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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第一章 杏利の旅立ち
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第六話 覇者のルビー

前回までのあらすじ


いろんな意味で衝撃を味わった杏利は、覇者のルビーという宝石と、それを守るモンスターの話を聞いた。

 翌朝。宿屋をチェックアウトした杏利とエニマは、トフナの町行きの馬車を見つけて乗った。

「まさかあたし達と同じ目的の人がいるなんてね」

 馬車に揺られながら、杏利は目の前の女性に話し掛けていた。ローブに三角帽子という、いかにもな感じの魔法使いだ。

 彼女の名はキリエ・マトリック。武者修行の旅をしている、魔法使いだ。彼女もギルドには登録しておらず、ただ腕試しの目的でトフナの町に向かっているという。喋る槍のエニマにかなり驚いていたが、三人はすぐ意気投合した。

「でもいいの? 手に入れたら世界の覇者になれるルビーよ?」

「だってルビーが私のものになるわけじゃないもん」

 キリエの話だと、覇者のルビーを欲しているのはアスベルで、その為にギルドにクエストを貼り出してある。アスベルは真面目な人物なので、ルビーの力で覇者になるつもりはないだろう。きっと魔王に対抗する為の力にするのが、目的なはずだ。

 従って、モンスターを倒しても、ルビーは冒険者達のものにはならない。多額の報酬が支払われるだけだ。

「お金は充分だし、私はとにかく強くなる事が目的で旅をしてるから」

「無欲ね。でももしあたし達みたいな人間が、ルビーを守ってるモンスターを倒したら、その時はどうしたらいいの?」

「その時は、報酬の受け取りを辞退すればいいだけ。自分はいらないから、みんなで山分けして下さいってね」

 そんな適当な事でいいのかと杏利は不安になったが、ここはまぁ詳しい人間に従うべきだろう。

「しかし、覇者のルビーか……」

「どうしたの?」

 エニマは覇者のルビーという単語に、何か引っ掛かるものを感じているらしい。

「いや、ずいぶんと虫のいい話だと思ってな」

 手に入れれば世界の覇者になれる宝石。それがこんな近くで見つかったというのが、どうにも引っ掛かる。

「別に、偶然じゃないの?」

「だといいんじゃが、何かとても大切な事を忘れている気がするのじゃ」

「現物を見たら思い出すわよ」

 杏利は、特に危険を感じていない。自分達は強いし、ガンゴニールストライクだってあるのだ。

「それにしてもすごいわね……ラディス国の伝説の槍、エニマ・ガンゴニール。初めて見たわ」

 リベラルタルでも喋る武器は珍しいので、杏利はエニマの事と、自分が異世界から来た事を話してしまった。過去に事例があるので、話しても別にいいのだ。

「すごいでしょ? あたしも初めて見た時はすごくびっくりしたわ」

「ふふん。もっと驚け」

 キリエに驚いてもらえて、エニマは得意げだ。



 トフナの町には、ラマスビレッジから馬車で半日ほど行けば着く。

「わあ……」

 馬車から降りた杏利は感嘆の声を上げた。あちらこちらに、戦士や魔法使いなど、様々な冒険者がいるのだ。これは全員、今回のモンスター討伐クエストに参加する冒険者達である。これだけたくさんの人数がいると、さすがに壮観である。

「モンスター討伐クエストに参加する者は、ここに集まってくれ!」

 しばらく見ていると、一番偉いと思われる戦士が、冒険者達に招集をかけた。

「今から、覇者のルビーを守っているモンスターを討伐しに行く。人数の確認がしたいから、その場から動かないように」

 戦士が指示を出すと、紙を持った女性が何人か出てきて、冒険者達に何か話し掛けながら、書き込んでいく。恐らくあの戦士と女性達はギルドの関係者で、参加者の名前を確認しているのだろう。

「お待たせしました。お名前をお願いします」

 杏利とキリエのところにも女性がやってきた。

「あたし達、ギルドには登録していないんです」

「民間協力として参加しに来ました」

「まあ……問い合わせてきますので少々お待ち下さい」

 女性は民間協力者が現れた場合どうするかを確認する為、戦士のところに行った。

 一分くらい何かを話した後、新しい紙をもらって女性が戻ってくる。

「参加の許可が下りました。クエスト終了後に特別報酬をお支払いしますので、お名前をお願いします」

 結局名前を記入するのは変わらないらしい。仕方なく杏利とキリエが名前を言うと、女性は記入して別の冒険者の確認に戻った。

「ではこれよりモンスター討伐に向かう!」

 戦士が先頭に立ち、一同を覇者のルビーがある場所へと誘う。杏利とキリエは、戦士についていった。



 トフナの採掘場。トフナの町から歩いて二十分程度でたどり着ける場所で、その名の通り鉱石の採掘が行われる所だ。

 新しい鉱石を探して採掘を続けていたところ、謎の空洞を掘り当ててしまい、そこには覇者のルビーとそれを安置してある祭壇があり、そして、それらを守るモンスターがいたという。

