瞬間、杏利が追撃を仕掛ける暇がないほどの速度で、ドードルがゴーレムの体内に消えた。

 直後、ゴーレムが爆発する。

「くっ!」

 飛び散る破片に跳び移りながら、どうにか安全圏まで逃れる杏利。

「逃しはせんぞ!! マウンテンプレッシャー!!!」

 破片の一つの上で、ドードルが叫んだ。

 すると、飛び散っていた土の破片が、ドードルの破片に集まっていく。地面からも大量の土が引き剥がされ、やがて巨大な山が出来上がる。

「さぁ今度はどうする!?」

 ドードルを乗せたまま、山が降ってきた。

 先程のゴーレムを遥かに上回る大きさの山だ。走って逃げようにも、大地は相変わらず震動を続けていて、立つ事さえままならない。

(逃げるのは無理!! なら……!!)

 その逆。攻撃する。

 今のやり取りで、ドードルの土属性魔法は、風属性魔法ならさして魔力を使わずとも、打ち破れるという事がわかった。

(今度も同じ手でいけるはず!!)

「ウイエルガ!!!」

 ウイエルガを唱え、全身に風を纏い、杏利は飛ぶ。杏利を中心に螺旋を描くその風は、さながら巨大なドリルだ。

 間もなく風のドリルは山に突き刺さり、掘削するように抉っていく。

(いける!! このまま貫いてやる!!)

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 杏利が魔力を強めると、回転速度が上がり、さらに早く山を削っていく。

「うおああああああ!!」

 その勢いを維持したまま、杏利はドードルを攻撃する。ドードルは土くれとなって崩れ去り、杏利は元の世界に帰還した。



「ドードルも撃破したか。思ったよりやるな」

 残った三人の魔仙人が、杏利に評価を下す。杏利は三人に尋ねた。

「あんた達、手を抜いてるわね?」

 もしドードルが本気だったら、最初の火の試練の時のように、弱点属性とはいえ杏利の魔法は破られていたはずだ。しかし、それはなかった。ならば、手を抜いているという事になる。

「我々の戦いは、殺し合いではなく試練。試練とは突破出来るからこそ試練なのだ」

「故に我々は、相手が突破出来るよう力を調節している」

 魔仙人達は、最初から戦ってなどいなかった。ただ試練を与えていただけだったのだ。死ぬのは相手の力が足りなかったからだが。

「不服か? だがそんな生意気な口も、もうすぐ叩けなくなる」

 そう言って、緑の装束を着た魔仙人が来る。

「我々の試練は相手に合わせて難易度を変える。破れば破るほどに後半の試練は激化し、生の有り難みを知る事になるだろう。もっともここから先の安堵を得るには、この暴嵐のムオルを倒さねばならんがな!」

 五人目の魔仙人、ムオルが手を叩く。

 一瞬世界が発光したと思った時、杏利は空に雷雲が立ち込め、大風が吹く、荒野にいた。

「俺は雷と風の二属性を極めた魔仙人!! 生み出した異界は嵐の異界!!」

 ムオルは雷と風の魔仙人。これまでの魔仙人と違い、二つの属性の魔法を使う事が出来る。

「くっ……!!」

 吹いている風が強く、飛ばされそうだ。必死に耐える杏利。

「じっとしていていいのか? 足元を見てみろ!」

「!?」

 ムオルに指摘されて、杏利は足元を見る。

 彼女の足元の地面だけ、他の地面と違う。杏利を中心に、円上に赤く変色しており、しかも色が段々と濃くなっていっていた。

(よくわからないけど、やばい!!)

 杏利は力を抜いて大風に身をまかせ、後ろに下がった。同時に地面の色が真っ赤に染まる。

 すると、空から雷が落ちてきて、ちょうど杏利が先程までいた地面を吹き飛ばした。

「まさか!?」

 杏利は再び自分の足元を見る。今杏利がいる地面も、徐々に赤く変色していた。

 この異界では、同じ場所に長く留まっていると、雷が落ちるのだ。この変色は、その合図。色が真っ赤に染まった時、その地面に雷が落ちる。なかなかの威力があり、体力を温存する為にも喰らえない。

「うっ!」

 急いで避ける杏利。また雷が落ちた。

 行動は風に邪魔され、かといってじっとしていれば落雷を喰らう。

「スパレイズ!!」

 おまけにムオルも攻撃してくる。なかなか、難易度が高い試練だ。

「マジックガード!!」

 雷魔法をかわした杏利は、かわしきれなかった時の保険として防御魔法をかける。

 攻撃の回避自体は、実はそれほど難しくはない。何度も言うが、この異界の中は常に暴風が吹き荒れており、それが吹く方向に身をまかせながら飛び退けば、ムオルの魔法や落雷は大体回避出来る。

 しかし、やはりというかなんというか、この風、ただの暴風ではない。

 具体的に言うと、必ずムオルから離れるように吹いているのだ。従って、回避してばかりいると、ムオルからどんどん遠ざかってしまい、最後にはムオルに攻撃を当てられない所まで下がってしまう。

(まずは邪魔な風をどうにかしない事にはね……)

 風さえなければ、杏利はスイスイ進める。

 この場合最も有効な作戦は、風よけを作る事だ。土魔法なり氷魔法なりで壁を作り、その壁で風を防ぎながら進めばいい。

 しかし、それだけでは駄目だ。壁を作れば、視界が制限されてしまう。壁の向こうから、壁と杏利を一撃で消滅させられる攻撃でも撃たれたら、成す術もなくアウトである。

(……まだ、届くわよね?)