「ふーん……なんか結構、それっぽい話ね」

 ゲームでもよくある話だ。しかし、モンスターが守っていて近付けないのに、どうしてそれが覇者のルビーだとわかったのだろうかと杏利は気になり、キリエに尋ねた。

「覇者のルビーはすごく大きいって伝えられてるの。伝説によると、一メートル以上あるらしいわ。そんなルビー、この世界にもないわよ」

 なるほど。それだけ大きければ、調べなくても遠くから見るだけで、覇者のルビーと断定出来る。

「みんな! そろそろ、覇者のルビーがある空洞だ! 気を引き締めて行け!」

 戦士が号令を掛ける。杏利はエニマから加護を受け取り、問題のモンスターとの戦いに備えた。


「突入!!」


 空洞への入り口が見えた瞬間に戦士が再び号令を掛け、杏利達は一気に駆け出す。そのまま声を上げて、一同は空洞の中へと躍り込んだ。


「えっ? あれ?」


 しかし、杏利は立ち止まって周囲を見回す。なぜなら、そこにはモンスターなどいなかったからだ。影も形もない。

「ちょっとどういうこと!? モンスターなんてどこにもいないじゃない!」

 せっかくモンスターを倒しに来たのに、これでは詐欺だ。抗議の声を上げる杏利。

 だが、杏利の声に耳を貸す者は、誰一人としていなかった。全員ある一点を見たまま、微動だにしない。

「ねぇ聞いてるの!? 何を見てるのよ!?」

 怒りながら、杏利もまたそれを見る。

 そこにあったのは、ルビーだった。真紅に輝き、妖しげな光をこの空洞全体に満たす、一メートルを越える巨大なひし形のルビーだった。

「あ、あれが、覇者のルビー……」

 その巨大さと輝きには、杏利すらも畏怖の念を抱いた。

「綺麗……」

 古代より幾多の国の王が、覇者となるべく争い、奪い合ってきた宝石。これだけの代物なら、殺し合いが起きるのも頷ける。杏利はいつの間にか、率直な感想を口にしていた。

「ああ、綺麗だ」

「なんと美しい……」

「これが覇者のルビーなのね……」

「素晴らしい!」

 他の者も次々と、ルビーの美しさを讃え出す。


 しかし、ただ一人だけは違った。正確には、一本と言うべきか。


「――杏利!! 杏利ッ!!!」

 鋭い叱責を飛ばすエニマ。杏利は我に返った。

「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてた……」

「よかった。正気に戻ったか。杏利、今すぐあのルビーを破壊しろ!」

「えっ? どうして?」

「いいから早く!! 手遅れになるぞ!!」

 エニマは杏利の注意を自分に向けさせるや否や、突然覇者のルビーを破壊するよう言ってきた。意味がわからないが、何やらすごく焦っている。

「わ、わかった!」

 今までにない慌てように、ただ事ではないと感じ取った杏利は、エニマを構えて跳躍し、

「はぁっ!!」

 覇者のルビーに向けて刺突を繰り出した。


 その時、杏利が予想もしていなかった事態が起きた。


「えっ!?」

 突如として覇者のルビーが浮き上がったのだ。まるで杏利の攻撃に対して、回避行動を取るかのように。

 刺突を避けた覇者のルビーは、今さっき杏利達が入ってきた空洞への入り口を塞ぐように降り立ち、強く発光した。

 光が消えた時、そこには頭から二本の角を、背中から二枚の羽を生やす、全身真っ赤な悪魔が立っていた。

「モ、モンスター!?」

「やはりそうじゃったか。今ようやく思い出したぞ。こやつはジュエルデーモン。七百年前、魔王グライズが造り出したモンスターじゃ」

 ジュエルデーモンとは、七百年前魔王が世界を侵略する為に造ったモンスターである。

 宝石に変身する能力と、人間やモンスターの心を操る能力を持っており、自分を宝石に変えることで魅惑された人間達を殺し合わせ、残った魂を食らう、大変に危険なモンスターだ。

「七百年前に全滅させたと思っておったが、どうやら一匹残っておったらしい。手に入れた者を世界の覇者にするルビーなど、こいつがでっち上げたウソじゃ」

 非常に頭の回るモンスターで、操った人間に、自分を手に入れれば世界を支配出来るだの、どんな願いでも叶うだのなどと嘘を吹き込み、より多くの獲物を集める。ジュエルデーモンの常套手段だ。

「エニマ・ガンゴニール。まだ朽ち果てていなかったとはな」

 ジュエルデーモンは忌々しげにエニマと、新たな勇者杏利を睨み付けた。情報操作に長けたモンスターなので、当然情報収集も得意。とはいえ、エニマが封印された事は知っていたが、復活した事は知らなかった。エニマがまだ暴れ回っていた頃、ほとぼりが冷めるまでここに自身を封印していたのだ。それを人間が掘り出したのでまた動き出したのだが、とんだ封印損である。

「しかしもう手遅れだ。ここにいる連中の心は、俺の幻惑の宝光で掌握してある!」

 先程ルビーに変身していたジュエルデーモンが放っていた光。あれはジュエルデーモンの固有能力、幻惑の宝光である。あの光を見た者は、ジュエルデーモンに心を操られてしまうのだ。

「人間ども。お前達は名声が欲しいか? 己は強いという自負が欲しいか?」

 ジュエルデーモンは冒険者達に問いかける。今まで何らかの方法で幻惑されなかった人間を、こんな風に周りの人間に暗示を掛けて始末してきた。

「ならばそこにいる女を殺し、槍を壊せ!! 槍の勇者を討ち取って、己の名を上げるがいい!!」

 ジュエルデーモンが命じた瞬間に、冒険者達が自分の武器を一斉に杏利に向け、ジリジリと迫ってきた。

「うまい話には、裏があったってわけね……!!」

 ここで殺されるわけにはいかない。杏利は生き延びる為、エニマを力強く握って構えた。

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