 だが、そこは天才杏利。考えもなしに、風よけを作ったりはしない。

「アーガイズ!!!」

 杏利は地面に手を着き、土に干渉して壁を作った。

「何!?」

 ムオルの後ろに。

 正面に作れば壁ごと狙い撃ちにされるだけだが、ムオルの後ろに巨大な壁を作ってしまえば、風よけとして機能し、なおかつ視界も塞がれない。この隙に、杏利は駆け出す。今杏利がいた場所に、雷が落ちた。あと少し留まっていたら、脳天に落雷を受けていたところだ。

「考えたな。だが、壁に使った魔法がまずかった!」

 壁は土属性である。従って、ムオルが得意とする風属性の魔法には、簡単に破壊されてしまう。

(もっとも氷魔法で作ろうと、氷属性の弱点である雷属性の魔法で破壊したのだがな)

 例え氷属性が相手だろうと、その弱点を突ける。こういう点で、二つの属性を極めているというのは便利だ。

「ウイエルガ!!!」

 ウイエルガを唱えるムオル。かなり大きな壁である為、点ではなく面、効果範囲を広げて放つ。

「何だと!?」

 だが、壁は消えなかった。その理由は、壁の後ろにもう一枚、全く同じ規模の土壁が作ってあったからである。

 いや、一枚だけではない。二枚、三枚、四枚と、土壁が複数枚、重ねて展開されていたのだ。

(読み通り!)

 杏利は先程アーガイズを唱えた時、一度に五枚の土壁を作った。一枚作っただけでは、すぐに壊されて反撃されてしまう。しかし後ろに複数枚作っておけば、後ろの壁が攻撃を軽減し、少なくとも一撃では破壊されなくなる。

 加えて、ムオルが面の攻撃で壁を壊そうとするのも、杏利の読み通りだった。杏利が作った土壁は非常に大きい為、普通に攻撃しても、まぁ破壊自体は出来るだろうが、風よけとしての機能を奪う事は出来ない。となれば、面の攻撃を仕掛けざるを得ない。

 しかし面の攻撃を仕掛ければ、貫通力が落ちる。そうなると、後ろにある壁は破壊出来ない。相応の魔力は使ったが、これで例え魔仙人が相手であろうと、一撃では機能を喪失しない風よけが出来た。

「センスアップ!!」

 杏利はムオルが驚いている間に、センスアップを使って走る速度を上げ、一気に接近する。

「サンダーストーム!!!」

 杏利の接近に焦ったムオルは、広範囲をまとめて吹き飛ばすオリジナル魔法、サンダーストームを唱えた。雷を織り混ぜた竜巻が、杏利を吹き飛ばす。

「リフレック!!」

 と思いきや、杏利はキリエから習った魔法反射魔法、リフレックを使い、サンダーストームを跳ね返した。

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 巻き込まれるムオル。さらに杏利は恐れずに嵐へ飛び込み、ムオルを槍で斬った。ムオルは自分の作り出した嵐の中に消える。

「最初はちょっと驚いたけど、頭を使えばそれほど苦戦する相手でもなかったわね」

 二つの属性を極めた魔仙人でも、杏利の軽口を黙らせる事は出来なかった。



「見事な知略の持ち主よ」

 残る魔仙人は、あと二人。元の世界に戻った杏利を、片方の魔仙人が称賛した。

 ムオルは火力自体は今まで戦った魔仙人の中で一番高く、杏利が頭のいい天才でなければ攻略出来なかった相手だろう。ムオルがまだ杏利の魔法の効果範囲にいた事も、杏利にとって大きかった。もしもう魔法が届かない所にいたら、魔法を無駄撃ちしながら戦わなければならなかったところだ。あっさり倒せたので本当に魔仙人かと疑うところだったが、冷静に考えた杏利は背筋に寒気を走らせた。

(まだ心想を使えるけど、それは最後まで残しておかなきゃね。だって、魔仙人はあと二人もいるんだもの)

「さぁ、お次は誰かしら? どうせあたしは全員相手にしなきゃいけないんだし、さっさと始めましょうよ」

「では、次は我が行こう」

 そう言って岩から降りてきたのは、灰色の装束を着た魔仙人だった。

「既に察しておるかもしれんが、我ら七魔仙人は九大属性をそれぞれ極めている」

「みたいね。それは二人目の水使いで気付いたわ」

 これまで杏利が戦った魔仙人は、火、水、氷、土、風、雷の六属性を極めていた。残るは無属性と、光属性と闇属性だ。

「さしずめあんたは無属性使いで、最後に戦わされるのは光と闇の二属性使い。で、そいつがあんた達の長ってところかしら?」

「いかにも。我は無属性を極めし魔仙人、無型のゴラベルグ」

 杏利の予想通り、この魔仙人は無属性使いだった。

「では汝を、我が闘技場へと案内しよう」

 ゴラベルグと名乗った魔仙人は手を叩き、巨大なコロシアムのような異界へと杏利を誘う。

「ここが無の異界。これより始まるは、汝が我らの長に挑めるだけの力量を持つか見定める為の、審査である」

「審査だけに決闘。その為の闘技場ってわけね」

 ゴラベルグを倒せば、グランドストーン獲得まで、目前である。

「いいわ、やってあげる。観客が一人もいないのが残念だけどね!」

 杏利は槍を構えた。

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